2020年11月1日号
調査期間: 2020年8月17日~9月4日
対 象: 各地区医師会 在宅医療担当役員他
府医在宅医療・地域包括ケアサポートセンターでは,在宅医療推進に向けて問題点を共有し,共通認識の醸成を図ることを目的に京都在宅医療戦略会議を定期開催しております。このたびの新型コロナウイルス感染症蔓延により3月から開催できない状態が続く中,感染蔓延により直面する問題点をアンケート調査し,課題の共有と解決に役立てたいと考えました。各地区医の先生方におかれましてはご多忙中急な依頼にも関わらず,丁寧にご回答いただき誠にありがとうございました。アンケートは<診療上の直接的な問題>と<在宅医療全般への影響>について自由記載でご回答いただきましたが,前者につきましては①感染予防,②患者が感染(発熱)したら,③医療・介護関係者が感染したら,に分けて概略をまとめてみました。
①感染予防
在宅療養者はそうでない方に比べ,介護サービス先を除くと外出の機会が限られており,医師を含めた訪問者から在宅療養者へ感染させることがないよう注意しなければなりません。そのためにも,一般診療・在宅診療を問わず,自分が感染して患者さんへの感染源とならないよう苦心されている様子がアンケートからうかがえます。「自分の健康管理は厳密に行っておりますが,不顕性感染に陥っており社会悪の源になっていないかという不安が常につきまとっています」,「標準予防策をして往診しているが,診療所での通常診療後に行くことが多いので自分が運び屋になっていないか心配」,「日常診療で発熱患者を診ており,いつ何時自分がメッセンジャーになり得るかわからない状況」,「訪問することで医療サイド(医師や看護師)がコロナウイルスを持ち込んでしまう可能性があり心配」,「標準予防策を実施,手指,診療時に使用する物品の消毒を毎回実施する」など多数のご報告がありました。「医療者が定期的にPCR検査を受けることができれば心配が緩和できる」というご意見も同様の主旨と考えられます。しかし,「在宅医療の場合,患者と接する時間が自ずと長くなる」,「難聴や体動困難な方は診察時どうしても密になりやすい」,「本人の判断能力によっては感染予防策を理解いただくことが難しい」など在宅医療がいわゆる「3密」を避けがたいという特性が浮かび上がりました。その他,感染防御資材が医師もですが訪問看護・訪問介護で不足しているというご指摘がありました。
一方,患者さんが感染した場合,訪問する医療・介護関係者に感染する可能性があり,万一感染してしまった関係者がさらに他の在宅療養者や関係者に感染を広げることがあってはならないとの緊張感がアンケート結果から伝わります。そのために,「発熱がないかどうか,事前に電話で確認し,発熱がある患者は最後に訪問する」等様々な回答が寄せられています。ご本人の状況だけでなく,本人に感染させる可能性のある関係者がどのような状況であるか,タイムリーな情報交換が重要であるというご意見が多数ありました。「実際に現場で,訪問して検温してはじめて発熱がわかった」とか,「コロナ陽性訪問看護師の情報が感染判明後,4日以上経過してから聞いた」という報告もあり,これからの課題といえそうです。
府医地域ケア委員会では,在宅療養者に向けたお願いのチラシを作成しました(図)。毎日の体温測定や発熱時の迅速な連絡,換気・マスク装着・手洗いの励行などを盛り込んでおります。京都医報10月1日号に同封しましたので,在宅療養者にお渡しいただくなど感染予防のご協力を呼びかけていただければ幸いです。
京都の開業医の1/4は高齢者で感染すれば重症化しうるhigh risk group に含まれるというご指摘もあり,感染(疑いや濃厚接触者等を含む)情報の伝達は喫緊の重要課題といえます。公からの情報公開には個人情報の問題があり,周りから伝え聞く情報には感染者か濃厚接触者か,その疑いかも含めて曖昧なまま広がる可能性もあり,慎重かつ確実な伝達方法の検討が必要であることをアンケート結果が示唆しています。
(図)
②患者が感染(発熱)したら
患者さんが発熱したときの対応についても多数の意見が寄せられました。「在宅患者が夜間39度の発熱をし救急搬送先の病院で軽度肺炎,PCR結果は後日という状況で帰宅。翌朝訪問予定のヘルパーに朝一番で連絡したらすでにヘルパーは出発後であった」等他職種へのタイムリーな連絡が困難なケースの報告がありました。PCR検査については,「検査会場へのアクセスが困難」,「唾液の採取が困難」,「検査ができても結果が出るまでの間の介護体制がとりにくい」,「関わるスタッフへの感染の可能性を考えると一定就業に制限がでることもある」,「入院が必要と判断してもPCR結果なしで入院を受け入れる病院を探すのに苦労した」,「在宅でPCR検査が可能な体制(最低限で迅速抗原検査)を整える必要がある」というご意見がありました。また,医療・介護関係者は絶えず感染の危険にあり,感染時の影響が大きいので,PCRや抗原検査が容易に受けられるよう要望のご意見がありました。
一方,介護事業所では入所系・通所系とも,利用者の感染が疑われると,診断確定→入院の各ステップと濃厚接触者(他の利用者や事業所スタッフ)の感染検査で時間がかかれば他の利用者のサービス利用に影響が大きく,円滑に運用できるようマニュアル化を望むとのご意見がありました。
③医療介護関係者が感染したら
医師が感染したときの対応についても多くのご意見をいただきました。「そのときのバックアップ体制を考えると,在宅医同士の連携強化が必要だが,連携をどの機関が主導していくのかの議論が必要」というご意見もありました。アンケート回収の時点では宇治久世医師会がバックアップ体制について触れられていました。感染した医師が軽症で約2週間後には就業復帰が想定される場合と,中等症・重症の場合に分けて対応を検討中と聞いております。「現状では地区医の在宅医療・介護連携支援センターがその窓口になると思われるが,その疾患の重症度・難病度・ケアの状況または家庭状況・環境などにより容易に代理医療機関が見つかるかどうかは課題が多い。日頃から連携する努力をしないと緊急な対応は困難と思われる」とのご意見がありました。コロナ感染関連の情報共有も細かい点で検討課題は多いようです。「無症状の息子から高齢の男性に感染があった。その高齢の患者が熱発したときに在宅で診療を行った医師があり,その情報を共有する上で患者の個人情報との兼ね合いで医師会内に様々な意見があった」とコロナ感染者・濃厚接触者・その患者を診療した医療関係者の情報の扱いについて議論があったようです。また,医師が感染したときの情報共有について(感染があったことについて,誰が誰にどのように伝えるのか,個人情報保護と在宅療養運用の双方の観点から),休診中の対応,その間の在宅医療の担い方,担い手,など事例の蓄積でさらによいシステムになることを願います。一方,在宅医の少ない地区では在宅医が感染すれば容易に在宅医療の継続困難が予想されるとのご指摘もあり,各地区でバックアップ体制の具体策につき思案を重ねておられることがアンケート結果からうかがえます。
上記①②③以外にも多数の課題が挙げられました。その中でも特に目立つのは,病診連携・多職種連携が円滑にいかないことによる問題です。
在宅診療に遠隔診療を導入した医療機関では,検査・処置できないジレンマをあげておられます。地域包括支援センターに電話相談があり,感染予防のためセンター員が訪問せず電話対応でとどめたところ急変し(熱中症),救急搬送された事例もあったが,それでよかったのだろうかと医師会の先生へ相談があったとの報告もあります。
「退院前カンファレンスやカンファレンス前の個別の打ち合わせが,面会制限のため十分行えない」,「在宅看取り症例のカンファレンスが十分できず入院中に亡くなった,それらの問題を補完する,あるいは代替するシステムが整っていない(カンファレンスなどオンラインで行う試みが始まっているが機材など手探り状態)」,「入院すると面会が制限されるため在宅療養希望者が増えた」というご報告もあれば,「在宅療養者が増えたのは在宅医療に特化した医療機関だけで,在宅医療の裾野が広がったわけではないのかも知れない」というご意見もありました。
施設への訪問診療をされている医師からは,「施設側が感染対策のために医師が患者のベッドサイドに行くことを懸念し,施設の玄関口に患者を連れてきて診察させるという形式をとっている事業所があり,その移動時間も含め大変非効率」との報告がありました。「介護施設への入室が許可されず,やむなくファックスのみでの処方箋発行を実施した」との報告もありました。
他職種関連では「医療機関での資材の供給は増えてきているが,未だ,訪看・介護施設においては資材の供給が不足している。接触回数の多い看護・介護部門への供給が行き渡るような施策が必要」とのご意見や,「在宅療養中の患者の新型コロナウイルス感染が確認された際,訪問看護ステーション・訪問リハビリテーション等の事業所が数日間の業務停止を余儀なくされた」と感染拡大すれば少数ではない事業所への影響が懸念されるというご意見がありました。また,「今後コロナ感染者の在宅療養を続けていく場合,他職種が完全に防御してお世話できるかは難しい面もあるのでは」とのご意見もありました。
また訪問診療部を持つ病院医師からは「緩和医療においてスタッフの出入りを控えねばならないので患者や家族へのケアが十分にできない」,「デイサービス・ショートステイがストップすると入浴介助が訪問看護ステーションへ移行し,業務負担となり対応し切れていない」,「LINEミーティングを活用しているが,音が途切れる,携帯が高温になるなど長時間のミーティングに対応できるツールが必要」とのご意見が寄せられました。介護施設では「患者さんとの接触がしにくく十分なリハビリができないためADLが低下する」,「デイサービスなどの休止または自己判断でのキャンセルで廃用の進行や認知症症状の悪化が懸念される」など課題を抱えておられるようです。
以上,様々なご意見を一部ではございますがご紹介しました。
「在宅現場での課題は,個別の医療機関で対応可能な問題もあれば地区医・府医・京都市・京都府レベルで対応が必要な場合もある」,「在宅現場で遭遇した問題は様々な場で検討課題として取り上げ,問題を共有することでひとつずつ解決していくことが重要」とのご意見がありました。府医では「京都在宅医療戦略会議」の趣旨を生かし様々な形で,様々な場で話し合い,情報発信してまいります。現場の医師が在宅療養を円滑に行うためには,多職種の状況にも目を向け,状況を把握し一緒になって問題解決に向かうことの重要性が垣間見えたことも付記します。
また,状況は刻々と変化しております。このアンケート回収を締め切った令和2年9月初旬以降にも,先述の在宅療養者向けチラシが配布されましたし,鼻腔からのコロナウイルス抗原迅速検査が可能となりました。この原稿が掲載される時点でさらに様々な進歩があることを期待します。
在宅医療・地域包括ケア対策 担当理事 角水 正道