第59回 十四大都市医師会連絡協議会

「新型コロナウイルス感染症に関する各都市医の対応と検証,PCR検査外来等の運営方法や出務者への補償等および行政との連携について~新型コロナウイルス感染症の第2波・第3波に向けて~」について協議

 10月18日(日)に第59回十四大都市連絡協議会が大阪府医主管(会長:茂松茂人)のもと,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点からWEB会議システムを利用して開催された。全国十四の政令指定都市から総勢350名が参画し,新型コロナウイルス感染症への対応について,活発な意見交換が行われた。

テーマ1
新型コロナウイルス感染症対策の現状・特徴的な取組み

(1)行政との連携
 堺市は,対策本部を立ち上げたものの,医師会や保健所等が参画していなかったため,行政に医療提供体制の構築を任せることは期待できない状況であった。このことから,医師会の働きかけにより,病院,行政,保健所が一堂に会する新型コロナウイルス感染対策プロジェクト会議を発足させたと報告。2月5日以降から同会議を計11回開催。地域全体で問題点や課題を共有しながら,現場の声を対策に反映させた医療提供体制を構築できたと評価した。
 広島市からは,まず,市内における新型コロナウイルス感染状況について,10月18日時点で感染者数は349人に達しており,20~60代を中心に感染していると報告。
 3月4日に広島市新型コロナウイルス感染症対策合同会議が発足したものの,感染症に関する有識者が参画していなかったため,対策がその場しのぎとなってしまったこと,人員が疫学調査に手を取られてしまったこと,また感染症患者受入病院ではICUが感染者で埋まり,本来の患者の対応ができず,感染症専門病棟設置などの対策が必要であったことが課題であったと報告。今後は,市独自のアラートの設定や行政の役割,医療体制を見直し,公立・公的病院による民間病院への人的・物的・技術支援等具体策を講じていく必要があるとした。
 一方,横浜市は医療局,健康福祉局(保健所),消防局,総務局が中心となり,市役所内に設置された横浜市新型コロナウイルス感染症対策・医療調整本部(Y-CERT)について説明した。Y-CERTでは,新型コロナウイルス感染症患者の病床の確保や入院・転院・移送調整,各種関連データ収集・分析による医療提供体制の確認および方針決定等を実施しており,現在もフル稼働しているとした。輸送車も10台取り揃え,万全な体制を確保できているだけでなく,当初の目的どおり稼働しており,重症患者を受け入れる病床の切迫はなく対応できているとの現状を報告した。
 今後の課題としては,流動的な対応が求められるためマニュアル化することが難しく,経験等で人材の質に差が出てしまうことや重症度の判定があげられるとした。

(2)行政検査の契約と地域外来・検査センター(PCR検査センター)の運営
 札幌市では行政と医師会が協力して,PCR検査実施医療機関を募集し,同医師会で各医療機関との委託契約をとりまとめ,現在は245医療機関がPCR実施医療機関として契約しており,特に問題はないとした。
 宿泊療養施設への医師派遣については,5月9日から午前9時~11時まで宿泊療養施設3ヶ所にそれぞれ医師1名を派遣し,6月6日からは宿泊療養者の減少により,同施設を1ヶ所のみとするとともに,宿泊療養の解除要件としてPCR検査による陰性確認が不要になったことから,医師派遣も現在は取り止めていると報告した。
 PCR検査センターについては,5月1日から市立札幌病院内にドライブスルー検査場を設置し,9月末までで累計6,722件の検査を実施し,医師85名,看護師62名を派遣したとした。
 また,接待をともなう飲食店でクラスターが発生するなど感染者が増加傾向にあったため,「すすきの地区臨時PCR検査センター」が開設され,保健所職員が唾液検査キットを提供し,従業員自身が検体を採取し職員が回収する取組みが紹介され,今後も出前型検査センターなどを設置し,検査体制を拡充していくことが報告された。

(3)医療機関への支援
 川崎市は,慰労金について,補助事業の範囲が分かりにくく,Excelの入力が難しいなど手続きが煩雑であることにより申請しない医療機関が多いことが問題点であると指摘。また,病院の立場では,支援のスピードが遅いだけでなく,コロナによる減収に対する支援がなく,役立っていないことが課題であるとした。
 福岡市では市独自の対策として,給付金を支給する制度を紹介した。令和2年4月1日時点で開業しており,発熱患者を受け入れている医療機関3,690施設を対象としている。給付金額は一般診療所に40万円,病院は病床数によって区分されており,20~99床に100万円,100床以上に200万円,200床以上に300万円,300床以上に600万円給付されることとなっているとし,これまで9割の施設に給付されたと報告。
 また新型コロナウイルス感染症の入院患者1名あたり30万円を給付していることを説明した。

(4)医療提供体制への影響
 千葉市では行政が主導となって取組まれており,保健所に新型コロナウイルス感染症患者の受入れ状況等の情報が常に更新されるようになっており,受入れ状況を調整しやすい状況にしているとした。
 また,病床数をステージ0から4までに分類し,またホテル療養の状況も含め,市のホームページに随時公表し病床確保に混乱が発生しないようにする取組みについて紹介し,現在のところ医療提供体制がひっ迫しているところはないと報告した。

テーマ2
新型コロナウイルス感染症対策の課題

(1)遠隔診療(オンライン診療・電話診療)
 東京都からオンライン診療について,都心部では新型コロナウイルス感染症の流行下でオンライン診療の需要が高まっているとした。新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等を実施する医療機関の実施状況調査の結果,都内で電話や情報通信機器を使用した診療を実施する医療機関は2,029施設(医療機関総数の14.4%)であり,このうちおよそ半数が初診の対応が可能としていたと報告。加えてオンライン診療料の施設基準を申請した医療機関は今月4月以降から大幅に増加し,累計で883施設となったとした。
 一方,神戸市は,感染症予防の観点からは非常に有用である反面,十分な研修などが行われていない現状や医師のなりすまし,患者の本人確認,診療費の支払い方法など解決すべき問題もあると指摘した。

(2)国・都道府県・政令市との強調

禹府医理事

 京都府からは,禹府医理事が新型コロナウイルス感染症対策における行政との連携にかかる現状について報告。府と市の二重行政により,ほぼ同じメンバーでそれぞれ会議が行われるなどのデメリットはあるとしつつも,新型コロナウイルス感染症については府医が先導して会議を執り行うことで比較的スムーズな連携ができていたと報告。
 京都府で新型コロナウイルス感染者が出ていない令和2年1月27日から会議を行い,帰国者・接触者相談センターの設置等について,京都府・京都市・医師会で協議を重ねてきたと説明。
 9月以降,新型コロナウイルス感染症の感染者数の減少にともない,第3波に備えた保健所体制の見直し・負担軽減を検討する中で,京都市のPCR検査の一部を府医が担う等,京都市とはより密な連携を取っていく意向を示した。

(3)保健所機能
 大阪府は,行政検査などにより,かかりつけ医による診療が拡大する一方,今後インフルエンザの流行に備えなければならない時期に新型コロナウイルス感染症陽性患者が発生した場合,診療所が困窮しないよう引続き保健所の機能強化が重要であると提言した。保健所とかかりつけ医が新型コロナ対策の中心を担ってきたため,今冬の発熱患者への対応でも保健所の役割を明記し,受診相談センターの設置・運営や陽性者への対応を担うこととし,保健所が新型コロナウイルス感染症対策に関するすべての業務を担うことのないよう配慮する意向を示した。
 各医療機関でのPCR検査に関する集合契約については,かかりつけ医の医療機能を維持するため,非公表とすることを契約書に明記しているとした。

テーマ3
新型コロナウイルス感染症対策の将来

(1)地域医療構想・医師偏在指標・働き方改革・専門医制度
 仙台市は,地域医療構想の実現に向けた取組として実施している,新規開業時のアンケート調査の結果を宮城県と共有し,行政と協力してポスト
コロナにおける新たな診療体制の構築を目指す意向を示した。
 また,専門医制度について,専門医取得・維持のために必要な学術集会や教育講演,専門医共通講習のweb開催やeラーニングのメリット・デメリットなどを説明した。

(2)季節性インフルエンザ流行に備えた体制整備
 名古屋市は本年2月から新型コロナウイルス感染症患者が発生して以降,クラスターが相次いだ。このような状況の中で,医師間でも発熱患者は一切診ない等,医師によって同感染症に対する温度差が激しく,対応が難しい地区もあったため,統一した方針を示してほしいとの要望があり,対応ガイドラインを作成したとした。ガイドラインでは,休日診療所の運営について,発熱患者は診療することとした。また,本年8月に秋冬に備えたガイドラインとして改訂し,当初は,発熱患者については,空間的・時間的隔離に配慮した上で診療するものの,原則としてインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症の検査は行わない方針としていたが,今後のガイドラインでは,医師の安全等を配慮した上で,インフルエンザに関しては必要に応じて鼻汁による検査を行う方針であるとの意向を示した。

(3)感染症対策と社会経済活動との両立
 北九州市から新型コロナウイルス感染症について判明してきた今では,過剰に自宅待機するのではなく,重症化率や致死率をふまえ,若年者と高齢者・基礎疾患を持つ人とを切り分けた対策を講じる必要があると提言した。
 最後に主務地である大阪府医は,国民の命と経済を守ることが最も重要であり,これまでの課題や対策に係る検討はすべてその理想のためである
との意見を述べた。
 また,今回の協議では非常時を想定した地域医療構想や医療計画の見直し,新型コロナウイルス感染症による患者減少による減収した医療機関への救済措置,行政との連携等様々な課題が明らか
になったと評した。
 行政との連携については,時に医師会が先導して取組む必要もあり,また非常時には行政との連携が欠かせないことから,今後とも行政には現場の現状を理解した上で対応に当たっていただきたいとし,オンライン診療については,恒久的な対応とならないか懸念されるところであるので,慎重に対応してく意向を示した。新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって露見した課題を解決し,将来の緊急事態にも備えられるような医療提供体制を構築していきたいとの意向を述べ,総括した。

2020年12月15日号TOP