2025年8月1日号
令和7年6月22日(日),日医定例代議員会が開催され,令和6年度日医事業報告が行われた後,議事として令和6年度日医決算ならびに令和8年度日医会費賦課徴収が上程され,それぞれ可決・承認された。その後,19の代表質問に日医執行部が回答した。
1.医療機関の経営危機の改善に向けて
日医は「骨太の方針2025」の策定に向け,①経済成長の果実の活用,すなわち税収等の上振れ分の活用,②「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の見直し,③診療報酬等について,賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映,④小児医療・周産期医療体制への強力な方策の検討―の4点を主に主張してきた。
3月の臨時代議員会以降,自民党,公明党の社会保障制度調査会,「医療・介護・福祉の現場を守る緊急集会」,「国民医療を守る議員の会」などで,日医の考え方をその都度,説明した。国民医療を守る議員の会では,日医の主張を踏まえた決議が採択され,石破茂首相には,同決議など2度にわたって,医療現場の窮状を直接,訴えた。
「骨太の方針2025」は6月6日の経済財政諮問会議で原案が示された。その後,与党内で医療機関の経営危機や,物価高騰,賃金上昇対応について,日医の要望に沿った議論が行われ,社会保障関係費に関する記載が修正された。
歳出改革の中での「引き算」ではなく,物価・賃金対応分を「加算する」という「足し算」の論理となったことが非常に重要なポイントで,年末の予算編成での診療報酬改定に期待ができる書きぶりとなった。「税収等を含めた財政の状況を踏まえ」と明記されたことで,日医が「経済成長の果実の活用」として求めていた税収等の上振れ分を活用する視点が盛り込まれた。
さらに「高齢化による増収分に相当する伸びに,こうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」とされ,日医が求めてきた賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映が明記された。高齢化分とは別枠で賃金対応分等を加算するという意味だと解釈・理解している。この部分は6月6日に示された原案から本当に劇的な前進となった。
また,「次期報酬改定をはじめとした必要な対応策において,2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や,昨今の物価上昇による影響等について,経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう,的確な対応を行う」とされ,注釈には25年春季労使交渉の平均賃上げ率5.26%等の数字が明記された。この数字は次期診療報酬改定で,念頭に置かれるものと認識している。
著しく逼迫した医療機関の経営状況を改善するため,診療報酬だけではなく,補助金での対応も不可欠だ。今回の骨太の方針を確実に実施できるよう,夏の参院選,その後に行われる見込みの秋の25年度補正予算編成,年末に向けた予算編成過程での26年度診療報酬改定の財源確保が極めて重要だ。
一方,財務省の財政制度等審議会などは引続き歳出改革努力を求めてくる。医療経営の危機を打開,打破するとともに,高齢化,高度化に加え,物価高騰・賃金上昇に対応できるよう,あらゆる機会を通じて引続き政府・与党に求めていく。
2.組織強化
組織強化は決して一過性のものではなく,継続的な取組みの積み重ねで成し得ていくものと考えている。医師会が,国民の医療を守り,医師の診療と生活を支える組織としての揺るぎない使命を果たし続けていくためには,組織強化を通じた組織力のさらなる向上を図りつつ,医療を取り巻く課題解決に資する確かな影響力を備えた力強い組織へと,一段の成長を遂げていくことが必要。現場の声を医療政策の決定過程へ的確に反映させるべく,日医は引続き組織強化に向けて全力を尽くしていく。
3.新たな地域医療構想等
新たな地域医療構想については,医療と介護の連携や「包括期機能」など日医の提案の具体化を図るべく,ガイドライン,現行の医療計画の中間見直し,次期介護保険事業計画との整合性も見据え,議論に臨んでいく。
医療提供体制は人口変動,医療の需給や受診行動の変化に柔軟に対応できるようにしなければならない。特に先の病床数適正化支援事業の第1次内示で対象外となった病床については,早急に支援が必要で,地域医療構想との整合性,地域の実情や将来の医療需給などを考慮しつつ,病床の削減を決断した医療機関をしっかりと支える財政支援策を求めていく。
4.地域医療を担う人材確保
医師偏在対策では,厚生労働省から医師偏在是正に向けた広域マッチング事業を受託した。日医内にプロジェクト委員会を設け,現在,体制を整えつつある。医師の養成や派遣などについて,大学関係団体等との連携にも取組んでいく。
看護職員の確保については5月16日,初めて全国規模での医師会立看護師等養成所会議を開催し,多くの医師会役員,養成所の教員の参画をいただいた。今後も教育現場の声を聞きながら,地元に根付いて看護を担う人材の養成支援に努めていく。
5.医療DX
医療DXについては,地域医療を守るため「すべての医師が現状のままでも医療が継続できる」ことが大前提。そのため,電子処方箋や電子カルテの義務化には,断固として反対している。同時に電子化を希望する医師にとって,できるだけ導入や維持がしやすい環境整備を国に働きかけている。
骨太の方針2025では,さまざまな医療DXの施策について「政府を挙げて強力に推進する」とうたわれているが,体制整備のための「必要な支援を行う」ことや,「必要に応じて医療DX工程表の見直しを検討する」ことも明記されている。これまでの日医の主張を一定程度取り入れてもらえたのではないかと考えている。
引続き医療機関が医療DXを導入・維持していくために,十分な財政支援が必要であることや,工程表ありきで拙速に進めるべきではないことなど,適切な推進に向けて,現場の声をしっかりと主張していく。
6.OTC医薬品やセルフメディケーションをめぐる最近の状況
「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)は,医薬品等の安全性確保と信頼回復を目的として,近年相次いだ不祥事や社会的課題に対応するために改正された。しかし,依然として医療現場では医薬品の供給不安が続いており,さらなる実効性の向上や迅速な対応が求められている。補助金等の十分な予算措置も含め,現場の声を踏まえた意見・要望をしっかりと今後も国に伝えていく。
今春,国ではOTC類似薬等に関する議論が盛んに行われたが,医療費適正化の目的のみの過度なセルフメディケーションやスイッチOTC化を進めることには反対している。国がセルフメディケーションの旗の下に,最も重要である患者・利用者の安全性やOTC医薬品の原理・原則を軽視し,経済性に過度に偏った政策を行うことは許されない。
スイッチOTC化やセルフメディケーションを拙速に進めることは,自己判断による誤用で重篤な疾患の発見が遅れる恐れがある。特に高齢者では医師との対話の機会が減少し,病歴や服薬歴の記録が途切れることとなり,診療の精度が落ち,健康リスクも高まってくる。適正使用されず,乱用の増加も懸念される。
セルフメディケーションはセルフケアの一つの手段であり,ヘルスリテラシーとともにあるべきだ。国は国民の安心・安全を第一に考えて進めていってほしい。
OTC類似薬を保険適用から除外すると,例えば,院内での処置等に用いる薬剤や,薬剤の処方,在宅医療での必要な薬剤使用に影響することが懸念される。これは絶対に避けなければならない。医療機関にアクセスできても,地方やへき地などでは市販薬に簡単にアクセスできない地域もあり,十分な留意が必要だ。
今後も OTC医薬品やセルフメディケーションに関するこうした動きは必ず出てくる。日医として,我が国の世界に冠たる国民皆保険制度をゆがめることがないよう,しっかりと注視していく。
7.7月の参議院選挙
我が国の医療・介護・福祉は未曾有の危機に直面している。人口減少,高齢化の進行に加え,急激な物価高騰,賃上げへの対応に各施設は困難を極めている。すでに病院や介護施設の廃院で必要な医療・介護の提供が困難な地域も出現している。
このような現状に鑑みれば,今回の参院選は今までの選挙と異なり,我が国の医療・介護・福祉の未来を問う,大変大事な選挙と認識している。
松岡日医常任理事
◇適切なマッチング
「ドクターバンク事業」拡大へ
有料職業紹介事業が医療機関に与える影響とその対応を問う質問に対し,松岡日医常任理事は,職業紹介事業を手がける公的機関はハローワークが代表的であるが,医師や看護職らの医療従事者の職業紹介を公的機関のみに限定することは,現実的には極めて困難であり,公的機関の活性化,高額な手数料を取る有償の事業者に対する規制の強化―の2点を推進したいとの考えを示した。
2023年の「骨太の方針」で,公的職業紹介の機能強化が打ち出されているとして,特にハローワークの活性化は不可欠である一方,日医女性医師バンクは昨年5月から,ハローワークと業務提携し,医師の求人情報は全国で月80件程度となっていると報告。しかしながら,求人・求職の登録数が少ないこと,バンクそのものの知名度が低いことなどが指摘されているとして,登録をいかに増やすか,どのようなサービスが望まれているのかなどの課題を都道府県医とともに検討し,解決に努めていくと答弁した。
日医は今般,厚生労働省から「医師偏在是正に向けた広域マッチング事業」を受託し,既存の女性医師を包括する形で,ドクターバンク事業を拡大する予定であることを明らかにした。現在,プロジェクト委員会を設置して,医師偏在対策を視野に入れた適切なマッチングを目指し,そのあり方を検討しているとし,選ばれる事業者となれるよう努めていくとの考えが示された。
◇不適切な人材紹介業者 規制強化へ
1999年に職業紹介事業の取り扱い業種が自由化され,それ以降,医療現場で問題が起きたとの認識を示し,厚労省との折衝で,規制強化を強く継続して要求してきたと強調。近年は規制強化が進み,事業者からの情報提供の義務付け,2年間の転職勧奨やお祝い金などの金銭提供の禁止,特別相談窓口の設置,事業者への監督指導が打ち出されているとした。
今年の骨太では「医療・介護・障害福祉分野の不適切な人材紹介の問題について実効性ある対策を講ずる」とされており,さらなる規制強化も期待されるとした上で,2021年から日医も参画している「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」が始まっており,法令上の規定に上乗せした基準を設けて認定をしており,制度の普及を推進していくとの考えを示した。
4月からは各事業者に対し,人材サービス総合サイトで,「取り扱い職種ごとの常用就職1件あたりの平均手数料率」を公開することが義務付けられ,日医として,こうした規制強化の動きが実効性をもって着実に実行され,手数料の引下げ,有償事業者の適正化につながるよう,逐次,国に要求していくとして理解を求めた。
民間の有料職業紹介事業者による医師や看護師などの高額な紹介料に対しては,代表質問に加えて関連質問が相次いだ。
城守日医常任理事
◇医療従事者の確保に処遇改善が重要
医師の働き方改革による多職種も含めた2036年以降の展望について,日医の考えを問う質問に対して城守日医常任理事が答弁。特定労務管理対象機関のうちB水準,連携B水準は,2035年度末を目標に終了とされているが,21年公布の改正医療法の付則では,5年後に見直しをすることが規定されている。日医は,働き方改革が地域医療に与える影響の把握に努めてきたとして,今後,地域医療への多大な影響が危惧される場合,国の検討会等で解決に向け強く働きかけるとの意向が示された。
また,未来に向けた医療提供体制の構築には,人材の確保が最も大切であり,そのためには人材の養成,配置,処遇改善の3点に取組まなければならないと指摘。医師の養成や配置については,昨年8月に公表した,広域マッチングなどの日医の偏在対策を具体化するとし,医師以外のさまざまな職種についても,将来需給の推計とその対策を国に求めるとの考えを示した。さらに,医師会立の看護養成所のように,地域に根差した医療人材養成所の設立・運営を,自治体を中心として関係団体と検討する必要があり,今後策定される新たな地域医療構想のガイドラインでは,その点も含めた医療従事者の確保を強く主張すると強調した。
医療従事者が安心して健康に働き続けるには,処遇改善が極めて重要であるとして,現在の医業経営の危機的な状況を打開し,医療機関がより魅力ある職場となるよう,安定して運営できる財源の確保を政府に強く求めるとした。
江澤日医常任理事
◇物価高騰・賃金上昇も踏まえた
プラス改定を強力に求める
物価高騰・賃金上昇に見合った診療報酬改定の実施を求める代表質問に対して,江澤常任理事は,6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」は,当初の厳しい原案から大きく前進し,年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりになったとしつつも,まずは,2024年度補正予算を早期に執行するとともに,診療報酬の引上げのための安定的財源を確保しなければならないとの考えを示した。
現在の経営危機による医療崩壊を防ぐべく,日医として強く主張していくとした上で,「来たる参議院選挙は,これまで医療の未来を左右する重要な選挙と申し上げてきたとおり,分水嶺となる天下分け目の決戦となる」と改めて強調した。
この夏以降は,新たに25年度補正予算での対応や期中改定も必要な状況であり,補助金と診療報酬の両面からの対応を要望していくとした。さらに年末に向けて,26年度診療報酬改定の議論が本格化していくが,医療経営の危機を打破すべく,予算編成過程において,物価高騰・賃金上昇も踏まえたプラス改定を強力に求めていくとの意向を示した。
骨太の方針を踏まえ,参議院選挙,25年度補正予算,予算編成過程における26年度診療報酬改定の財源確保のプロセスが極めて重要であり,全身全霊で取組むとの姿勢を示した。
黒瀨日医常任理事
◇准看護師など人材育成の環境改善に主体的に関わる
准看護師学校養成所の未来に関する代表質問に対して,黒瀨日医常任理事は,地域医療の担い手不足が危機的であることの表れと真摯に受け止めるとして,准看護師など人材育成の環境改善に主体的に関わるとの考えを示した。
先月初めて実施した「医師会立看護師等養成所会議」において,厚生労働省の担当課長から「看護師になるルートの一つとして准看護師は必要であり,2年課程の通信制に対する入学資格の就業経験を7年から5年に短縮した」との説明があったことを明らかにした。医療は社会インフラであり,看護職の確保は地域の実情に合わせ自治体が取組むべきという認識の基に,関係者が協働して解決する責任があると指摘。福井県では看護師養成所に関する新事業が予算化されたことを紹介した。
「病院の看護基準で准看護師をカウントする」という提案については,入院基本料の施設基準等で,准看護師が果たす役割を検討する一方,病院団体は看護配置基準を基にした診療報酬から,医療の質やプロセスの評価に重点を移すよう要望しているとして,見直しを行う場合でも,准看護師などが適切に評価されるよう取組むとした。
「地方で看護職を養成しても大都市に流れる」との指摘については,学校入学時の都市部への流出を防止する意味でも,地元に看護学校があることが肝要とした。処遇向上やキャリアアップを求め都市部で働くことを希望する可能性もあるとして,看護業務の効率化や処遇改善,研修受講の推奨などは不可欠であり,物価・賃金上昇に対応可能な原資を確保できるよう政府に要望しているとした。
この他,「医薬品不足」「医療DX現状と課題」など合わせて19の代表質問があり,活発な質疑応答が展開された。