2025年9月15日号
7月19日(土),夏の参与会がホテルグランヴィア京都で開催され参与23名,府医役員24名,辻議長,今出副議長が出席。当日は,日医の企画で,「赤ひげのいるまち」番組取材の一環として医学生2名も会議を傍聴した。
松井府医会長の挨拶後,参与と府医新執行部の自己紹介が行われた。次に「京都府における地域医療構想~これまでの取組と今後~」と題して,京都府健康福祉部 部長 井原 正裕氏よりご講演いただいた後,活発な意見交換が行われた。
◇協議事項
(1)「京都府における地域医療構想 ~これまでの取組と今後~」
京都府健康福祉部 部長 井原 正裕氏
地域医療構想とは,病床削減や統廃合が目的ではなく,2025年以降の医療需要を見据え,地域全体で医療提供体制を把握し,将来の医療ニーズに対応するための協力体制の構築が本質であり,病床機能報告制度はそのための情報共有の仕組みであると説明。今後の地域医療をとりまく環境を踏まえ,2040年以降を見据えた持続可能な医療制度の構築が必要であるとの考えを示した。
厚労省の人口動態や医療需要,生産年齢人口など様々な資料(以下抜粋)を示した上で,各地域の実情に応じた地域医療構想を実現することが重要であるとした。
◇人口動態と医療需要の推移
日本の合計特殊出生率は低い水準となっており,今後は急速な人口減少が進行する見通しで,特に2025年にかけて高齢者人口が急増し,2040年に向けては生産年齢人口の減少と75歳以上の高齢者人口の増加が続くとされる。
◇医療需要の分野別推移(入院・外来・在宅)
全国での入院患者数は2040年にピークを迎えることが見込まれるが,2035年までには半数以上の医療圏でピークを迎える。また65歳以上が占める割合は2050年には約8割となることが見込まれる。外来は既に縮小傾向,在宅患者は2040年以降にピークを迎えることが見込まれる。
◇医療福祉分野の就業者数と生産年齢人口の推移
需要面だけで考えると2014年826万人から2040年の推計では1,070万人となるが,生産年齢人口の約20%が医療福祉分野に従事が必要となり,多様な就労・社会参加,健康寿命の延伸とともに医療・福祉サービスにおいてもサービスのあり方の改革が必要となる。
◇病床機能報告制度を活用した地域医療構想
医療提供体制の維持・構築には人的・資金的な支援が不可欠であり,需給のミスマッチが生じると関係者・行政の負担が増大することとなり,効率的な体制構築が必要である。病床機能報告制度を活用した地域医療構想は,医療機関の自主的な取組みと相互協議によって進められるべきとの考えから始まっており,協議の場(地域医療構想調整会議)における検討と認識の共通化が重要である。
京都府では,以前からオール京都体制で京都地域包括ケア推進機構を設立し,医療と介護の連携体制の整備に積極的に取組んできている。京都府では平成29年3月に地域包括ケア構想を策定し,病床機能分化だけでなく,介護・在宅医療を含めた包括的な体制整備を目指すこととしている。
京都府内では,2025年に高齢者世帯率14.9%,2040年には15.8%に達するとされており,特に75歳以上人口の増加が顕著で,これにともない医療・介護ニーズは今後さらに高まる見通しである。
病床機能別にみると,2016年度以降,急性期病床の適正化とともに回復期病床の拡大が求められているが,2024年度までの回復期病床の増加は当初計画を下回る状況で,さらなる機能分化・連携が課題となっている。
在宅医療では,訪問診療を行う診療所が人口10万人あたり28.4施設(令和3年度)から28.8施設へとわずかに増加し,患者数も増加傾向にある。一方で往診を行う診療所は減少しており,訪問看護事業所の増加とあわせて,在宅医療の充実が求められている。京都府はこうした背景を受け,「保健医療計画」を通じ,認知症対策やリハビリ,高齢者のフレイル予防,歯と口の健康推進など,多様な施策を展開している。
一方,医療人材の確保では,医師の偏在対策が重要となるが初期研修医・専門医数の制限が大きな壁となっている。京都府地域医療支援センター(KMCC)では,奨学金制度やキャリア支援,産科医や女性医師の職場支援などを通じて,持続可能な医療人材確保を目指している。
高齢化の進展とともに,京都府の地域医療は重大な転換点を迎えており,回復期病床の整備,在宅医療の体制の強化,そして医療・福祉人材の確保と育成は,今後の地域包括ケア実現に向けた最重要課題となる。
厚生労働省は2040年を見据えた地域医療の再設計が必要であるとして,地域医療構想の推進と病床再編,医療提供体制の最適化に向けた取組みを本格化させている。令和6年度の補正予算では,病床削減に対して1床あたり最大400万円の補助金を設け,京都府ではすでに2,000床以上の申請があった。
2016年までに全都道府県で地域医療構想が策定されたが,急性期病床が多い状況は大きく変わらず,厚労省は地域医療構想調整会議の活性化などに取組むものの,新型コロナウイルスの感染拡大により地域医療構想の議論は一時停滞していると考える。
◇調整会議と支援強化 診療実績や病床稼働率も分析
厚労省は2018年以降,地域医療構想調整会議の協議事項などを示すとともに,診療実績が少ない公立病院の統廃合を含めた検討や地理的条件を踏まえた近隣病院との統合事例を紹介するなど都道府県に対し機能分化の取組みを加速化するよう促している。また,実際に稼働していない病床の実態も分析しており,京都府では全体の約3%が稼働していないとされている。病床機能報告制度の見直しも議論されており,2040年の地域医療のあるべき姿に向けた再設計が必要である。
◇地域医療介護総合確保基金の活用
地域医療構想の取組を進めるため,財政支援と金融・税制優遇措置の充実が図られている。特に地域医療介護総合確保基金については統廃合に係る諸経費,施設整備,医療・介護人材確保など,幅広い取組みが支援対象となっている。また国がアウトリーチの伴走支援を行うモデル推進地区の事業も開始された。
◇医療需要の変化
2040年に向けて,都市部では医療需要の増加が見込まれる一方で,過疎地域では需要減少が予想される。在宅医療は多くの地域で増加し,2040年以降に最大化する地域もあるとされ,医療提供体制の再編は今後ますます重要となる見通しである。
また,手術件数の将来推計では,2020年から2040年にかけてすべての診療領域において,半数以上の構想区域で手術件数の減少が見込まれている一方で,救急搬送は85歳以上の高齢者層で増加傾向にあり,需要にあった体制の見直しが求められている。
◇医療環境の変化
高齢者のADL(生活動作)の維持向上には早期リハビリテーションの支援が重要であり,診療報酬改定において急性期での評価も充実されている。また緊急手術については,年間100日以下の実施にとどまる医療圏が全国で165あるなど,医療の質の観点からも集約化の必要性が高まっている。
医療機関の経営維持のためにも,病床利用率の改善や報酬体系の見直しが今後の課題になると考える。
社会環境の変化にあわせてそれぞれの制度を見直し,良い制度として次世代につないでいくことが大切と考えている。
見直しを進める上で個人的に大切な視点として考えているのは,①「質の高いサービスの提供」(患者の状態にあった適切なサービスの提供,質を維持する取組み),②「人材の確保・育成」(働きやすい職場づくり,専門職としての経験を積める環境,キャリアパス),③地域性(地理的環境,医療機関数の違い,患者のアクセス),④「持続可能性・収益性」(地域に必要な機能を維持,どの機能を担っていても成り立つ報酬体系)-である。
これまでは,医療機関がそれぞれ考える規模・機能で,競合連携しながらサービスを提供し,人材育成に取り組んできたが,今後は地域における将来のニーズを踏まえた規模・機能を地域の医療機関が協力・連携を強固にしてサービスを提供し,ともに人材確保・育成に取組むことが求められると考える。
その後の意見交換で,診療科別の偏在への質問に対し,診療科の選択にあたりどの程度の規制を設けていくのか,また各地域の需要も踏まえつつどのように配置していくのかという課題があり,一定期間,症例数が少ない地域で活躍いただくためにはキャリアパスをどう形成してもらうのかという視点も大切になるとの考えを示した。
また,「一つの病院に色々な機能を持ってもらうということは人員も変わってくるため,どこに合わせるのか,特に京都府は北と南では全然違う状況なので京都府全体で検討いただく必要があり,医療圏ごとにそれぞれの特性を考えていかなければ成り立たない」との意見が述べられ,これに対して難易度の高い医療に関しては二次医療圏を超えて,隣接する二次医療圏との関係でカバーし,その中で質を担保しながら人材育成し,必要な医療を提供していかなければならないとの見解が示された。
最後に行政単位の医療圏と生活している医療圏とは必ずしもイコールでは無いため,今後はそういった部分も含めて検討いただきたいと要望が挙がった。