第158回日医臨時代議員会

新たな感染症拡大時における日医の立ち位置について
~禹府医副会長が代表質問~

 令和7年3月30日(日),日医臨時代議員会が開催され,松本日医会長の挨拶の後,令和7年度事業計画および予算について報告されるとともに,日医理事の選任が行われ,加納康至氏(大阪府医会長)が選任された。また,同日の代表質問では,近畿ブロックを代表し,禹府医副会長が質問に立ち,新たな感染症拡大時における日医の立ち位置について日医の見解を求めた。
 冒頭,挨拶に立った松本日医会長は,医療界が直面する様々な課題について言及。ひっ迫する医療機関経営を鑑み,補助金による早期の対応と診療報酬での安定的な財源確保が必須だと強調した。また,新たな地域医療構想や医師偏在対策,かかりつけ医機能が発揮できる制度整備への対応を進める上でも,対外的に医師のプレゼンスを高めるための組織強化の充実は必要不可欠だと指摘し都道府県医師会のさらなる協力を求めた(挨拶全文は後述)。

■ 厳しい財政状況の中でも「安全性・公平性を損なわないバランスの取れた政策」が必要

 松本日医会長は挨拶の中で,国民生活を支える基盤として,「必要かつ適切な医療は保険診療で確保する」という国民皆保険制度の理念を今後とも堅持すべきであり,給付範囲を縮小すべきではない,と改めて強調するとともに,高齢化の伸び等により財政が厳しい状況の中でも,安全性や公平性を損なわないよう慎重な議論とバランスの取れた政策が求められると述べた。

■ 日医の新理事として大阪府医師会の加納会長を選任

 第1号議案では,日医理事の選任について上程され,立候補者が定数どおり1名であったため,加納康至氏(大阪府医師会長)が挙手多数により選任された。

■ 「第 32 回日本医学会総会」が大阪で開催

 「医学のレジリエンス~未来への挑戦と貢献~」をメインテーマに掲げ,2027年4月に大阪で開催される『第32回日本医学会総会』について,会頭の澤芳樹氏(大阪大学大学院医学系研究科,大阪けいさつ病院)より開催案内が行われた。
 ポストコロナと少子高齢社会という状況を踏まえ,多くの医療関係者が医学・医療の最先端を学び,その全体像を俯瞰し,デジタル革命の技術革新が医学・医療をどのように変えていくかを,「医学のレジリエンス~みらいへの挑戦と貢献~」という観点から認識を共有したいと述べ,全国各地からの多くの登録・参加を呼びかけた。
(参考:第32回日本医学会総会
    WEBサイト https://isoukai2027.jp/

代表質問

禹府医副会長が「新たな感染症拡大時における日医の立ち位置」について代表質問
~医療現場の声を速やかに国に伝え,政策判断に生かされるよう全力で取組む~

 近畿ブロックからは,禹府医副会長が代表質問に立ち,「新たな感染症拡大時における日医の立ち位置」について日医の見解を求めた。

禹 府医副会長

 禹府医副会長は,新たな新興感染症の拡大時の対応として,今後は新たに設置された「内閣府:感染症危機管理統括庁」が中心となるが,その際,日医の立ち位置が明確ではないと指摘。感染症治療の最前線で闘う医療従事者の代表として医師会の立場でしっかりと発言し参画できる場が確保されるのか,国に対する日医のアプローチについての見解を求めた。
 これに対し,答弁に立った釜萢日医副会長は,次なるパンデミックに備え「内閣感染症危機管理統括庁」,「国立健康危機管理研究機構(JIHS)」を設立し,感染症の情報が集約されるようになる。今後も有事の際には医療者が参画する会合が開催されると予想していると答える一方で,有識者による会議で合意された内容と政府の政策判断は常に一致するものではなく,政府の責任において政策が選択されることを改めて確認したいと指摘。今後は政府の指揮系統が統括庁とJIHSにより取りまとめられることとなるが,日医としても協力要請に応じ,新たな会議体に全力で参画したいと考えていると強調した。

釜萢 日医副会長

 また,日医は平時から厚生労働省の感染症部会などに構成員として参画し,予防接種や感染症危機管理に関係する審議会で意見を述べる立場にあり,医療現場のリアルタイムな状況を把握しやすい立場にあると述べ,平時における発言を通じて,審議会の他の構成員や担当省庁の信頼を得ることが極めて重要であり,さまざまな手段を駆使して直接国民に必要な情報を届けるとともに,さまざまなレベルで政府や国会議員に医療現場からの声を速やかに伝え,政策判断に生かされるよう引続き全力で取組みたいとの見解を示した。

 その他,ひっ迫する医療機関経営への対応や診療報酬改定,医療DX,新たな地域医療構想,かかりつけ医機能報告制度などに関する質問が出された。詳細は日医ニュースNO1525(2025年4月20日号)を参照ください。

松本日医会長 挨拶

1.医療機関経営の危機的状況の改善に向けて

 賃金上昇と物価高騰,さらには日進月歩する医療の技術革新への対応には,十分な原資が必要であり,補助金や診療報酬による機動的な対応も行わなければならない。
 これから令和8年度診療報酬改定に向け,「骨太の方針2025」の議論が本格化する。医療の危機的な状況を打開するために,「骨太の方針2025」の取りまとめに向けて3つの対応が必要である。
 1つ目は,「『高齢化の伸びの範囲内に抑制する』という社会保障予算の目安対応の廃止」であり,「骨太の方針2024」の本文に記載された「経済・物価動向等に配慮しながら」という文言ではまだ弱く,財政フレームを見直して別次元の対応とする必要がありさらに強めた文言とするよう,全力で政府・与党に要望している。
 2つ目は,「診療報酬等について,賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入」である。現在の医療機関の経営状況では賃上げは到底不可能であり,このままでは人手不足に拍車がかかり患者さんに適切な医療の提供ができなくなる。医療・介護業界でも他産業並みの賃上げができるよう,賃金物価の上昇を踏まえた仕組みの導入が必要である。
 3つ目は,「小児医療・周産期体制の強力な方策の検討」であり,小児医療・周産期体制については著しい人口減少により対象者が激減しており,全国津々浦々で対応するための強力な方策の構築が必要である。

2.組織強化

 組織強化については日医会長に就任して以来,力を入れて取組んできており,その結果として2024年7月末には初めて会員数が17万7,000人を突破した。さらに組織強化の一環として,新たに医師会会員情報システム「MAMIS」を構築,2024年10月から導入を開始し,12月末までに全国の医師会に導入されている。これまで行ってきた入会・異動等の手続きをWeb上で行えるようになり負担が軽減され,従来は異動時の手続きの煩雑さが退会検討理由の一つになっていたが,MAMISの導入で解消に向かうものと考えている。今後は入会促進ツールの一つとしても活用を進めていく。
 医師会組織強化の眼目は,現場に根差した提言をしっかりと医療政策の決定プロセスに反映させていく中で,医師の診療・生活を支援し,国民の生命と健康を守ることにあり,対外的にも医師会のプレゼンスを一段と高められるよう,組織強化に努めていく。

3.新たな地域医療構想

 新たな地域医療構想については,新たに「医療機関機能報告」が加わるが,2025年度に国で関係ガイドラインを作成し,都道府県においては2026年度に新たな地域医療構想の策定,2027年度以降に順次取組を開始予定となっている。日医からは介護との連携なくして医療提供体制の議論は完結しないとの考えから,地域医療構想に介護を含めるよう提案し,介護事業を運用する市区町村行政の調整会議への参画が明示されるなど,そのコンセプトは実現している。また,現行の「回復期機能」に代えて,高齢者救急等を受け入れ,リハビリ・栄養・口腔管理の一体的取組等を推進,早期の在宅復帰等を提供する「包括期機能」を提案し,実現に至っている。

4.医師偏在対策

 医師偏在対策について,「重点医師偏在対策支援区域」を対象とした「医師偏在是正プラン」の策定や,外来医師過多区域における新規開業希望者に対する地域で必要な医療機能の要請など,各地域での実効性ある取組が求められている。日医としては,2024年8月21日に医師偏在対策に対する6項目の提案を行い,これにより議論が相当進み,12月25日には,厚労省から「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」が公表され,総合パッケージには日医の提案内容が概ね盛り込まれており,基本的には評価できると考えている。
 今回の総合パッケージでは,「医師偏在は一つの取組で是正が図られるものではない」と認識した上で,「経済的インセンティブ,地域の医療機関の支え合いの仕組み,医師養成課程の取組等の総合的な対策」を基本的な考え方にしており,中堅・シニア世代に対する,総合的な診療能力などのリカレント教育にも,日医としてしっかり取組む。

5.かかりつけ医機能が発揮される制度整備

 2025年4月より,かかりつけ医機能報告制度が施行され,地域における面としてのかかりつけ医機能のさらなる発揮に向けた取組みが始まる。かかりつけ医はあくまで国民が選ぶものであり,財務省等が主張するように「国民にかかりつけ医を持つことの義務付け」や「フリーアクセスの阻害につながるかかりつけ医の制度化」には明確に反対である。地域を面で支えるためにも,かかりつけ医機能報告制度には,多くの医療機関に手を挙げて参画いただきたい。一方で,医師も自ら「かかりつけ医」として選ばれるよう研鑽を積み,国民に理解いただくことも重要で,日医としては「かかりつけ医機能報告制度にかかる研修」を新設し,地域に根差して活動をされている医師の経験も十分考慮した上で,研修修了者に対して修了証を発行する予定である。

6.医療 DX

 医療DXについては,国民・患者の皆様への安全・安心でより良い医療の提供と,医療現場の負担軽減に資するものでなければならないと考えている。加えて,ITに不慣れな方であっても日本の医療制度から国民も医療者も誰一人取り残すことがあってはならず,拙速になることなく現場の状況を見ながら着実に進めていくことが重要である。今後も,医療機関の業務負担,費用負担を減らすための医療DXとなるよう尽力していく。

7.医薬品をめぐる最近の状況

 医薬品の安定供給については,これまで日医が主張してきたドラッグロス・ラグの解消,医薬品供給網の強化や供給に関する情報共有の促進,後発医薬品の安定供給の確保などの施策を進めるために,厚労省は薬機法改正案をとりまとめ,現在通常国会に提出されている。特に製薬企業への供給計画の義務付けや流通管理の厳格化は重要な改正事項である。しかしながら,依然として医療現場で医薬品供給不安が続いており,さらなる実効性の向上や迅速な対応が求められるため,補助金等の十分な予算措置も含め,現場の声を踏まえた意見・要望をしっかりと国へ伝えていく。
 一方で昨今,社会保険料を下げることを目的に,OTC類似薬の保険適用除外を求める動きが見受けられるが,日医としては,医療機関への受診控えによる健康被害や自己負担の経済的増加,薬の適正使用が難しくなるといった問題点があると指摘し,重大な危険性がともなうとして強い懸念を表明している。
 保険料を支払っているにもかかわらず保険を使えなくなり,結果として自己負担が増えることや薬の適正使用が難しくなる仕組みは,国民にとって望ましいものではない。その結果,国民皆保険から離脱する若者がでるなど,相互扶助である公的医療保険制度の根幹を揺るがす問題に発展する懸念さえある。

8.7月の参議院選挙

 7月に予定されている参議院議員選挙は,「医療の未来を左右する重要な選挙」であり,日本医師連盟は,この参議院議員選挙に釜萢敏日医副会長を組織内候補として擁立することを決定している。
 釜萢日医副会長は,6期11年にわたり日医常任理事・副会長として幅広い業務を担当され,医師会業務に精通し,特に新型コロナウイルス感染症対応では,アドバイザリーボード構成員等を務められるなど,医療界の主張を代弁していただいた。また,地域医療に携わり地域医療が抱える課題にしっかりと取組んでいただくとともに,幅広い人脈も持たれている。今後も新たな人脈を築いていかれるとともに,さらには行動力,決断力もあり,余人をもって代え難い存在である。会員をはじめ多くの皆様に絶大なる応援をお願いしたい。

~最後に~

 財政健全化の立場から「大きなリスクは共助,小さなリスクは自助」との主張も一部にあるが,日医はそれに反対している。国民生活を支える基盤として,「必要かつ適切な医療は保険診療で確保する」という国民皆保険制度の理念を今後とも堅持すべきであり,給付範囲を縮小すべきではない。
 低所得者層の貧困化も社会問題となる中,所得などによって必要な医療を利用できる患者とできない患者との間で分断を生み出してはならない。日医はこれまで,「税金による控除」,「保険料による共助」,「患者の自己負担による自助」の3つのバランスを取りながら進め,自己負担のみを上げないこと,あわせて,低所得者への配慮が重要であることを主張してきた。高齢化の伸び等により財政が厳しいことも承知しているが,安全性や公平性を損なわないよう,慎重な議論とバランスの取れた政策が求められる。
 今後とも国民の生命と健康をしっかりと守るべく,執行部に対して絶大なる支援をお願いする。

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