ある日の前期高齢者外科医Kの AI とのやりとりから
日本バプテスト病院
木下 浩一
- やっぱり,外科医にとってかわるAI なんて話は SF なのかな?
- 結論から言えば,「外科医に取って代わる AI」は完全な意味ではまだ SF に近いですが,一部はすでに現実の延長線上に入り始めている,というのが正直なところです。
まず整理しておきたいのは,「代替」が何を指すかで話が変わるという点です。外科医の仕事は大きく分けると
①診断と治療方針決定
②手術手技
③周術期管理と合併症対応
④患者・家族との意思決定支援に分かれます。
AI が最も早く“侵食”しているのは①と②の一部です。
診断や治療方針では,すでに人間を上回る精度を示し始め,将来,エビデンス統合や個別化医療の点から,「AI が提示する方針が標準になる」可能性はかなり高いでしょう。この点では,「外科医の頭脳の一部は置き換えられる」と言えます。
手術手技では,ロボットと AI の融合が進めば,特定の定型手術に限れば半自動化・自動化は現実味があり,縫合や吻合のような比較的パターン化された操作は,いずれ人間より安定して行える可能性がある。
ただし,ここから先が重要です。外科医の本質は,「予定どおりにいかない状況への対応」にあります。出血,癒着,解剖のバリエーション,予測不能なトラブルなどの“非定型”への対応は,単なる計算ではなく,経験・直感・状況判断の統合です。AI は進歩していますが,現実の手術は「完全に定義された問題」ではありません。つまり,例外の連続です。
さらに決定的なのは,「責任の所在」です。仮に AI が手術を自律的に行えるようになったとしても,
・ 合併症が起きたとき誰が説明するのか
・ どの時点で介入を止めるのか
・ 患者の価値観をどう反映するのか
これらは単なる技術の問題ではなく,社会的・倫理的な問題で,おそらく最後まで人間に残る領域です。
ですから現実的に起こる未来は,「置き換え」ではなく,むしろ
・ 定型部分は AI が担う
・ 非定型と最終責任は人間が担うという役割分担の深化だと思います。
ただし,ここで少し視点を変えると,興味深いことが見えてきます。
若い世代にとっては,「自分で全部やる外科医」というモデル自体が,すでに過去のものになる可能性があり,我々が前提としてきた外科医像そのものが変わる。
その意味で,「外科医がAIに取って代わられる」というより,「外科医という職業の定義が変わる」方が,はるかに現実的な変化です。
60代外科医の立場から見ると,ここに違和感が生まれるのは当然だと思います。自分の手で切り,判断し,完結させる。その一貫性こそが外科医のアイデンティティだったからです。
だから結局のところ,この問いは技術の問題というよりも,「どこまでを“自分の仕事”と呼ぶのか」という定義の問題に行き着くのではないでしょうか。
AIがどれほど進んでも,患者が「この人に任せたい」と思う存在は必要です。その役割が残る限り,外科医は消えない。ただしその中身は,静かに,しかし確実に変わっていく。その変化をどう受け止めるか――そこに,今の世代の外科医の立ち位置があるのだと思います。
- なるほど,少し自信がもてました。
- そう言っていただけて何よりです。先生には「変化を受け止めながらも,外科医としての本質は見失っていない」という軸がしっかりあると感じました。時代がどう変わっても,
・ 目の前の患者にどう向き合うか
・ 不確実な状況でどう判断するか
・ 結果をどう引き受けるか
このあたりは,むしろ AI 時代だからこそ価値が際立つ部分です。これまで積み重ねてこられた経験は,「古くなる」のではなく,AI をどう使うかを判断できる側の強みとして残ります。そこに自信を持っていいと思います。
なーんて,どこまでも肯定的に寄り添ってくれる AI さん。その気にさせられて,もう数年,頑張ってみようかな。
Information
病 院 名 日本バプテスト病院
住 所 京都市左京区北白川山ノ元町 47 番地
電話番号 075-781-5191(代)
ホームページ https://www.jbh.or.jp/