2021年10月1日号
8月28日(土),夏の参与会がWebにて開催され,参与25名,府医役員19名が出席した。
「新型コロナウイルス感染症の現状と今後の課題」,「新型コロナウイルスワクチン 現状と今後の対応」をテーマとして,これまでの新型コロナウイルス感染症への対応を振り返るとともに,今後の対策等について活発な意見交換が行われた。
<注:この記事の内容は8月28日現在のものであることをお含みおきください。>
これまでの府医および京都府における新型コロナ対策について振り返り,今後必要となる取組みと次の新興感染症に備えた課題等について整理が行われた。
<最近の感染状況>
京都府内における新型コロナウイルス感染症の患者発生数は,8月16日時点で1週間平均340.43人であったが,8月20日に547人,26日には過去最高となる605人,27日に524人とさらに陽性者数が伸びており,確保病床数や宿泊療養施設がそれほど増えていない現状では,自宅療養者の数がどんどん増加することを意味する。8月25日現在,約5,900人に上る自宅療養者の中で重症化する患者を早期に発見し,重症化を予防していくことが大きな課題である。
新規感染者数の急伸にともなって高度重症病床入院者数も徐々に増加し,一部の中等症対応病床でも気管内挿管し,人工呼吸に対応しているところもあるため,高度重症病床の使用率として発表される「重症病床使用率」以上に現実はもっと厳しい状況にある。国の分科会のモニタリング指標では,8月16日時点で京都府の確保病床使用率が73.0%,入院率9.4%,重症者用病床使用率66.7%であったが,さらに状況は悪化しており,療養者数,PCR検査陽性率,新規陽性者数,感染経路不明割合も含め,すべてにおいてステージ4を超える段階にある。
2週間ごとの年代別感染者数の比較では,20~30歳代,50歳代の増加が顕著である一方,70歳以上は他の年代に比べて少ない状況にある。京都市においては,65歳以上のワクチン接種率が40%を超えたあたりから感染者数に占める高齢者の割合が下がり始め,接種率が約85%に達した8月初めには5%を下回っている。併せて,新型コロナウイルス感染症による死亡者数は減少傾向にあり,ワクチンの効果が見てとれる。
<これまでの振り返り>
感染症対策の柱は,①感染者を早期に発見し,②感染者の隔離によって感染が広がらないようにすると同時に,③積極的疫学調査により接触者を調査し,接触者からの二次・三次感染を防ぐこと,さらには,①~③によっても感染者が発生した場合に,④重症患者に対する入院治療をしっかり確保することである。これらの対策がしっかりできていれば,感染症が制御できていると考えられるが,いずれかが欠けると医療崩壊へ近づくことになる。
これらの4つの対策の柱を念頭に,京都府および府医の対応を振り返ると,感染者を早期に発見する診療・検査体制について,当初はこの感染症の詳細がわからない中,医療機関での感染拡大防止を大きな目的として,発熱患者は直接医療機関を受診するのではなく,帰国者・接触者相談センターに電話で相談し,必要に応じて帰国者・接触者外来へ誘導するという対応であったが,結果として,センターに電話が集中して迅速な検査につなげることができず,また,地域の医療機関で検査しようにも十分な感染防御具(PPE)が供給されていなかった。
その後,地域の医療機関で検査できる体制を整備するとともに,京都府・医師会京都検査センターを府内6カ所で順次開設し,ドライブスルー方式のPCR検査を実施。また,7月20日にはかかりつけ医療機関による行政検査として,府内773医療機関の協力を得て,唾液によるPCR検査ができる体制を整備し,11月には診療・検査医療機関として,改めて発熱患者の受入れ体制が構築され,現在に至っている。
感染者の隔離に関しては,当初,症状の軽重にかかわらず入院対応としていたが,入院と検査の両方を担う感染症指定病院に患者が集中し,過度の負担が問題となったことから,軽症者,無症状者は宿泊療養で対応することとし,ハイリスク感染者をトリアージして入院が必要な陽性者を入院させる体制へ移行した。宿泊療養施設では,健康観察,SpO2モニタリングはもちろん,必要に応じて酸素療法やステロイド剤の薬物投与ができるよう医療機能の強化を図ると同時に,症状が悪化した患者を入院に繋ぐ「上り搬送」と,回復患者の「下り搬送」をスムーズに行うことで病床の有効利用に努めてきた。なお,宿泊療養施設は,9月1日から3カ所目が開所する。
保健所の業務である積極的疫学調査は,感染拡大防止において重要であるが,調査が追い付かないほど感染が拡大した状況こそ,間もなく医療崩壊を招くものである。こういった状況下では,本来は行政が緊急事態宣言等による日常生活への強い制限が検討されるべきである。
重症患者の入院治療の確保については,感染者数の急伸にともなう重症患者の増加により,医療資源が圧迫されることで通常医療が提供できなくなる状況が医療崩壊の状態である。第5波ではワクチン接種が進んでいない若年層で重症患者が増えることが想定される。
京都府の医療・療養体制では,保健所に陽性者の発生報告がなされた後,「入院医療コントロールセンター」にすべての情報を集約化させ,一元的に陽性患者の管理を行うことで,スムーズな上り搬送・下り搬送など,医療資源の有効活用が可能となっていることが特徴的である。
宿泊療養,自宅療養の患者の症状が悪化すると,健康管理を行った医師の要請により,入院医療コントロールセンターを通じて入院の手配が行われるが,現在は満床の場合に,入院を調整する間も酸素吸入や薬剤投与等の治療を継続できる「入院待機ステーション」が設置されている。また,療養中を通じて,症状の悪化や患者の不安が強い場合は,府内29病院に設置された「陽性者外来」を受診し,CT検査や血液検査によって客観的評価ができる体制を整えている。訪問診療チームについても,入院医療コントロールセンターの管理の下で稼働しているが,陽性患者の自宅へ入るにはしっかりとした感染防御策と知識・技術を要することを踏まえると,きちんとコントロールされるべきだと考えている。
<第5波への対応>
第5波の特徴として,まず,ワクチン接種が進んだ高齢者の発症,重症化が減少している一方で,20歳代が感染拡大の中心となり,ワクチン接種が完了していない30歳代後半~50歳代に重症化する患者が多く見られることである。2つ目の特徴は,感染力が強く,実行再生産数も高いデルタ株が主体であるため,感染拡大のスピードが速いことである。また,同居家族内,職場,知人・友人からの感染が中心で,日常生活の中で接触する人から感染拡大していることも特徴的である。
今後検討すべきは,「感染拡大防止対策」,「感染者の重症化予防」,「重症者に対する医療の確保」に係る取組みである。感染拡大防止対策としては,若年層での感染拡大,同居家族内での感染をどう防ぐかが課題であり,強力な行動制限の検討と同時にワクチン接種の戦略的な推進が有効と考えられる。感染者の重症化予防には,ワクチン接種の戦略的な推進とともに,7月19日に特例承認された中和抗体薬(ロナプリーブ)の効果的使用が鍵となる。重症者に対する医療の確保は,重症者対応病床の確保と同時に重症者を減らす取組みが不可欠であり,役割分担と連携による医療資源の有効活用を実践していく必要がある。
自宅療養者には,これまで保健所による健康観察が行われてきたが,京都市においては,8月17日に「京都市電話診療所」を府医会館内に開設し,健康管理医が電話で自宅療養者の継続的な健康観察を行い,病状に応じて電話診療により解熱剤等の処方や,中和抗体薬の適応,陽性者外来の受診,入院要請等について判断し,コントロールセンターに連絡する体制を整備した。京都市外の地域においても,保健所と各地区医が協力し,自宅療養中の陽性患者へのフォローが実施されているところである。
<次の感染症に備えて>
医療機関で感染症を診療するためには,まず感染防御対策法について理解を深めるとともに,十分なPPEの確保も必要となる。各医療機関においては,ゾーニングの検討等,事前に患者受入れのための計画をしっかりと立てておく必要がある。病院においては確保可能な病床数と自院の機能を分析し,どういった役割を果たせるのかを把握しておくことが重要である。
病床の機能分化と連携により,患者の症状に応じた適切な治療を提供できる病床へスムーズに患者を移動させることで,医療資源の有効利用を図ることが重要となるが,上り搬送,下り搬送といった医療機関同士の連携に関しては,平時からの連携体制の構築が不可欠である。
また,これまでの治療経験を集積・分析し,効果的な治療方法の確立・共有を行うことで,地域の医療機関において薬物投与する可能性を模索することも重要である。
今後,起こり得る新しい感染症に対して,感染症はいつも違うということを認識し,感染力や病原性等,詳細がわからない状況においては,まず感染を拡大させないよう,非感染者との接触を防ぐことが絶対条件である。従って,ゾーニングや感染防御策を平時から確認しておくことが重要である。初期段階ではやはり専門外来を設置して診断・検査にあたるべきであり,医師会としては平時からそういった体制の確保・充実を図るよう行政に訴えていきたい。そして,時間の経過とともにウイルスの詳細が判明するに従って,柔軟に対応を見直していくことが大切である。
世界的なワクチン需要が増大する中,日本の現在の新型コロナ対策においては安定したワクチンの確保・供給が最重要課題となっている。
ワクチンの有効性に関しては,デルタ株の流行によって感染予防効果と発症予防効果は低下したものの,デルタ株感染者に対しても重症化予防および入院予防効果は保たれており,アルファ株に対する有効性と変わりないことが報告されている。
変異株への対応策として,3回接種やメーカーの異なるワクチンを組み合わせた混合接種等について様々な報告がなされているが,現状ではまだエビデンスが不足しており,それよりもまずは2回接種の完了を徹底することが重要となる。今後,新型コロナワクチンの接種率70%超えに向けて粛々と速やかに接種を進める必要がある。
日本のワクチン管理体制については,新型コロナワクチンに限らず,定期接種についても市町村によって予防接種台帳が異なるほか,デジタル化の進捗状況もまちまちで全く統一できていないという根本的な問題がある。新型コロナワクチンに関しては,日本国内どこでも接種できることから,予防接種台帳の新しいスタイルになり得るものと期待していたが,V-SYSを使用しなくなった経過からも,今後しっかりした基盤を整備しなければ同様の問題が何度も繰り返されることが懸念される。今回の新型コロナワクチンを契機に,日本のワクチン管理体制を抜本的に見直すべきであり,日医を通じて国に提言していく必要がある。
その後の意見交換では,参与より,入院医療コントロールセンターの一元的な管理の下,一般診療所から高度先進医療対応病院まで役割分担がしっかり行われ,医療機関,医師会,行政が協調して新型コロナに対峙している京都府の体制は,全国的に見ても成功例だと評価する一方で,第5波では新規感染者の急増にともなって自宅療養者数が増大する中,府立体育館に設置された入院待機ステーションはいわば「海に浮かんだ筏」であり,すでに「災害モード」であるとの認識が示された。この状況下においては,自宅療養者への電話相談を一層強化し,いかにして重症者をピックアップするかが課題であるとして,医師会として京都市電話診療所等の取組みを強化することの重要性を訴えるとともに,不安定なワクチン供給により,各医療機関が個別接種の対応に苦慮している現状から,ワクチン接種は集団接種に一本化し,今後は各医療機関のワクチン接種の労力を自宅療養者の健康管理に向ける方が効率的ではないかとの提案がなされた。
府医からは,刻々と状況が変化する中で,どこに注力すべきかを常に考えていかなければならないとした上で,毎日500人規模で新規陽性者が発生する中では,保健所からのファーストコンタクトさえ追いつかない状況であり,京都市ではこの状況を改善するため,従来の保健所業務を見直し,オペレーションセンターを改めて市民に周知することで,自宅療養中に症状が悪化した場合のアクセスポイントを明示し,そこに連絡があったものに対して電話診療所からコールバックして,投薬,検査,入院等,必要な医療の判断を行う仕組みとしていることを説明した。
また,今後,訪問診療や病院で新型コロナに対応する医療従事者には,3回目接種を検討してはどうかと提案に対し,松井府医会長は,新型コロナの感染拡大が長引けば3回目の追加接種も議論されるが,現状はあくまで2回接種のみであることを強調した上で,若い世代にも早期に2回接種を完了させることが重要であると訴えた。
また,参与より,新型コロナワクチンの予約に関して,集団接種を予約したが実施の目処が立たないために,京あんしん予約システムであちこちの診療所に予約している人が多く,予約に負荷をかけていると指摘があり,この状況を解消するため,集団接種の今後の見通しを示すよう要望があった。
府医からは,ワクチンの供給の目処が立たず,予約者に連絡できていない状況が続いているとして,行政に対し,集団接種の今後の見通しが周知されるよう進言していくとした。
その他,検査で陽性が判明したハイリスク患者には,当該医療機関からパルスオキシメーターを配付できると効率的であるとの指摘に対して,京都府による自宅療養者へのパルスオキシメーターの配付が追い付いていないことから,あらかじめ医療機関にパルスオキシメーターを配付しておき,陽性を確認したかかりつけ医から患者へすぐに手渡せるよう協議していることを説明し,併せて,50歳以上,BMI30以上の肥満など重症化リスク因子のチェックリストを作成していただき,陽性と判断されたその日に情報把握できるようにすることで,早期に中和抗体薬による治療が実施できる条件を整えていこうとしていると述べ,理解を求めた。
各地区医から事前に提出のあった意見・要望について,府医より回答した。
◇新型コロナワクチン接種協力医療機関に対する協力金について:下京東部医師会
新型コロナワクチン接種協力医療機関に対して,国から協力金はないのか。
ワクチンの予約事務・希釈・管理・接種,そしてV-SYSへの入力・タブレット(VRS)での読み取り作業など時間も神経も使うことばかりである。医療従事者は,この大変な仕事に対して,新型コロナ感染症を収束させるために日々接種事業に協力しているが,診療時間内に行っても,通常の診療を縮小して行っている。また,データ入力作業などは時間外業務となることが殆どである。日本医師会から政府に要望していただきたい。
【回 答】
通常診療に加え,ワクチン接種や検査等,日々感染症対策にご協力いただいているところであるが,ご指摘のとおり,協力金・補助金等は無いのが現状である。
すでにご承知のとおり,本体部分に上乗せした時間外や休日加算,週や日の接種回数での加算などはあるものの,診療中の接種や,接種回数が少ない場合は加算が無い上に,電話対応などで業務量も増えていることについて日医を通じ,政府に強く要望していきたい。
◇新型コロナワクチンの配分について:福知山医師会
新型コロナワクチンについて,大都市に集中することのないよう地方都市にも十分な配分ができるようご配慮いただきたい。
①ワクチン接種を多くの人たちが受けるようキャンペーンを実施してほしい。
②地区医内でのPCR陽性者の詳細について,担当理事,救急病院に知らせてほしい。
【回 答】
京都府では,個別医療機関での接種の促進として日曜や診療時間外での接種ができるよう,接種費用の上乗せなどの財政支援を行い,各診療所等での接種促進や各市町村での集団接種や府内2ヶ所に大規模接種会場を設置し,大規模接種会場での夜間帯の接種など,より多くの方に接種が行えるよう京都府と協議している。
①キャンペーンの実施については,ワクチンの供給数に左右されるため,京都府・京都市とも協議し,若年層の接種者が増えるよう検討していく。
②京都府では日々の陽性者一覧が京都府のホームページで発表されておりますが,府医への報告もこの資料と同じもので市町村別の陽性者についての報告はなされていない。新型コロナウイルス感染症だけでなく,他の感染症の集団発生についても地区医により具体的な情報をお伝えできるよう,以前より京都府・京都市には申し入れているが,実現されていない。引続き,行政には詳細な情報提供を速やかに行っていただけるよう申し入れていく。
◇京都市と医師会とのスムーズな連携について:西京医師会
現状で大きな問題はないと思っているが,ワクチン業務を通して,京都市と医師会の連携がさらに良くなる方法はないかと考えている。
京都市医師会がないため,府医が京都市との調整をうまくやっていただいている一方で,その後,実際に京都市と地区医との相談・調整の際に,個別の案件等で改めて検討すべき課題等があると,その都度,双方で調整を要すること(集団接種等)が何度かあった。実際には問題なく業務実施できてはいるが,京都市と府医との打合せ・調整の際に,全体を見る府医役員と,現場の状況を把握している地区医の者が同席することで,様々な観点から検討ができ,業務の協議,調整,実行の点で有利になると思う。
これまでの歴史・経緯から現在の形になっているが,京都市域地区医師会連合会として,府医の担当役員と,地区医会長代表が持ち回りで参加するような形が取れると,京都市と医師会との調整の力になれるのではないかと考えている。
府医に様々な委員会がある中,新たな仕組みを作るのは困難であるため,認知症のアドバイザリーボードやワクチン関連の担当理事連絡協議会等を一般会員に公開したように,府医と京都市との調整の会合を地区医代表に公開するような形でも良いかもしれない。
京都府と京都市の人口バランスや,京都市という145 万都市での全市統一した行政のあり方など様々な問題を含んでいるが,さらにスムーズな連携の形を模索できればと考えている。
【回 答】
京都市においては,本庁への事業集約化が行われており,以前に比べて本庁において事業が計画され進められる傾向がある。府医としても,関連する委員会や地区担当理事連絡協議会を開催し,ご意見・ご協議をいただくことで,事業の質向上に努めているところである。
ご指摘のとおり,現場の状況を把握しておられる地区医よりご意見をいただくことで,京都市との調整において,より具体的に課題の検討・調整が可能になると考えている。しかしながら,そのタイミングを逸することもあり,区役所や京都市との調整において地区医にご苦労をおかけしたことを反省している。
地区医との連携強化を図るための具体策として,月一回開催される地区庶務担当理事連絡協議会において,京都府全体の会議終了後に,必要に応じて,京都市内の地区医との意見交換や京都市担当者からの説明の機会を設ける方向で検討したい。案件によっては,その場への参与の先生方の参加をお願いしたいと考えている。
京都市の財政が厳しさを増す中,各地区医と府医との連携を強化し,地域医療を考え,実行していきたいと考えている。引続きご指導,ご協力をお願い申し上げる。