地域医療部通信 – 新型コロナウイルス感染症関連情報 第34報

新型コロナウイルス感染症対策
~京都府医師会での対応,2021年10月~

2021年10月31日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波は,10月に新規感染者数が急激に減少し,病床利用率や重症病床利用率は第3波拡大以前のレベルまで下がってきた。コロナワクチンの接種率は右肩上がりに上昇し,我が国の2回接種完了者は全人口の70%以上となり,接種が先行した諸外国の接種率を超えてきた。コロナワクチンの3回目接種(追加接種)について,厚労省から全国の自治体へ準備開始の指示が出て,ある程度の見通しは立っているものの,具体的な方法等はまだ公式に発表されていない。
 10月の1か月間の動向について述べる。
 なお,本文中に記載した数値や対応策等は,10月31日時点のものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。

2.COVID-19の流行状況とその対策

⑴ 全国の感染者数の推移と対策
 10月になっても全国の新規感染者数は減少が継続し,初旬から1週間では10万人あたり約4となっており,第4波の感染拡大前の水準も下回っていた。すべての都道府県で10万人あたり約10以下となった。
 新規感染者の減少にともなって,療養者数,重症者数や死亡者数も減少が続いているが,中旬の時点では重症者数と死亡者数は第5波の感染拡大前の水準には達していなかった。その後の新規感染者の減少にともない,重症者数は第5波および今春の第4波の感染拡大前の水準以下となった。一方,10月中旬の死亡者数は第5波前の水準を超えていた。東京都と大阪府の新規感染者は中旬には100名を下回ってきた。
 全国の緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置(まん防措置)が10月1日に解除されたが,多くの地域では夜間停留人口の増加が続いており,新規感染者数の動向には注意が必要であった。
 全国の実効再生産数は,10月にはいって0.7前後が続いている。
 これまでの市民や事業者の感染対策への協力,夜間停留人口の減少,ワクチン接種率の向上,医療機関や高齢者施設のクラスター感染の減少などにより,全国の実効再生産数は,8月下旬以降,1か月以上にわたって約0.6~0.9の間を維持しており,緊急事態宣言やまん防措置がすべて解除された後も,新規感染者数減少が続いた。この急激な感染者数の減少の理由は,明確には説明がついていない。一方,緊急事態宣言等の解除後,夜間の停留人口の増加が顕著に現れており,一部の地域では実効再生産数が上昇する時期もあり,感染者数の減少速度鈍化や下げ止まりが懸念された。ワクチン接種がさらに進むことによる効果が期待されるが,今後の感染再拡大を見据えて現在の感染状況が改善している状況を少しでも長く維持し,感染者数をもう一段階落とすことが重要である。このため,マスクの正しい装着,手指衛生,ゼロ密(1つの密でも避ける)や換気といった基本的な感染対策の徹底について,引続き市民や事業者に協力していただくことが必要である。また,飲食の際は,少人数,短時間とし,飲食以外はマスクを着用することが求められる。さらに,改訂された基本的対処方針を踏まえて,国や自治体においては,外出時には混雑している場所や時間を避けて少人数で行動するよう周知を行うことや,企業におけるテレワーク等の推進状況を踏まえた柔軟な働き方の実施に向けた呼びかけを行うことが必要である。なお,今回の急速な減少の要因とその寄与度などについては,今後の感染再拡大に備えるためにもさらなる分析が必要である。また,若年層などワクチン接種が十分に進んでいない年代層・グループに対する接種の促進を着実に進めるとともに,今後の感染再拡大に備えた医療提供体制・公衆衛生体制の強化を進めていくことが必要である。その際,ワクチン接種がさらに進むことによる感染拡大の抑制・重症化予防が期待される一方,ワクチンの効果の減弱によるブレークスルー感染の増加が想定されるため,ワクチン接種者であっても症状が疑われる場合等には引続き受診・検査を行うことが求められる。10月15日に示された『「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」の骨格』に基づく,医療提供体制・公衆衛生体制の強化を進めていくことが求められる。
 国立感染症研究所は,8月12日~9月1日に採取された検体における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子配列の解読の結果,アルファ株とデルタ株が混ざったとみられるSARS-CoV-2の新しい変異株が国内で6人から見つかったと発表した。感染力などに関わる遺伝子についてはデルタ株の性質を引き継いでいるとみられ,現時点ではデルタ株より感染力などが強くなる可能性はないと考えられる,とした。アルファ株とデルタ株の両方に感染した人の体内で,ウイルスが混ざり合う組み換えが起こったとみられ,ほぼ同一の遺伝子配列で,6人のウイルスは共通の起源であるとされる。この変異株によって第6波が起こるかは現時点では不明である。
 SARS-CoV-2は現時点で全国的にデルタ株に置き換わっているが,国内での新たな監視強化の対象となる変異株が確認されていないことから,単一変異を探知する変異株PCR検査の見直しが行われた。今後は様々な変異株の発生動向を広く監視する体制へ変更し,全ゲノム解析を地域に偏りがないよう全国的に5-10%程度実施すること,また全自治体で現在行われているL452R変異株PCR検査を終了することになった。
 緊急事態宣言およびまん防措置の解除に続いて,時短要請の解除も含めて我が国での緩和が少しずつ進んできている。ワクチン接種率が増加し,第5波が急速に収束に向かったことから,国民に油断が出てくることに注意を要する。例えば,シンガポールの感染拡大は注目すべきで,我が国で同じことが起こる可能性は否定できない。
 シンガポールは,いくつか存在するいわゆる感染ゼロ国の1つであった。世界屈指の厳格な規制措置を実行し,新規感染者と死者を他国・地域よりずっと少ない数に抑え込んできた。全人口550万人の大半がコロナワクチン接種を終えて(人口あたりの接種完了者は82.7%)から,徐々に規制を緩めて,経済活動を再開させる戦略の一環の途上であった。シンガポールではマスク着用が義務付けられ,行動規制がなお厳しい上に,追加接種も始まった。それでもデルタ株が主体となっている直近の感染拡大局面における感染者は9月初めの55人から280人に増え,10月29日時点で4,248人(7日間平均3,777人)と増え続けている。
 第5波では自宅療養者が全国で最大13万人超に上り,病床逼迫にともなって入院調整が難航し,自宅療養のまま死亡する例が相次いだ。厚労省は10月13日に,第5波での自宅療養者についての調査結果を明らかにした。第5波のピーク時の8月に,全国の自宅療養者のおよそ10人に1人が中等症であった。中等症は本来は入院加療対象であるが,中等症Ⅱも含まれており,一部では入院できないまま症状が悪化した可能性がある。中等症Ⅰを含めて中等症になった感染者が入院あるいは重症化した割合については不明としていた。全国で中等症の割合が最も高かったのは8月19日で,計9.1%(は中等症Ⅱが2.7%,中等症Ⅰが6.4%)であった。9月末には中等症Ⅱは1%未満,中等症Ⅰは3%台となっていた。

⑵ 京都府の感染者数の推移と対策
 京都府内では,10月に入ってからも感染者数は第5波のピーク時の10分の1程度に減少し,1日あたりの新規感染者数は50名を下回り,さらに漸減して中旬には7日間平均の新規陽性者数は10名台となり,17日以降は10名を下回った。すべての年代で減少傾向であり,すべての年代でステージⅢ相当を下回った。高度重症病床は21日の1床のあと,22日以降はゼロ床となった。
 京都府の実効再生産数は,10月初旬から下旬にかけて0.7前後から0.5代を推移したが,10月24日から漸増し1.0前後となった。この増加は新規感染者数の減少の影響であるが,注視する必要がある。

表1.感染再拡大防止対策のための目安の状況(京都府)

表2.国分科会モニタリング指標の状況

3.府医の10月の活動

⑴ 会議等
 府医の各種会議(定例理事会,各部会,常任委員会,地区庶務担当理事連絡協議会,等)は前月と同様にすべてWebあるいはハイブリッドで開催した。今年度の地区医との懇談会はWeb開催の方針としているため,10月13日京都北,16日右京,20日下京西部,28日中京西部とはWebで行った。
 コロナ関連の会議あるいは協議は,13日に診療・検査医療機関の公表に関する京都府との協議,14日にコロナワクチンに関する京都市との協議,15日にコロナ陽性妊婦への対応に関する京都市との打合せ,21日にコロナ後遺症に係る診療に関する京都府との面談,28日にワクチン追加接種に関する京都府との協議を行った。23日に近畿ブロック衛生主管部長・府県医合同連絡協議会が開催され,行政と医師会とのコロナ対策の連携について意見交換が行われた。京都からは京都府健康福祉部の長谷川部長と松井府医会長,4副会長,担当理事が参加した(府医会館からWebで)。月に1度Webで開催される日医の都道府県医新型コロナ対策担当理事連絡協議会に担当役員と事務局が参加した。
 松井府医会長は,15日京都府新型コロナウイルス対策専門家意見交換会,18日京都府新型コロナウイルス対策本部会議に出席,また30日十四大都市医師会連絡協議会会長会議はWebで参加した。十四大都市連絡協議会の第1・2・3分科会には府医役員がWeb参加し,COVID-19関連の協議が行われた。第1分科会はCOVID-19感染拡大時の救急医療体制や急病診療所の対応,第2分科会は高齢者施設あるいは在宅でのCOVID-19に関する対応,第3分科会は感染拡大時の医師会運営,Web会議,などICT関連について意見交換された。
 COVID-19陽性妊婦に対する医療体制構築にむけて,京都市と京都産婦人科医会および府医で協議を重ねてきた。医療体制確保の一環として府医会館駐車場に診療コンテナを設置した。10月21日に「新型コロナウイルス感染症の在宅療養中の妊婦に対する医療体制構築向けた協定」を,京都市門川市長,京都産婦人科医会柏井会長,松井府医会長の出席のもとで締結した。

⑵ 宿泊療養健康管理
 ヴィスキオ京都(V)とアパホテル京都駅堀川(AH),アパホテル京都駅東(AE)の3か所を宿泊療養施設としているが,新規感染者数の減少にともなって宿泊療養者も減ってきた。AHは10月から新規入所者をゼロとし,10月6日の2名の退所者をもって総入所者がゼロとなったため,7日から一旦閉鎖となった。また,出務医はそれまで1日あたり2名であったが,中旬からVもAEも各1名とした。1日あたりの入所人数は,各施設とも一桁台となり,10月末に総入所者数もそれぞれ一桁となった。VとAEの総入所者数は,それぞれ116名,83名で,うち退所者は116名(うち転院16名),83名(同7名)であった。

⑶ 京都府・医師会 京都検査センター(府医PCR検査相談センター)の診療・検査医療機関紹介
 診療・検査医療機関への紹介業務は,上旬は20名前後を受けつけていたが,下旬には一桁あるいは15名前後に減ってきた。受付総数は373件,紹介完了は319件であった。相談者の都合によるキャンセルは9.6%であった。
 なお,「二類感染症患者入院診療加算(外来診療・診療報酬上臨時的取り扱い)250点」を算定する要件として,11月から自治体のホームページで公表されている「診療・検査医療機関」であることとされており(10月31日までの間は,当該保険医療機関のホームページによる公表,看板の設置,院外での広告の掲示,広報誌等による周知により,対外的に情報が得られる方法により,自治体による公表に変えることが可能),京都府による公表についての意向確認が行われた。その結果,10月28日時点で,京都府内の診療・検査医療機関は776(京都市475;乙訓49;山城北97;山城南36;南丹31;中丹51;丹後37)であり,公表を可とする医療機関は462(うち,かかりつけ患者以外も可とするのが341),公表を不可とするのは188であった。診療・検査医療機関は2021年2月末時点で616であったが,約8か月で160医療機関が増えたことになる。

⑷ 京都市電話診療所(自宅療養者の健康観察)
 第5波のピーク時の8月17日から業務を開始し,9月上旬までは1日あたり20名前後(13~28名)の診療数であったが,新規感染者数減少,自宅療養者数の減少にともない,9月下旬には診療数は一桁となった。10月に入っても診療数の減少が続き,1日に4件,その後0~1が続き,9日の2件を最後に11日以降の診療数はゼロとなった。中和抗体薬適用判断の対象は10月はのべ5件に留まった。

4.COVID-19ワクチン

⑴ 国内外の接種状況(表3)
 我が国の全人口あたりの接種率は右肩上がりに上昇し70%を超えた。世界的にみると,80%超はアラブ首長国連邦の87.5%,ポルトガル86.0%,シンガポール82.7%であり,70%超は,チリ,スペイン,イタリア,日本である。接種が先行した諸国では70%を下回り,英国68.1%,フランス67.9%,ドイツ66.6%,イスラエル62.1%で,米国は57.4%と60%を下回り,各国とも頭打ち状態である。
 先進国でコロナワクチンの余剰が目立ち,一部に使用期限が迫っている。欧米で必要量以上に契約・購入したワクチンの在庫が増え,年末までに2億回分超が使用期限の接近で使い道がなくなる恐れがある。日本も来春までに1億回分が期限切れになる。コロナワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組みCOVAXは,WHOなどの国際組織が主導している。今までに143か国・地域に3億回分強のワクチンを提供した。日本は国内での使用を制限しているアストラゼネカ社製ワクチンをCOVAXを通じて寄付してきた。COVAXは当初2021年中に世界でおよそ20億回分のワクチン供給を目指していたが,9月に発表した計画では約14億回分に下方修正した。COVAX向けワクチンの多くを生産しているインドが国内供給を優先するために輸出制限をしたこと,アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンの生産が遅延したことが影響した。低所得国でのワウチン接種率は平均3%未満に留まっており,国民への接種が進んでいる先進国との格差は大きい。また高所得国ではすでに追加接種(3回目接種)が始まっており,低所得国への寄付を優先すべきとの批判もある。一部の国ではCOVAXを経由せずに直接途上国に寄付するケースもある。接種の遅れている途上国・低所得国にワクチンを早期に行き渡らせるための国際的な融通を急ぐ必要がある。

表3.国内のワクチン接種状況 (2021年10月31日時点)

⑵ 3回目接種(追加接種)の今後の見通し
 10月末の時点で,追加接種の具体的な最終決定は出されていないが,10月15日号京都医報地域医療部通信COVID-19関連情報第33報に記載のとおり,9月17日の第24回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において,追加接種が必要であること,2回目接種完了後概ね8か月以上後に行うことが意見として出された。
 10月28日の第25回分科会では,コロナワクチン追加接種を開始した諸外国の実情と追加接種の効果に関する報告等をもとに意見交換が行われ,次の意見が出された。
 (ア) 2回接種完了者すべてに対して追加接種の機会を与えること
 (イ) 国内外でのワクチンの効果等を踏まえて,特に接種することが望ましい者について検討を進め,国民へ広報等を行う
 (ウ) 使用するワクチンは,1・2回目に用いたワクチンの種類にかかわらずmRNAワクチン(ファイザー社またはモデルナ社)を用いるが,引続き科学的知見を収集して,検討を行う
 
 追加接種に使用するファイザー社製ワクチンは,追加接種第1クールとして京都府に63箱が配分(11月22日と29日の週に配送)されることは決定済みであるが,追加接種第2クールは11月下旬を目処に配分量が通知される予定である(12月から来年1月に配送予定)。
 現時点で想定される今後のスケジュールは以下のとおりである。

(11月中旬)
 ・ファイザー社ワクチンの追加接種について対象者等を定める省令改正等を厚生科学審議会に諮問
 ・自治体説明会
(11月中下旬)
 ・市町村から接種券(一体型予診票)を順次送付開始
 ・自治体に対し,12月および1月接種分としてファイザー社ワクチン約412万回分配分(以後,順次,必要量を配分)
(12月1日)
 ・追加接種の関係省令を施行。以後,市町村において順次ファイザー社ワクチンにより追加接種を開始
(12月下旬以降)
 ・モデルナ社ワクチンの追加接種について,厚生科学審議会に諮問
(2022年1月)
 ・自治体に対し,モデルナ社ワクチンの配分開始(以後,順次,必要量を配分)
(2月)
 モデルナ社ワクチンによる追加接種開始

 11月中旬開催予定の自治体説明会と同時期に,追加接種に関する正式な決定内容が国から公表されると思われる。

⑶ VRS入力の問題点
 追加接種のための接種券は,VRSか各自治体が運用する予防接種台帳のデータから抽出して発行することになっている。コロナワクチン接種を担う医療機関や自治体などがVRSで接種券に印字された18桁の数字(OCRライン)を読み取り,ワクチン接種を受けた人のデータ管理がなされている。しかし,その肝心のVRSでデータが正しく入力されていないとする報告が相次いでいる。接種券番号が読み取りにくく誤登録につながった可能性があるが,VRSのデータが正しいかどうかは,予診票に貼られた接種券とVRSデータを突合しないとわからない。現時点で各市町村は国保連合会などから回収された予診票をもとに接種記録を確認・再登録する作業を開始している。
 またVRS入力に協力をしない医療機関がごく一部にあり,予診票が回収されるまで接種されたかどうかが分からないケースも出てくる。追加接種の接種券出力だけでなく,今後,接種証明書の電子申請などの際にはVRSデータが利用される見通しであり,その電子申請でエラーが出る場合が推察される。VRSはたびたび改修しているが,現場での課題に追いついていないという現実がある。今秋に追加された入力エラーの検知機能も,誤ったデータではないのにエラー表示になるなど,改善を求める声が上がっている。

⑷ コロナワクチン関連の情報
① ワクチン起因性免疫性血小板減少症/血栓症
(Vaccine-Induced Immune Thrombocytopenia and Thrombosis, VITT)
 VITTは,アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)に関連する新たな症候群である。臨床試験段階で問題視され,臨床試験が一時中断した経緯があった。2021年3月22日~6月6日に受診したVITTが疑われた患者を対象とする前向きコホート研究が英国で行われた。294例のうちVITT確定例50例がほぼ確実例と判定され,全例がアストラゼネカ社製ワクチンの1回目接種を受けており,接種後5~48日(中央値14日)で受診した。年齢は18~79歳(中央値48歳)で,性による優位性や同定できる医学的危険因子はなかった。全死亡率は22%で,脳静脈洞血栓症を有すると2.7倍,ベースラインの血小板数が50%低下する毎に1.7倍,ベースラインのDダイマー値がフィブリノーゲン当量で10,000単位上昇する毎に1.2倍,ベースラインのフィブリノーゲン値が50%低下する毎に1.7倍,死亡のオッズが上昇した。ベースラインの血小板数30,000/mm3未満で,頭蓋内出血を有する患者で観察された死亡率は73%であった。治療法は依然不明であるが,予後予測因子が同定されれば有効な管理指針となる可能性がある。

② モデルナ社製ワクチンの心筋炎リスク
 フィンランドは,モデルナ社製ワクチンによるまれな心筋炎などの副反応を引き起こすリスクから,30歳以下の男性への接種を中止すると10月7日に発表した。フィンランドでは30歳以下の男性への接種はファイザー社製に変更し,スウェーデンは30歳以下,デンマークは18歳未満のモデルナ社製ワクチンの投与を取りやめ,ノルウェーは中止はしないものの30歳未満の男性にはファイザー社製を推奨することにした。
 我が国の対応については,10月15日に開催された第70回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と第19回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品安全対策部会安全対策調査会の合同開催で議論された。国内外の様々なデータをもとに意見交換され,「心筋炎,心膜炎などの心筋炎関連事象は,いずれのワクチンにおいても,COVID-19感染後の発生率(若年男性450~900人/100万人)と比較して,ワクチン接種によるベネフィットがリスクを上回ると評価できる」(2回目接種後:ファイザー;20代男性10.74件/100万回,モデルナ;10代男性43.21件,20代男性31.48件/100万回),「全世代においてワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない」,「10歳代および20歳代の男性では,ファイザー社ワクチンに比べてモデルナ社ワクチン接種後の心筋炎関連事象が疑われる報告頻度が明らかに高いことから,十分な情報提供の上,ファイザー社ワクチンの接種も選択できる」こととした。この議論の中で,ワクチンのベネフィットについては心筋炎だけで比べることはできないことと,他の感染にともなう様々なことがベネフィットとしてあるため,モデルナ社製がファイザー社製に比べて劣るものではないこととファイザー社製を推奨するということではないことに留意すること,とされた。今後のモデルナ社製ワクチン接種は,接種希望者のうち若年男性に対して十分な説明を行い,同意を得ればモデルナ社製ワクチン接種が妨げられるものではないとした上で,行うことになる。

③ 追加接種
 米国FDA(食品衛生局)は,10月20日,モデルナ社とジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社のコロナワクチンについて,接種完了者への追加接種を認めた。すでに承認されているファイザー社と併せて3種類のすべてが承認されたことになった。またFDAは,種類の異なるワクチンを組み合わせて追加投与する交互接種も承認した。モデルナ社製の追加接種は,65歳以上の高齢者や重症化リスクの高い18歳以上,医療関係者を対象とした。1回接種タイプのJ&J社製ワクチンは,接種から2か月以上経過した18歳以上を対象とした。CDC(米疾病センター)も,21日にモデルナ社,J&J社の追加接種を推奨するとの見解を発表した。
 ファイザー/ビオンテックは,ファイザー社製ワクチンの追加接種で,発症予防効果が95.6%に達したとする臨床試験結果を発表した。ファイザー社製ワクチンの2回接種完了者の16歳以上の1万人余りを対象とした臨床試験で,3回目を接種した者は発症が5件であったが,プラセボ投与のグループでは109件の発症であった。

④ 国産コロナワクチン
 第一三共は,コロナワクチン(mRNAワクチン)の初期段階の臨床試験で一定の有効性と安全性を確認したと21日に発表した。臨床試験は20歳以上の男女124人を対象とし,2回接種後4週間までの期間の副反応では安全性に大きな問題がなかったことと,接種者での抗体上昇を確認した。11月に中間段階の臨床試験を開始する方針で,順調なら年度内に最終段階の臨床試験に進み,国外での臨床試験も検討しており,2022年の実用化を目指している。
 塩野義の遺伝子組み換えたんぱくワクチンについて,臨床試験の中間段階を20日に開始したことを同社が発表した。臨床試験の対象は20歳以上の男女3,100名で,2回のワクチン接種後の抗体の変化や安全性について検討している。対象者は複数のグループに分けられ,ワクチンの用量を変えて接種し,抗体量の変化や安全性を調べ,適切なワクチン量を確かめる試験も行う。対象者をさらに増やし,最終段階の臨床試験は年内に国内外で始めることを計画している。

5.COVID-19治療薬

⑴ 経口治療薬
 米アテア・ファーマシューティカルズとスイス・ロシュの共同開発のCOVID-19の経口治療薬(AT-527,第33報に記載)(中外製薬が日本での導入を予定)について,中間段階の臨床試験で期待通りの有効性を確認できなかったと発表した。臨床試験では,重症化リスクが低い軽症・中等症のCOVID-19患者らを中心に経口薬の有効性を調べたが,体内のウイルスを減少させる明確な効果は見られなかった。基礎疾患があり,重症化リスクが高い患者には一定の効果があったとした。後期臨床試験の見直しをアテア社が検討し,臨床試験の最終結果の報告は当初予定の年内から来年後半にずれ込む見通しとなった。
 米メルク社が開発中のコロナ治療薬molnupiravirモルヌピラビルについて臨床3相試験の中間解析結果を10月1日に発表した。軽症~中等症で入院していない成人COVID-19感染者1,550例を登録した国際臨床Ⅲ相臨床試験の,8月5日以前に登録された775例を対象とする中間解析結果,モルヌラビル群とプラセボ群にランダム割り付けて投与した後,29日までの入院または死亡率などを検討した。入院または死亡率はプラセボ群の14.1%(53/377例)に比べ,モルヌピラビル群では7.3%(28/385例)と有意に低かった(P<0,0012)。死亡はモルヌピラビル群では認められなかった(プラセボ群7.3%(28/385例))。また有害事象の発現率はモルヌピラビル群とプラセボ群とは同等であった。メルク社は,死亡や入院などの重症化リスクを半減させるという臨床試験の結果を見越して,米国政府と調達契約を締結し,11日にモルヌピラビルの緊急使用許可をFDAに申請した。14日にFDAは緊急使用許可を審議する第三者委員会を11月30日に開催することを発表した。承認されれば世界で初めてのCOVID-19治療内服薬となる。使用や保管が容易で,実用化への期待が高まる。

⑵ 中和抗体薬
 大阪府では,第4波で医療体制が危機的状況に陥り,4~5月の死者は全国の3割近くを占めた。大阪府は,中和抗体薬投与を入院する医療機関以外に2か所の宿泊療養施設に抗体カクテル療法投与室を整備し,このほか自宅療養者向けに病院の外来や在宅で中和抗体薬の治療が受けられる体制を整えた。大阪府内で9月21日までに中和抗体療法を実施した306人のうち296人(96.7%)で症状が改善したとするデータを公表した。

6.その他

⑴ COVID-19後遺症
 国立国際医療研究センター(NCGM)国際感染症センターの研究グループが,COVID-19の回復期に生じることがある後遺症の持続期間や出現しやすい患者の特徴,危険因子を探る調査を実施し,結果を報告した。COVID-19回復後の患者526例を対象にアンケートを実施し,457例から回答を得た(回答率86.9%,発症からアンケート回収までの期間の中央値は248.5日)。年齢中央値は47歳,女性が50.5%,何らかの基礎疾患を有するのは46.4%であった。データが欠損していた9例を除く448例のうち84.4%(378例)は軽症者で,中等症12.7%(57例),重症2.9%(13例)であった。解析の結果,発症時または診断時から6か月経過時点で26.3%(120例)に何らかの症状が認められた。軽症者であっても遷延症状が長引く者があることも明らかになった。また,12か月経過時点でも8.8%(40例)に何らかの症状が認められた。症状を,①急性期症状(発熱,頭痛,食欲低下,関節痛,咽頭痛,筋肉痛,下痢,喀痰),②急性期から遷延する症状(倦怠感,味覚障害,嗅覚障害,咳嗽,呼吸困難),③回復期に出現する症状(脱毛,集中力低下,記銘力障害,うつ)の3つに分類した。遷延症状である②と③に関して,症状の出現リスク,症状が出現した患者における遷延リスクを探索的に調査した。その結果,倦怠感,味覚障害,嗅覚障害,脱毛は男性に比べて女性で出現しやすく,中でも味覚障害は遷延しやすかった。味覚・嗅覚障害は若年者,痩せ形で出現しやすくQOLを著しく低下させる可能性が示された。男女で比較すると,倦怠感は2倍,脱毛は3倍,女性の方が出現しやすかった。なお,抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療の有無と遷延症状の出現に明確な相関はなかった。この研究では調査はしていないが,コロナワクチンの2回接種完了者ではCOVID-19罹患後に症状の遷延が28日間以上になりにくく,ワクチンが遷延症状出現予防にも寄与する可能性があることが報告されている。
 世界疾病負担研究(GBD)2020の一環として,COVID-19パンデミックが及ぼす精神障害への影響が検討された。GBD2019では,精神障害の中でうつ病と不安障害が二大リスク要因であることが示されたが,COVID-19パンデミックが大うつ病性障害不安障害に与える影響を検討するシステマティックレビューおよびメタ解析が実施された。PubMedなどの医学データベースから,2020年1月1日~21年1月29日に公開された論文を検索し,パンデミック前とパンデミック下で,大うつ病性障害と不安障害の有病率の変化を国・地域,性,年齢別に算出し,パンデミックの影響の指標は,人流,日々のCOVID-19感染率,日々の超過死亡率とした。解析の結果,「人流の抑制」と「日々のCOVID-19感染率」の2つが大うつ病性障害の有病率の上昇と関連することが示され,同様に不安障害の有病率の上昇とも関連していた。国・地域別の解析では,大うつ病性障害の人口10万人あたりの有病率はパンデミック前の2,470.5人から3,152.7人に上昇し,パンデミックにより増加した大うつ病性障害は全世界で5,320万人に上ると推計された。一方,不安障害の人口10万人あたりの有病率は,パンデミック前の3,824.9人から4,802.4人に上昇し,パンデミックにより増加した患者数は全世界で7,620万人に上ると推計された。男女別の解析では女性の方が,年齢による解析では若年層が高齢層に比べて有意に強い影響を受けていた。これらの結果から,世界中でメンタルヘルスへの対応を強化する必要に迫られている,とした。
 後遺症に対する医療体制は,他府県ではすでに整備されているところもあるが京都は立ち後れている。京都府内のCOVID-19罹患者から京都新型コロナ医療相談センターに後遺症に関する相談が入っているが,京都府としての対応策を持っていないためこれらの相談に応じることができなかった。京都府で体制を早急に組み立てる必要がある。京都府と府医とで後遺症フォローの医療体制整備についての協議は,10月から始めたところであり,今後も協議を重ねる予定である。

<資料>
#「Risk factors associated with development and persistence of long COVID」
(Y Miyazato, S Tsuzuki, et al, medRxiv 2021.09.21.21263998)
#「今夏の感染拡大を踏まえた今後の新型コロナウイルス感染症に対応する保健・医療提供体制の整備について」(10月1日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「「令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)の実施について」の一部改正について」(10月1日,事務連絡,厚労省医政局/健康局/医薬・生活衛生局)
#「「新型コロナウイルス感染症の検査体制整備に関する指針」について」(10月1日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬の医療機関への配分について(疑義応答集の修正)」(10月1日最終改正,厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルス感染症に係る検査並びにワクチン及び治療薬の治験体制整備のための医療法上の取扱いについて」(10月4日,事務連絡,厚労省医政局/医薬・生活衛生局)
#「「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第4.1版)」について」(10月5日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「Waning Immune Humeral Response to BNT162b2 Covid-19 Vaccine over 6 Months」(EG Levin, Y Lustig, et al, New Eng J Med, Oct 6, 2021)
#「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金に関するQ&A(第1版)」(10月7日,厚労省医政局)
#「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の終了に伴う周知依頼について」(10月7日,事務連絡,厚労省医政局)
#「Effectiveness of Covid-19 Vaccines in Ambulatory and Inpatient Care Settings」(MG Thompson, E Stenehjem, et al, New Eng J Med, 385(15):1355-71, Oct 7, 2021)
#「Bamlanivimab plus Etesevimab in Mild or Moderate Covid-19」(M Dougan, A Nirula, et al, New Eng J Med, 385(15):1382-92, Oct 7, 2021)
#「Protection of BNT162b2 Vaccine Booster against Covid-19 in Israel」(YM Bar-On, Y Goldberg, et al, New Eng J Med, 385(15):1393-1400, Oct 7, 2021)
#「Global prevalence and burden of depressive and anxiety disorders in 204 coutries and territories in 2020 due to the COVID-19 pandemic」(COVID-19 Mental Disorders Collaborators, Lancet online, Oct. 8, 2021)
#「外国人在留支援センター(FRESC)多言語ワクチン接種サポートの開設について」(10月11日,日医)
#「「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言等を踏まえた支援対策児童等への対応について」に関するQ&Aについて」(10月13日,事務連絡,厚労省子ども家庭局)
#「新型コロナウイルス感染症陽性妊婦等の受入体制の強化について」(10月14日,事務連絡,京都府入院医療コントロールセンター)
#「新型コロナウイルス感染症陽性妊婦等の情報提供に関する協力について(依頼)」(10月14日,事務連絡,京都府入院医療コントロールセンター)
#「Covid-19 Breakthrough Infections in Vaccinated Health Care Workers」(M Bergwerk, T Gonen, et al, New Eng J Med, Oct 14, 2021)
#「「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」の骨格」(10月15日,第79回新型コロナウイルス感染症対策本部,資料2-1)
#「新型コロナウイルスワクチンの追加接種(3回目接種)体制整備に係る医療用物資の配布について」(10月15日,事務連絡,厚労省医政局/健康局)
#「入院待機施設の整備に関するQ&Aについて」(10月15日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会における審議を受けた対応について」(10月15日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)に使用するファイザー社ワクチンの配分(3回目第1クール)について」(10月15日,事務連絡,厚労省健康局)
#「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)に係る「使用上の注意」の改訂について」(10月15日,事務連絡,厚労省医薬・生活衛生局)
#「新型コロナウイルスワクチンの追加接種(3回目接種)体制整備に係る医療用物資の配布について」(10月15日,厚労省医政局/健康局)
#「各都道府県における「診療・検査医療機関」の周知方針の状況について」(10月19日,日医)
#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種に関する合理的配慮の提供の事例について(情報提供)」(10月9日,事務連絡,厚労省保健局/社会・援護局)
#「新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)に係る接種券等の印刷及び発送について」(10月20日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言等の終了について」(10月20日,事務連絡,京都府府民環境部)
#「ファイザー社ワクチン及びモデルナ社ワクチンの有効期限の取扱いについて」(10月22日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルスワクチンの個別接種に係る医療機関の収入に対する課税関係について(情報提供」(10月25日,日医)
#「Clinical Features of Vaccine-Induced Immune Thrombocytopenia and Thrombosis」(S Pavord, M Scully, et al, New Eng J Med, 385;1680-9, Oct 28, 2021)
#「新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株PCR検査について」(10月28日,日医)
#「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の議論と追加接種に関する今後の見通しについて」(10月29日,事務連絡,厚労省健康局)

2021年11月15日号TOP