2021年11月15日号
府医では,府民・市民向け広報誌「BeWell」,VOL.96「心房細動」」を発刊しました(本号に同封)。
各医療機関におかれましては,本紙を診療の一助に,また待合室の読み物としてご活用ください。
本誌に関するお問い合わせは,府医総務課(電話:075-354-6102,FAX:075-354-6074)までご連絡ください。
VOL.96「心房細動」
(A3版,見開き4ページ)
京都医療センター 循環器内科 赤尾 昌治
1.心房細動の疫学
心房細動は,心臓の不整脈の一種であり,脈の規則性が完全に失われてバラバラになるのが特徴です。高齢者に多く,国内の患者数は100万人を超えると言われています。動悸や息切れといった症状のある患者が半数ですが,無症状の患者も半数あります。心房細動があると心臓のなか(多くは左心房)に血栓を生じやすく,これが血流に乗って脳の血管を閉塞し,脳梗塞を起こします。この心房細動から起きる脳梗塞(心原性脳塞栓症)は,すべての脳梗塞の3割程度を占めますが,他の脳梗塞に比べて重症が多いことが特徴で,一度の脳梗塞で寝たきり,車いす生活になってしまうことも多く,なんとかこれを予防することが大切です。
2.脳梗塞発症のリスク
心房細動患者のなかで,脳梗塞ハイリスク患者を同定するため,CHADS2スコアが日常診療で用いられます。心不全(C),高血圧(H),75歳以上(A),糖尿病(D)で各1点,脳梗塞既往(S2)で2点(満点で6点)です。0点は低リスク,1点は中間リスク,2点以上は高リスクと分類されます。これ以外にも,65歳以上,心房細動の種類(慢性),左心房の拡大,低体重(50キロ以下),腎機能障害などもリスクと言われています。
3.脳梗塞予防のための抗凝固薬
脳梗塞の予防には,抗凝固薬の有効性が証明されています。血液の凝固性を妨げて,心臓のなかに血栓ができにくくすることで,脳梗塞を予防します。しかしながらその反作用として,凝固性を妨げるため,出血しやすい状態になります。歯肉出血,鼻出血,皮下出血など命に別状はないものが大半ですが,時には入院が必要になったり,致死的な出血を起こします(なかでも脳出血は予後不良です)。俗に「血液サラサラの薬」といわれますが,血流をスムーズにする,といった健康増進の効果ではなく,あくまでも脳梗塞の予防が目的です。CHADS2スコアが1点以上の患者さんが,抗凝固薬の適応になります。
4.カテーテルアブレーション治療
2000年以降,心房細動の治療としてカテーテルアブレーション治療が長足の進歩を遂げました。これは,心臓のなかにカテーテルを入れて,心房細動を起こす源となる期外収縮が心臓全体に拡がらないよう,隔離してしまうような治療です。従来の高周波での焼灼に加え,冷凍バルーンによる治療が登場し,より確実性が増しています。心房細動を起きにくくして,動悸などの症状を緩和する効果が実証されていますが,3時間前後かかる比較的大がかりな手術です。すべての心房細動患者さんに適応となる手術ではなく,適応に関しては専門医に相談することが必要になります。
5.心房細動にならないために
心房細動は,高齢者に多い生活習慣病です。心房細動,ひいては脳梗塞を予防するために,患者への生活習慣指導をよろしくお願いします。