綴喜医師会との懇談会 12.12 Web開催

「介護保険主治医意見書作成における要望」,「新型コロナウイルス感染症の情報開示」,「厚労省におけるワクチンの品質チェック機構」について議論

 綴喜医師会と府医執行部との懇談会が12月12日(土),Webで開催され,綴喜医師会から10名,府医から9名が出席。「介護保険主治医意見書作成における要望」,「新型コロナウイルス感染症の情報開示」,「厚労省におけるワクチンの品質チェック機構」をテーマに活発な議論が行われた。

〈注:この記事の内容は12月12日現在のものであり,現在の状況とは異なる部分がございますのでお含みおきください〉

介護保険主治医意見書作成における要望について

~要介護認定における主治医意見書の実態把握と地域差の要因分析に関する調査研究事業報告書から見る主治医意見書における現状~

 主治医意見書の作成にあたり,意思疎通が困難かつ身寄りがないなど情報収集が困難な患者が増加傾向にある。その際に前回作成された主治医意見書が必要となるが,行政に開示請求をしても,ほぼ許可が下りない。
 三菱UFJリサーチ&コンサルティングが要介護認定における主治医意見書のあるべき姿を検討するために作成した「要介護認定における主治医意見書の実態把握と地域差の要因分析に関する調査研究事業報告書」によれば,ひと月あたりの主治医意見書の作成件数は,「5~6件」が558件,「10~11件」が547件と多く,また,「30件以上」も120件あったことから,医師への負担が大きいことが明らかとなった。
 さらに,主治医意見書作成のための生活状況に係る情報収集について,「家族から聞き取った情報」が93.4%,「本人から聞き取った情報」が84.2%であったことから,独居者や意思疎通が困難な患者の情報聴取が大変困難であると言える。

~現状の課題に対する府医の見解~

 主治医意見書の情報開示請求の権限を持つ者は,ケアマネジャー,被保険者本人,親族,法定代理人に限られており,多くの自治体は主治医を対象としておらず,一部の自治体で,「作成した医師の同意を得られた場合のみ」という条件が満たされた場合に開示されるのみである。京都市でも第3者への情報開示は基本的に許可していない。
 府医としてもケアマネジャーが容易に主治医意見書の開示請求ができるにもかかわらず,主治医ができない現状を問題視しており,改善していく必要があると考えている。
 また,主治医意見書の様式は全国一律で同様の様式を活用することが求められており,改善まで時間がかかることが予想されるが,すでに日本精神科病院協会が令和元年9月に「要介護認定における認定調査・主治医意見書に関する要望書」を厚労省へ提出している。
 府医としても,必要に応じて府医会員からの意見を集約した上で,京都府に働きかけていきたいと考えている。

新型コロナウイルス感染症の情報開示について

~府医と行政での情報共有について~

 新型コロナウイルス感染症の発生状況について,毎日,京都府から公開されているが,発生地域は保健所管轄内ごとであり,どの市町村で発生したのかは不明である。本来であれば,行政には感染者が発生した事業所名や市町村名の情報を医療機関に公表してほしいが,現状は困難である。
 府医としては,各医療機関で情報を共有できるよう「京かぜマップ」,「京いんふるマップ」,「京ころなマップ」といったシステムを構築しているが,経過など不足している情報もあるといった課題もある。

~府医での取組みについて~

 行政に情報提供を求める以外の手段として,地区ごとに情報共有について協議し,地区内での情報共有に取組んでいただくのも1つの方法と考えている。
 府医では,京都市内の地区医に対して情報共有の体制を構築するよう求める依頼文を発出した。学校や幼稚園で新型コロナウイルス感染症が発生しても,校医・園医に連絡がない場合もあるため,校医・園医への情報伝達や逆に情報を入手した際は,風評被害を考慮した上で,地区内に情報を公開するよう求めている。
 G-MIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム)が厚労省から提供されているが,現状,公開されているのは地域ごとの医療資源情報のみであり,新型コロナウイルス感染症の発生状況は公開されていない。これが公開されれば,リアルタイムでの公開が可能となるので,今後とも注視していきたい。

~質疑応答~

◇「幼稚園・学校等での情報共有については,発生した学校・幼稚園等からメールで情報発信があった。また,教育委員会では,学校等欠席者・感染症情報システムがあり,新型コロナウイルス感染症が報告項目としてある。こういった情報共有について府医で把握しているのか」という質問が出された。
 学校等欠席者・感染症情報システムについて,京都市以外の情報が掲載されており,参考になるため地区医内で共有できるようID・パスワードの発行を行政に依頼することも有益である。また,校医・園医からの情報はいずれにせよ必要であると考えられるので,情報共有の体制構築に取組むことについて検討してほしい。

厚労省におけるワクチンの品質チェック機構について

~ワクチンが出荷されるまで~

 ワクチンは非臨床試験と臨床試験を通して,品質,安全性,有効性を確認することとなっている。新型コロナウイルス感染症のワクチンについては,イギリスやアメリカですでに両試験が実施され,有効性が有害作用を上回ったことが実証されため,接種が始まっている。
 一度,承認されると,承認規格として生物学的製剤基準と検定基準が設置され,これらの基準を満たしたロットが出荷される(ロットリリース)。

~ロットリリースまでの課題について~

 ワクチンは他の薬剤と違い,健常者に打ち,健康を守る役割があることから,高い品質と安全性が求められる。自家検定と国家検定によるダブルチェックが行われるが,まれにロットリリース時に国家検定に落ちて,供給不足に陥ることがある。
 また,ワクチンの有害性が分かるまでには,多くの時間を要する。例えば,新型コロナウイルス感染症の各種ワクチンについては,短期的な有害作用は分かっているものの,中長期にわたる有害作用は分かっていないため,懸念事項が残っていると言える。
 さらに,ワクチンは製造の過程だけでなく,試験においても生物を活用するバイオアッセイが用いられる。製造の過程においては,ある程度の製造数の変動は避けられず,試験においても,精度管理が大変困難である。

~ワクチン承認までの試験・検定方法~

 ロットリリースについては,日本,欧州,WHOが示すガイドラインでそれぞれやり方が微妙に違うが,基本的にプロトコール(治験実施計画書)・レビューを全ロットに行うことが一般的である。
 また,ロットごとの製造および試験の記録等を要約した書類(製造・試験記録等要約書;Summary Lot Protocol;以降,SLP)の審査が行われる。日本においては製造・販売会社の自家試験の結果だけ精査していたが,現在ではSLP審査も義務付けられるようになった。
 承認審査については,平成16年から設置された「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以降,PMDA)」が中心となって行う。
 PMDAでは,医薬品の副作用または生物由来製品を介した感染等による健康被害の迅速な救済を図り,ならびに医薬品等の品質,有効性および安全性について治験前から承認前まで一貫した指導や安全対策を行っている。
 検定業務の流れとして,製造業者から製造所がある都道府県の薬務主幹に検定申請が提出され,それを国立感染症研究所で試験実施が行われた後,合否判定がある。そこで問題事象が報告されると,厚労省医薬食品局の指導対象となるか,PMDAの査察を受けることになる。
 同研究所では試験(検定試験,自家試験)について,複数ロットの結果を時系列に並べて,数値の変動に一定の傾向が無いかどうか分析するトレンド分析を行うことで安全性の担保を行い,未然に健康被害を防ぐことに取組んでいる。

~府医から京都府への要望~

 ワクチンの問題は多岐にわたり,特にワクチン自体の流通が滞ることが毎年のように起こっている。今後,IT化が進歩すれば,流通経路や在庫管理の把握が期待できるため,現在,その体制づくりを京都府が行い,厚労省に提案するよう求めている。

~質疑応答~

◇新型コロナウイルス感染症のワクチンについて,接種体制やワクチンの種類などの詳細について質問があった。
 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会から新型コロナウイルス感染症のワクチンに関する詳細が通知された。
 それぞれのワクチンの違いについては下記表のとおり。

 現在のところ,どのようなワクチンがどの程度入ってきて,どのように流通させるか未定であるが,どのワクチンを活用するかによって接種体制に影響があると考えている。すでにアストラゼネカ社が他2社と違い,国内で生産することを国と契約しているため,将来は,安定的に供給ができる可能性が高い同社のワクチンが主流になると考えている。
 2020 年,日医で行われた研修会で川崎市がコロナワクチンの接種について,シミュレーションを行った結果,65歳以上の高齢者への接種を終えるのに3か月を要する見込みと報告していた。京都市は,川崎市との規模に差が少ないが,先進的な川崎市より相当時間かかると考えられる。京都市はまだ,具体的に動き始めていないが,今後,府医は接種医師を確保し,行政は場所を確保する必要がある。

◇「ヒブに関して,100本中3本もの破損事例があり,PMDAや製造元に訴えたものの,具体的に改善に取組む様子は見られなかった。世の中に一定数の不良品が出回っていないのか,そういった報告されていない破損事例がどの程度あるのかアンケートをしてはどうか」という意見があった。

◇「HPVワクチンについて,有害事象が多すぎることを懸念している。数十万分の1まで削減し,情報提供に努めなければ,保護者の理解を得ることは難しいのではないか。また,接種機会を逃した接種対象者に対して,年齢に関係なく公費接種を受けられるようにしていただきたい」との意見があった。
 有害事象の重症性は接種医が決めることとなっているが,HPVワクチンが日本で初めての筋肉注射だったため,接種部位を間違えた事例や直接,ワクチンとの因果関係が考えにくい事例も一定数あった。
 このような情報伝達を怠った国にも責任があると考えている。
 また,昨年,MSD株式会社が日本で初めて,従来は認められていなかった男子への適用拡大を厚労省に承認申請したことで男子への適用拡大もあり得ることから,今後の国の動向に注視していきたい。

保険医療懇談会

 支払基金と国保連合会双方における審査の平準化をはかるために開催している「基金・国保審査委員会連絡会」の状況について解説するとともに,個別指導における主な指摘事項についての資料を提供した。
 また,療養費同意書交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書発行に理解と協力を求めた。

2021年4月1日号TOP