2021年12月15日号
2021年11月30日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム
新型コロナウイルス感染症((COVID-19)の新規感染者数はさらに減少し,2020年夏以降で最も低い水準が続いた。療養者数・重症者数・死亡者数も減少した。一方,南アフリカで最初に報告された新たな変異株(オミクロン株)が欧州をはじめ各地での伝播が確認され,今後の感染拡大に繋がることが懸念される。
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(ワクチン分科会)でコロナワクチンの追加接種の議論が進み,先行接種医療従事者は12月から開始する準備が整ってきた。
11月の1か月間の動向について述べる。
なお,本文中に記載した数値や対応策等は,11月30日時点のものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。
⑴ 全国の感染者数の推移と対策
全国のCOVID-19新規感染者数は11月に入ってもさらに減少し,今週先週比が0.87,中旬の1週間では10万人あたり約1と,2020年夏以降で最も低い水準となった。これと並行して,療養者数,重症者数や死亡者数の減少が続いた。新規感染者の年代別割合では,60代以上が2割弱まで上昇する一方で,10代以下が2割程度で横ばいが続いた。実効再生産数は,全国的には1を下回る水準が続き,首都圏や関西圏でも1を下回った。
(ア) ステージ分類から新たなレベル分類へ
11月8日に開催された政府のCOVID-19対策分科会で,ステージ分類の新たなレベル分類について協議された。新たな考え方として示されたのは,以下のとおりである。
〇従来のステージ分類の考え⽅は,ワクチン接種が⾏われていない時期における新規陽性者数と医療逼迫との関係の検証を基に新規陽性者数を含めた様々な指標の⽬安を設定したものであった。
〇そうした中,最近になり,国⺠のワクチン接種率が70%を超え,医療提供体制の強化や治療薬の開発が進んできたことで,新規陽性者数の中でも軽症者の割合が多くなり,重症者としての⼊院病床の利⽤も半分以下に減少してきている。
〇従って,新型コロナウイルス感染症との向き合い⽅について,新たな考え⽅が求められる。
〇すなわち,医療逼迫が⽣じない⽔準に感染を抑えることで,⽇常⽣活の制限を段階的に緩和し,教育や⽇常⽣活,社会経済活動の回復を促進すべきである。
〇⼀⽅で,地域の状況を個別に⾒ると新規陽性者数と医療逼迫との関係は都道府県によって⼤きく異なり,新規陽性者数の⽬安を全国⼀律には設定できない状況になってきている。
〇このことから,各都道府県が,各地域の感染の状況や医療逼迫の状況を評価し,必要な対策を遅滞なく講じる必要が出てきた。
〇今回の新たな提⾔ではレベルを5つに分類するが,具体的に⽬指すべきは,安定的に⼀般医療が確保され,新型コロナウイルス感染症に対し医療が対応できている状況(レベル1)であり,その維持のためには,以下(1)-(3)の対策を進めることが必要になる。
(1) ワクチン接種率のさらなる向上および追加接種の実施
(2) 医療提供体制の強化(治療薬へのアクセス向上を含む)
(3) 総合的な感染対策の継続
①個⼈の基本的感染防⽌策
②検査体制の充実およびサーベイランスの強化(国⺠の感染状況把握のための抗体検査等)
③積極的疫学調査の徹底(感染源調査およびワクチン・検査の戦略的実施等)
④様々な科学技術の活⽤(⼆次元バーコード(QRコード),COCOA,健康観察アプリ,⼆酸化炭素濃度測定器(CO2モニター)等)
⑤飲⾷店の第三者認証の促進
〇なお,医療提供体制の強化に関しては,常に医療機関と⾃治体が認識の⼀致に努め,最悪の状況も念頭に事前準備を⾏い,感染拡⼤の状況などを踏まえて,段階的に進める体制を構築する必要がある。
(イ) 次の感染拡大に向けた安心確保のための取組み
11月12日に政府のCOVID-19対策本部会議で「次の感染拡大に向けた安心確保のための全体像」を決定し,発表した。ワクチン,検査,治療薬などの普及による予防,発見から早期治療までの流れをさらに強化するとともに,感染力が仮に2倍あるいは3倍となるような最悪の事態を想定して,次の感染拡大に備えるとしている。
「医療提供体制の強化」については,コロナ病床や宿泊療養施設の3割増しを打ち出してきた。この「3割」の根拠となるデータがどのようなものか,何なのかを明言すべきである。さもなければ医療従事者からも国民からも十分な納得が得られない。病床の確保状況や使用率を毎月公開する「見える化」には厚労省が運用するG-MISへの入力が求められている。想定通りに病床確保が進むかどうかは十分な医療従事者の確保にかかっている。重症患者が多くなると人出が奪われるため病床が柔軟に稼働しなくなることから,病床の「見える化」だけでは,病状確保のための改善は困難となる。
注目すべきは「2)自宅・宿泊療養者への対応」である。第3波後の第4波・第5波ではさらなる病床逼迫を経験してきたが,同時に保健行政体制の逼迫から保健所の機能不全も見てきた。その中で,本来は入院加療を要する中等度以上の感染者が病床逼迫による入院調整の限界から自宅待機をせざるを得ないことが全国的に増えた。第3波の昨年末に自宅待機者のうちハイリスクの方に府医役員が電話相談を行ったが,それでも入院が間に合わずに自宅での死亡という痛恨の極みを体験した。第4波のGWにも会員と役員とで電話相談を行い,第5波では急激な自宅待機者/自宅療養者の増加のため京都市の依頼を受ける形で府医会館に「京都市電話診療所」を設置した経緯がある。宿泊療養者や自宅待機/自宅療養者の症状悪化時に検査(CTや血液検査)を実施する「陽性者外来」,中和抗体薬の適応については,方針決定と入院調整の役割を担う「京都府入院医療コントロールセンター」との連携を京都府・京都市で構築してきた。この連携による自宅療養者への健康観察をかかりつけ医等の地域の医療機関が行うことで,保健所機能の低下を防ぐことができるはずである。ここでは「すべての自宅・宿泊療養者に,陽性判明当日ないし翌日に連絡をとり,健康観察や診療を実施できる体制を確保」のために「保健所の体制強化」および「従来の保健所のみの対応を転換し,約3.2万の地域の医療機関等と連携してオンライン診療・往診,訪問診療等を行う体制を構築」としている。また「すべての自宅療養者にパルスオキシメーターを配布できるよう」については,京都市では診療・検査医療機関のうちHER-SYSで発生届を一定数以上提出したところに,事前にパルスオキシメーターや自宅療養についてのしおり等のセットを手渡す体制を構築済みである。
診療・検査医療機関等のかかりつけ医が陽性判明当日から健康観察を行うためには,発生届を受けた保健所との情報共有が必須となる。しかし,現時点では,この情報共有ができている地域も一部にあるが,多くは診断した医師は発生届が一方通行で,陽性者が入院・宿泊・自宅のいずれの療養形態になったのか,療養中の経過がどうであったのか,療養解除がいつなのか,解除時に病状がどうなのか,などが知らされない。京都市電話診療所は京都市の施設であるため,陽性者の個人情報(行政情報)が出されてきたが,これを「かかりつけ医」に拡大できるかどうかが課題である。先の「従来の保健所のみの対応を転換」するには,行政情報をかかりつけ医が共有できるという意味を含んでいるかどうかは,今後の協議で確認する必要がある。また,かかりつけ医が自宅療養者の健康観察を行う場合,保険適用についての整理と詰めが必要であり,この点も明確にすべきである。
さらに,陽性判明時に中和抗体薬の適応があると判断した場合,無床診療所の診療・検査医療機関での投与を行うためにはバックアップ体制としての入院可能な医療機関との連携は必須である。この際,中和抗体薬をその無床診療所に配置できるための条件設定,さらにロナプリーブは1セットで2人分であるため近隣の診療・検査医療機関との相互連携により無駄なく使用する体制の構築や,その調整のための京都府入院医療コントロールセンターの「中和抗体薬投与調整窓口」との連絡方法等を含め,「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組」の大きな枠組みの中で従来の対策からの再編が必要である。
(ウ) 新たな変異株の出現と水際対策の強化
11月24日に南アフリカ共和国から世界保健機関(WHO)に報告された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株B.1.1.529は,26日にオミクロン(Omicron)株と命名された。WHOはオミクロン株を警戒レベルが最も高い「懸念される変異株(VOC)」に指定した。南アフリカの直近のCOVID-19流行はデルタ株であったが,オミクロン株が認められた検体採取は11月9日で,その時期から急速に南アフリカ国内のCOVID-19感染者が増加していた。一方,オランダ保健当局は,南アフリカでの報告より前の11月19日と23日に検査を受けた2名からオミクロン株が検出されていたことを発表したが,オランダでは26日の南アフリカからの到着便の乗客13名からオミクロン株が検出されており,この26日より前にすでにオランダで感染者が存在していたことになる。また,スコットランド自治政府は,海外渡航歴のない9名から11月23日の検査分でオミクロン株を検出しており,すでに市中感染が起きた可能性があるとした。この9名は20日に開催された私的イベントに参加し,集団感染したとみられている。渡航制限措置がとられたにもかかわらず,すでに29日時点で南アフリカ以外,オーストリア,ベルギー,ボツワナ,英国,デンマーク,ドイツ,香港,イスラエル,イタリア,オランダの各国でオミクロン株が検出された。早い時期から欧州各国に広がっていたことが推察される。
日本では28日にナミビアから成田空港に到着した便の乗客からオミクロン株が検出され,我が国での最初の確認となった。7月にモデルナ社製ワクチンを2回接種完了していた30歳代である。
SARS-CoV-2は約2週間で1か所の変異を生じると考えられており,ワクチン接種率が25%以下の南アフリカでの感染拡大が進む中で変異が進んだと考えられるが,南アフリカでこの変異株が発生したのかは定かではない。現時点では,感染の強さ,重症化の程度,さらにコロナワクチンの発症予防効果あるいは重症化予防効果,中和抗体薬の重症化予防効果などについては,データ解析ができていない白紙状態のため不明である。デルタ株に比べて世界各国へ拡散するスピードが速いように思われ,次の感染拡大第6波に繋がる可能性は否定も肯定もできない。オミクロン株の詳細が判明するのに少なくとも2週間はかかると思われ,明らかになってくるのは12月中旬以降になる。WHOは加盟国に対して次のことを求めた。
● SARS-CoV-2の変異株をよりよく理解するためのサーベイランスと遺伝子配列解析の取組みを強化する
● 完全なゲノム配列と関連するメタデータを,公的データベースであるGISAID(Global Initiative on Sharing Avian Influenza Data)などの一般に利用可能なデータベースに提供する
● 懸念すべき変異株(VOC)の感染に関連する初期の症例/クラスターを,国際保健規則(IHR)メカニズムを通じてWHOに報告する
● 可能な限り,国際社会と協力して,このVOCがCOVID-19の疫学,重症度,公衆衛生および社会措置の有効性,診断方法,免疫反応,抗体による中和,その他の関連特性に与える潜在的な影響についての理解を深めるために,現地調査および研究室での査定を行う
オミクロン株はこれまでの変異株になかった変異と,従来の変異を複数持っている。変異の多くは,ウイルス表面にあるスパイクたんぱく質にみられる。オミクロン株ではスパイクたんぱく質の32か所に変異が起きているとの報告がある。PCR検査では,ウイルスの3つの標的遺伝子(スパイクたんぱく質(S),核カプシドたんぱく質,エンベロープたんぱく質)を探す方法であるが,オミクロン株には「S遺伝子ドロップアウト」または「S遺伝子ターゲット障害」と呼ばれる変異があるため,S遺伝子が検知される場合はオミクロン株でない確率が高く,検知されない場合ではオミクロン株の可能性があると判断できる。ただし「S遺伝子ドロップアウト」は必ずしもオミクロン株だけではないため,確定するためには全ゲノム解析が必要になる。英国と南アフリカでは,最先端のゲノム解析技術(次世代シークエンサー)によって精力的に新しい変異株の検出のためにゲノム解析を繰り返してきた。英国ではPCR検査での陽性検体のうち,最大20%に相当する約6万件をゲノム解析の対象としている。英国と南アフリカでオミクロン株が検知されたのは,この精力的な解析によるところが大きく,だからと言ってオミクロン株が英国や南アフリカで発生したとは断言できない。
政府は,水際作戦の強化を発表した。11月8日にはビジネス目的の短期滞在者や留学生,技能研修生らを対象に新規入国を条件付きで解禁,18日には1日の入国者数の上限を3,500人程度から5,000人程度に26日から拡大すると発表した矢先である。26日に厚労省と外務省はオミクロン株を「水際対策上特に対応すべき変異株」(表1)に指定し,27日には施設での10日間待機を求める対象国にアフリカ3か国を加えたが,29日には全世界を対象に外国人の新規入国を30日から原則停止とすることを発表した。また宿泊施設等の10日間待機対象となる国と地域を指定し,再入国は原則拒否とした(表2)。またワクチン接種者を含め,すべての日本人等の帰国者に14日間の待機を求めるとした。入国者健康確認センターの健康フォローアップの強化,変異株サーベイランス体制の強化を進めるとした。また,26日から引上げた1日5,000人の入国者総数の措置を停止し,12月1日から1日3,500人めどに引下げることとした。
危機管理対応で先手を打ったことになり,安倍,菅両内閣での水際作戦の甘さに対する批判が相次いだことを教訓としたようである。
28日時点で何らかの渡航制限措置を取る国は56か国となっているが,WHOは11月30日に加盟国に対する勧告で「必要不可欠な海外渡航はパンデミック下でも常に優先しなければならない」とし,国際的な人の往来を過剰に制限すべきではないと訴えている。また一部の加盟国で証拠に基づかない一律の措置を導入していることを懸念する,とも述べた。
(追記:国土交通省が日本に到着する国際線の新規予約を12月末まで停止するよう各航空会社に要請し,航空各社は12月1日からの予約を停止した。しかし翌2日にはこの一律な要請を撤回した。まさに朝令暮改であるが,結果的にはWHOの意見を取り入れたことになった)
厚労省対策推進本部は,オミクロン株感染の確認患者等の対応として,以下のことを11月30日に各都道府県に通知した。
Ⅰ.オミクロン株の患者の入退院の取り扱い
(ア) 当面の間,オミクロン株が確定した患者または疑われる者については,原則,入院措置とする。入院期間中は個室隔離とする。
(イ) 退院基準は,科学的知見が得られるまでは以下とする。
①有症状者:症状軽快後24時間経過した後に,SARS-CoV-2検査(核酸増幅法または抗原定量検査)を行い,陰性確認の検体採取から24時間以降に再度検体採取して陰性が確認されること
②無症状病原体保有者:陽性の確認から6日間経過した後に,SARS-CoV-2検査を行い,陰性確認の検体採取から24時間以降に再度検体採取して陰性が確認されること
Ⅱ.航空機内におけるオミクロン株陽性者の濃厚接触者
オミクロン株が確定した患者と同一の航空機に搭乗していた場合,座席位置にかかわらず,濃厚接触者として対応する。
⑵ 京都府の感染者数の推移と対策
京都府内の新規感染者数は11月も減少を続け,1か月間で府内23名,京都市89名であった。10歳代と20歳代が多く,府・市ともに全体の4割前後を占めていた。高齢者施設でのクラスター(ブレークスルー感染)があったため,感染者総数が少なくなった分,相対的に年代別割合で70歳代以上が3割前後に増えた(第5波のピーク時の8月で3%強)。
京都府内(京都府+京都市)の新規感染者数は11月22日にゼロとなったが,新規感染者がない日は2020年8月以来のことである。京都府では18日の1名以降19日~30日までの新規感染者はゼロ,京都市内は23日2,24日5,25日1,28日2,30日1名で,26日27日29日はゼロであった。19日以降の新規感染者はすべて京都市内の発生であった。
11月での高度重症病床の使用はゼロが続き,死亡者数もゼロであった。30日時点で入院は16名,施設療養(宿泊療養)2名,自宅療養はゼロであった。
京都府は25日の対策本部会議で,政府の対策分科会が示した感染状況の新指標に基づく対応をまとめ,発表した。従来の指標「ステージ」は新規感染者数などに基づいて示されていたが,新指標では医療体制のひっ迫状況を重視する5段階の「レベル」に改められたが,段階に応じた数値基準が乏しい。政府分科会は「レベル2」の判断基準については「地域の実情に合わせて」としており,デリケートな部分が自治体任せとなった。京都府は政府の方針にほぼ沿い,感染状況が11月下旬時点のように落ち着いた状況の「レベル1」から,警戒を強める「レベル2」への判断基準に独自性を加えた。新規感染者数やワクチン接種率などのデータに基づく予測ツールを用いて,2週間後の病床使用率の見込みが30%を超えた際に,近隣府県の状況などを踏まえてレベル2への移行を総合的に判断する。レベル2ではコロナ病床などの医療体制の拡充を開始するほか,店舗の営業時間短縮や府県をまたぐ移動自粛などの行動制限を実施するかどうかを検討する。コロナ病床については,京都府は現状の病床を26床増やし858床にすることを同時に発表した。11月下旬時点では感染状況が落ち着いており,すぐに使用できる病床は669床のままに留め,空き病床はコロナ以外の一般病床として活用する。レベル2移行の判断時に,病床を855床に戻すことを医療機関に要請する。「レベル3」に入る目安は,まん延防止等重点措置や緊急事態宣言の発令の段階である。西脇知事は,「判断の目安を示さないままだと府民が不安になるので,他府県に先駆けて独自の判断基準策定に踏み切った」と述べた。
⑴ 会議等
府医の会議(定例理事会,各部会,各委員会,地区庶務担当理事連絡協議会等)は11月もWebあるいはハイブリッドで開催した。7日開催の京都医学会は府医会館3階会議室からWeb配信し,オンデマンド視聴も可能とした。地区医との懇談会(福知山,与謝・北丹,乙訓,上京東部,相楽,伏見,府立医大)はWeb開催で,7地区すべてでコロナ関連のテーマが出され意見交換を行った。17日の学校医部会幹事会はハイブリッドで開催した。
日医や近医連など対外的な会議と25日の京都府新型コロナ対策本部会議に松井府医会長が出席した。
コロナワクチンに関する自治体との協議は,4日に京都市と,18日に京都府および京都市と行った。24日の地区庶務担当理事連絡協議会のあとに引続いて地区感染症担当理事連絡協議会をWeb開催し,地区医の役員のみならず会員が視聴できる形式とした。400名以上の参加があり,京都府および京都市からコロナワクチン追加接種についての現時点で判明していること,今後の方向性などの説明が行われた。
⑵ 宿泊療養健康管理
ヴィスキオ京都(V)とアパホテル京都駅東(AE)の2か所の宿泊療養施設への新規入所者は減り,1日あたりの入所者数はVではゼロ~2名,AEでは11月1日の4名以降はゼロ~2名であった。入所者数は両者ともに10名以下となり,新規入所者も少ないことから,療養者の健康観察は各1名の会員の出務となった。25日から両者を合わせて総入所者数が5名以下となり,27日からVへの出務医が遠隔診療でAEの療養者健康観察をすることとして,両施設で1人の出務になった。Vは28日の2名の退所で入所者数がゼロとなった。30日時点での宿泊療養施設の入所者はAE2名のみとなった。
⑶ 京都府・医師会 京都検査センター(府医PCR検査相談センター)の診療・検査医療機関紹介
10月に京都府が診療・検査医療機関の公表についての意向確認を行った。その結果,10月28日時点で京都府内の診療・検査医療機関は776施設で,2021年2月末時点の616から120施設増えたことになる。このうち公表を可とするものは462,かかりつけ患者以外も診療を可とするものが341であった。このことから京都府は公表を可とする医療機関を京都府のホームページに掲載し,同時に「きょうと新型コロナ医療相談センター(新コロセンター)」に相談があった発熱患者等はこの公表された診療・検査医療機関を紹介することを開始した。このことから,新コロセンターから府医PCR検査相談センターを経由する診療・検査医療機関への紹介のルートが減った。10月28日までは新コロセンターから府医相談センターへの依頼が二桁であったが,29日は2件,30日以降11月1日からはゼロとなった。第5波の新規感染者数が減少し始めた9月に612,さらに新規感染者が減少した10月に324であったが,11月はゼロであった。府医相談センターへ会員からの依頼数も減少し,11月で最も多かったのは9日の6件で,1日に1~3件となった。下旬はゼロ~1件と著減し,11月での受付数は34に留まり,診療・検査医療機関への紹介は29,キャンセルは5件であった。一方,新コロセンターが診療・検査医療機関に紹介した件数は,10月29日~11月22日で687件(日勤407;夜勤280)と京都府から報告を受けた。
今後,かかりつけを持たない,あるいは夜間休日に発熱者等が新コロセンターに相談した場合,府医PCR検査相談センターを経由せずに,公表を可とする診療・検査医療機関へ新コロセンターから直接紹介するルートが主となる。一方,府医PCR検査相談センターへの診療・検査医療機関以外の医療機関からの紹介依頼は,当面継続する予定である。
⑷ 京都市電話診療所(自宅療養者の健康観察)
感染拡大第5波で,自宅療養者あるいは入院が必要であるが自宅待機を余儀なくされた人が激増し,また医療を受けないまま自宅療養となっている人も多いため,京都市からの依頼で府医会館に「京都市電話診療所」を開設し,会員の出務をお願いして運営してきた。新規感染者数の減少にともない診療数がかなり減ってきたため,9月30日からは会員の出務は一旦休止し,役員の2名体制とした。10月11日以降の診療数がゼロとなり,11月に入ってからも同様であったが,役員2名体制の待機は継続していた。待機役員には診療数がない場合には連絡が入り出務は行わなかった。京都市と府医とで相談の上,役員2名の待機体制は11月11日をもって一旦解除することとなった。今後,感染拡大で電話診療所での診療が必要になった場合に再開する予定である。なお,自宅療養者は11月29日時点では1名であったが,翌30日にはゼロとなった。
⑴ 国内外の接種状況(表4)
日本における2回接種完了者は総人口の76.9%,65歳以上は90%超となった。総人口での接種割合は,判明している国の中ではアラブ首長国連邦89.3%,シンガポール88.15%,チリ84.3%の80%超の3か国,スペイン79.83%,韓国79.2%に次ぐ位置である。英・独・米はいずれも60%台,イスラエルも60%台に留まっている。我々医師会会員の努力の反映である。
京都府での接種状況は,府内の約3/4が2回接種を完了し,65歳以上は90%超となった。64歳以下も70%超となった。
⑵ 3回目接種(追加接種)
「新型コロナウイルス感染症関連情報,第35報」(京都医報,令和3年12月1日号)で,厚労省の第9回自治体向け説明会の資料の抜粋を掲載したので参照されたい。
3回目接種の接種券付き予診票は,VRS入力データに基づいて2回目接種完了から8か月を経過する者を対象に順次送付することになる。
京都市の場合は,一斉に送付するのではなく1か月をいくつかに区切って,8か月に達する前の時点での対象者に送付する予定である。1回目接種では年代別に一斉に送ったため,予約問い合わせが殺到する混乱を生じたことを教訓としての対応策である。
予防接種に係る改正省令は12月1日をもって施行され,12月1日から医療従事者先行接種対象者(コロナ対応医療機関)から追加接種が始まる。医療従事者優先接種対象者等は2022年1月から接種開始となり,12月中には接種券付き予診票が対象者の個人宛に送付される。ただし,医療従事者の1回目2回目接種開始時にはVRSでの入力が整備されていなかったため,国保連合会へ送付された原票が各自治体に戻ってきてからVRS入力の作業を行ってきた。VRSでの誤登録が一定数存在するため,2回目接種完了の情報が正確に登録されていない等で2回目接種から8か月経過していても接種券付き予診票が送付されてこない者が一定数出てくる可能性がある。厚労省から各都道府県衛生主管部宛で「例外的な取扱として接種券が届いていない追加接種対象者に対して新型コロナワクチン追加接種を実施する歳の事務運用について」の事務連絡が行われており,各自治体での基本的な対応が示されている。接種券が届いていない場合は,転入などの理由で接種券発行を依頼する場合を含めて,各自治体のコロナワクチンの相談窓口(京都市は「京都市新型コロナワクチン接種コールセンター」)に連絡して接種券の発行を申請して対応することになる。
⑶ コロナワクチン関連の情報
①mRNAコロナワクチンの効果
ファイザー社製ワクチン(BNT162b2)は,COVID-19に対する有効性が高く,現在世界中で承認,条件付き承認,緊急使用承認の何れかがなされている。最初の承認時には接種後2か月を超えるデータは入手できなかった。国際共同プラセボ対照観察者盲検ピボタル有効性試験での接種後6か月間の評価(2021年3月13日まで)がNew England Journal of Medicineで発表された。16歳以上44,165例,12~15歳2,264例をワクチン接種群とプラセボ群に割り付けた。エンドポイントは検査で確認されたCOVID-19に対するワクチンの有効性,および安全性とした。評価し得た参加者におけるCOVID-19に対するワクチンの有効性は,SARS-CoV-2感染の既往を示す所見のない参加者で91.3%であった。ワクチンの有効性は徐々に低下した。重症COVID-19への有効性は96.7%であった。ベータ株に対してワクチンの有効性は100%であった。
モデルナ社製ワクチン(mRNA-1273)は,臨床第3相観察者盲検プラセボ対照臨床試験の中間解析の時点で,COVID-19の予防に94.1%の有効性を示した。このワクチンの緊急使用承認後は,試験実施計画書が改訂されて,その後の期間は非盲検で進められた。COVID-19の罹患リスクと合併症リスクが高いボランティアを登録し,米国99施設で参加者を接種群(15,209例)とプラセボ群(15,206例)に無作為に分けた。エンドポイントはSARS-CoV-2感染の既往のない参加者における2回目接種後14日以降に発症するCOVID-19の予防とした。データカットオフは2021年3月26日であった。参加者の96%が2回接種を完了し,COVID-19の予防におけるワクチンの有効性は98.2%(接種群55例,プラセボ群744例),重症COVID-19の予防におけるワクチンの有効性は98.2%(接種群2例,プラセボ群106例)であった。この報告もNew Eng J Medに同時に掲載された。
いずれの報告も,デルタ株出現以前のデータであることに留意が必要である。
ワクチン先進国とされた欧米ではCOVID-19感染者が増加傾向にあり,ワクチンの効果を疑問視する声が出ている。米疾病対策センター(CDC)の研究グループは,変異株の発症抑制にも有効であり,入院リスクを85%抑制したとする結果を発表した。対照は2021年3月11日から8月15日に米国の18州21施設になんらかの理由で入院しSARS-CoV-2ワクチンについての情報が得られた4,513例で,ファイザー社あるいはモデルナ社mRNAワクチンの2回接種完了者である。2,530例はCOVID-19陽性と認められなかったため対照群とし,COVID-19陽性の1,983例を症例群とした。ワクチン接種の有無と症例群と対照群による入院との関連,COVID-19増悪(人工呼吸器治療または死亡)との関連を評価項目とした。症例群のワクチン接種完了者(ブレークスルー集団)は314例(15.8%)で,接種したワクチンはファイザー社が72.0%,モデルナ社が28.3%,ワクチン接種から入院までの期間は110.0日(中央値)であった。症例群のうち非ワクチン接種者は1,699例(非ワクチン集団)であった。症例群のうち,アルファ株33.6%,デルタ株が45.9%,その他が20.5%であった。ワクチン接種者のCOVID-19による入院率は,症例群15.8%,対照群54.8%で,入院リスクはワクチン接種により85%有意に低下した。この結果は,アルファ株(症例群8.7%,対照群51.7%)およびデルタ株(同21.9%,61.8%)別にみても一貫し,また免疫不全例(同40.1%,58.8%)と比べて免疫正常例(同11.2%,53.5%)において,よりワクチン接種が入院リスク低下に寄与していた。ワクチン種類別にみると,接種後120日以上のサブグループでCOVID-19による入院リスクをみると,ファイザー社(症例群5.8%,対照群11.5%)と比べ,モデルナ社(同1.9%,8.3%)でリスク低下が顕著であった。COVID-19による入院患者のうち,増悪を来したのはブレークスルー集団12.0%,非ワクチン集団24.7%で,死亡に限るとそれぞれ6.3%,8.6%でリスクが59%抑制されていた。以上の結果からCDC研究グループは,mRNAワクチンの接種によりCOVID-19による入院やその後の増悪リスクが顕著に低下した,とまとめた。
カタールにおける2020年12月21日から21年9月19日にファイザー社またはモデルナ社のmRNAワクチン接種者153万1,736例を対象に,SARS-CoV-2感染歴の有無によるブレークスルー感染リスクを比較した適合コホート試験の結果が発表された。ワクチン2回目接種14日以降,2021年9月19日まで追跡した。ファイザー接種群のうち,既感染者(PCR検査で確認されたことがある)は9万9,226例,適合非感染者は29万432例(年齢中央値37歳,男性68%)であった。モデルナ接種群は,既感染者5万8,096例,適合非感染者16万9,514例(年齢中央値36歳,男性73%)であった。ファイザー接種群で2回接種後14日以降の感染例は,既感染者では159例(再感染),非感染者で2,509例,モデルナ接種群ではそれぞれ43例,368例であった,ファイザー接種群の感染累積発生率(追跡期間120日)は,既感染者では0.15%(95%信頼区間(CI):0.12~0.18),非感染者は0,83%(0.79~0.87)と推定された。感染者に対するブレークスルー感染に関する補正ハザード比(HR):0.18(95%CI:0.15~0,21,p<0.001)であった。同様にモデルナ接種群では,既感染者で0.11%(95%CI:0.08~0.15),非感染者は0.35%(0.32~0.40)だった(同HR:0.35(0.25~0.48),p<0.001)。また,既感染者のうち,初回ワクチン接種が感染後6か月以上経過だった人の方が6か月未満だった人よりも,ブレークスルー感染が低かった。
②小児(5~11歳)に対するコロナワクチン
5~11歳の小児に対するファイザー社製ワクチンの海外第Ⅱ/Ⅲ相試験の有効性および安全性のデータを基に米食品衛生局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)へファイザー社が申請を行った。米国では10月26日のFDA諮問委員会で,5~11歳の小児約2,200例以上が対象の第Ⅱ/Ⅲ相ランダム化比較試験(12歳以上の通常用量3分の1(10µg)を21日間隔で2回接種)のデータに基づき,ファイザー社製ワクチンのベネフィットがリスクを上回る(SARS-CoV-2感染を防ぐ有効率90.7%,安全性では新たな懸念なし)として,5~11歳への接種を推奨することを賛成多数で決定し,その後CDCが11月2日に5~11歳の小児への接種を推奨すると発表した。ファイザー社は11月10日に厚労省に12歳未満への適応拡大を申請した。
コロナワクチンを5~11歳の小児に接種する利点としては,小児を感染から防御することに加えて,周囲の者や同居する家族への二次感染を防ぎ,中でも重症化リスクの高い高齢者等の感染を防ぐことが指摘されている。従来株やアルファ株流行時には,小児は成人からの感染,主として家庭内感染によるもので,小児からの2次感染は稀であった。しかし第5波のデルタ株では小児同士の感染,小児の教育/保育集団でのクラスター発生,小児から家庭内感染で成人への感染,そこから職場感染などに伝播することになり,それまでとは逆ルートの感染経路が形作られてきた。その観点での利点とされている。
一方で,接種が先行していた海外からは,mRNAの2回目接種後に若年男性で心筋炎関連事象の発生率が高いことが報告されている。ただし,5~11歳の小児の用量が通常用量の3分の1と低いことから,心筋炎関連事象が他の年齢層より低く抑えられる可能性がある。
11月15日の第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において,小児に対するコロナワクチンについて協議されたが,結論は持ち越された。しかしながら,厚労省の自治体向け説明会では2022年2月からの5~11歳の小児への接種体制整備を求めてきた。
なお11月30日時点で,日本小児科学会,日本小児科医会,日本小児感染症学会,日本ワクチン学会等から,12歳未満の小児へのコロナワクチンに関する見解は発表されていない。
③国内開発コロナワクチンの進捗状況
1.塩野義(感染研/UMNファーマ):組み換えタンパクワクチン
2020年12月第Ⅰ/Ⅱ相試験開始,アジュバントを変更し21年8月第Ⅰ/Ⅱ相試験開始,同年10月第Ⅱ/Ⅲ相試験開始;第Ⅲ相試験を21年度内に開始の意向
2.第一三共(東大医科研):mRNAワクチン
2021年3月第Ⅰ/Ⅱ相試験開始,21年11月第Ⅱ相試験開始,22年1月ブースター用試験を開始予定;第Ⅲ相試験を21年度内に開始の意向
3.アンジェス(阪大/タカラバイオ):DNAワクチン
2020年6月,9月に第Ⅰ/Ⅱ相試験開始,12月に第Ⅱ/Ⅲ相試験開始したが期待する効果が得られず。21年月8月高用量製剤での臨床試験(第Ⅰ/Ⅱ相試験相当)開始
4.KMバイオロジクス(東大医科研/感染研/基盤研):不活化ワクチン
2021年3月第Ⅰ/Ⅱ相試験開始,同年10月第Ⅱ/Ⅲ相試験開始,第Ⅲ相試験を21年度内に開始の意向
5.VLPセラビューティクス:mRNAワクチン
2021年10月第Ⅰ相試験開始;第Ⅱ/Ⅲ相試験を21年度内に開始の意向
国内では,2021年2月に米国で緊急使用許可が認められたジョンソン・エンド・ジョンソンのウイルスベクターワクチンが5月に承認申請された。米ノババックス社が開発した組み換えタンパクワクチンを武田が国内で製造・供給することになっており,2月から初期の臨床試験(第Ⅰ/Ⅱ相試験)を行っている。ノババックス社は海外で行った第Ⅲ相試験での90%有効率を示したと発表し,9月6日に来年初頭から1億5,000万回分を供給することで厚労省と契約締結した。
⑴ 経口治療薬
米メルク社のコロナ治療薬「モルヌピラビル」(molnupiravir)の臨床Ⅲ相試験で,死亡や入院などの重症化リスクを半減させるという中間解析結果が10月に示されたが,これを受けて英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は11月4日に使用承認を決めた。世界で初めて承認されたCOVID-19経口治療薬となった。モルヌピラビルは,重症化リスクを有する者で感染が判明してすぐに1日2回投与し,重症化や死亡を防ぐ。その後メルク社は効果を30%程度と下方修正した。
他方,ファイザー社は11月16日に,開発中の「パクスロビド」(paxlovid)の緊急使用許可を米食品医薬局(FDA)に申請した。ファイザー社は年内に使用許可を得る見込みとしている。パクスロビドはプロテアーゼ阻害薬PF-07321332と抗ウイルス薬リトナビルの配合薬で,SARS-CoV-2が自己複製に必要な酵素SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼの働きを阻害してウイルス増殖を抑制するという特徴がある。リトナビルは薬剤の相互作用を利用して配合されているプロテアーゼ阻害薬の有効血中濃度を高く維持し,さらに抗ウイルス作用を強力にするためのブースター薬として使われることが多い。パクスロビドについても,PF-07321332分解を抑制し,代謝を遅らせて血中での高い活性維持が期待される。11月5日にファイザー社が中・後期臨床試験の中間結果を発表した。臨床試験の登録者数は,北米,南米,欧州,アフリカ,アジアから目標の3,000例の70%に達している。対象は,5日以内にSARS-CoV-2感染が確認された軽症から中等症のCOVID-19患者で,重症化リスクとなる背景や基礎疾患を最低1つ以上有する者で,登録者はプラセボ群と投与群に1:1で無作為に割り付け,1日2回5日間投与した。2021年9月29日までに登録した成人患者1,219例のデータを解析した。中間解析でによると,発症3日以内にパクスロビドを投与された患者では,COVID-19による入院または死亡のリスクがプラセボに比べて89%低減した。登録後28日目までに入院した患者は投与群で0.8%(389例中3例),プラセボ群で7.0%(385例中27例)であった。死亡例は投与群では報告がなかったのに対し,プラセボ群では7例発生した。発症から5日以内に投与された患者でも同様の傾向がみられた。ランダム化後28日までに入院した患者は,投与群1.0%(607例中6例,死亡なし)に対し,プラセボ群6.7%(612例中41例,死亡10例)と有意差が認められた(P<0.0001)。安全性に関しては28日目までに投与群では死亡例の報告はなかったが,プラセボ群で10例(1.6%)が死亡した。有害事象の発現率は投与群で19%,プラセボ群で21%,重篤な有害事象がそれぞれ1.7%,6.6%で,ほとんどが軽症であった。また有害事象により試験中止に至ったのは2.1%,4.1%と投与群の方が少なかった。
治療効果に違いがあるものの,経口薬という簡便な治療選択肢が登場する意義は大きい。両者の臨床試験に組み込まれた患者背景を踏まえると,重症化危険因子を有することが投与条件に盛り込まれることが想定されるが,SARS-CoV-2検査陽性と診断された軽症・中等症例のすべてに使用できるとは限らないということが今後の課題である。いずれにせよ両者の内服薬が使用できるようになれば,COVID-19対応策がさらに一歩前進する。
⑵ 中和抗体薬の効果
ソトロビマブ(販売名ゼピュディ)は,高リスク患者におけるCOVID-19の進行を早期に防ぐことを目的にデザインされた汎サルベコウイルスモノクロナール抗体である。多施設共同二重盲検第Ⅲ相試験によるソトロビマブの早期治療に関する中間報告が発表された。症状をともなうCOVID-19(症状発現後5日以内)を有し,危険因子を1つ以上有する非入院患者を,ソトロビマブ500mgを単回点滴静注する群とプラセボを投与する群に1:1の割合で無作為に割り付けた。有効性転帰は,無作為化後29日以内のあらゆる原因による入院(在院時間24時間超)または死亡とした。中間解析では,intention-to-treat集団は583例(ソトロビマブ群291例,プラセボ群292例)で,入院または死亡に至る疾患進行は,ソトロビマブ群3例(1%)にみられたのに対し,プラセボ群では21例(7%)にみられた。プラセボ群では5例がICUに入室し,うち1例は29日目までに死亡した。安全性解析対象集団は868例(ソトロビマブ群430例,プラセボ群438例)で,有害事象はソトロビマブ群の17%,プラセボ群の19%で報告され,重篤な有害事象はソトロビマブ群の方がプラセボ群より低かった(それぞれ2%と6%)。
COVID-19専門病院の大阪市立十三市民病院での抗体カクテル療法の実施状況についての分析結果が報告された。対象は2021年7月29日から10月末日に同病院で抗体カクテル療法を受けた183人で,このうち「中等症Ⅱ」以上に悪化したのは40人,うち3人が重症化した。投与日別での悪化率は,発症1日目はゼロ,2~3日目は1割程度だったが,4~6日目は3割に増加し,7日目は5割であった。悪化した40人のうち34人(85%)は発症から4~7日目に投与されていた。重症化した3人はいずれも4~7日目投与で,3日以内に投与を受けた81人は重症化しなかった。重症化リスクでみると,悪化した40人のうち「50代以上」29人,「肥満」と「心血管疾患」が各15人,「糖尿病」12人(いずれも複数該当を含む)であった。投与を受けた183人の年代は,50代33%,40代20%,60代17%であった。このことから,治療効果が高く,悪化しにくいのは発症から3日目までに投与を行うことが重要である。
<資料>
#「Association of Prior SARS-CoV-2 Infection With Risk of Breakthrough Infection Following mRNA Vaccination in Qatar」(LJ Abu-Raddad, H Chemaitelly, et al. JAMA online, Nov 1, 2021)
#「WEB調査結果の活用マニュアルの改定について」(11月4日,厚労省医政局(マスク等物資対策班))
#「Association Between mRNA Vaccination and COVID-19 Hospitalization and Disease Severity」(MW Tenforde, WH Self, et al. JAMA online, Nov 4, 2021)
#「Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine through 6 Month」(SJ Thomas, ED Moreira, et al. New Eng J Med 2021, 385;19:1761-73)
#「Efficacy of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine at Completion of Blind Phase」(HM ElSahly, LR Baden, et al. New Eng J Med 2021, 385;19:1774-85)
#「Early Treatment for Covid-19 with SARS-CoV-2 Neutralizing Antibody Sotorovimab」(A Gupta, Y G-Rojas, et al. New Eng J Med 2021, 385;19; 1941-50)
#「Antibody Titers Before and After a Third Dose of the SARS-CoV-2 BNT162b2 Vaccine in Adults Aged ≧60 Years」(N E-Ratz, Y L-Weisman, et al. JAMA Letters online, Nov 5, 2021)
#「Aspirin in patients admitted to hospital with COVID-19 (RECOVERY): a randomized, controlled, open-label, platform trial」(RECOVERY Collaborative Group, Lancet online, Nov 17, 2021)
#「新型コロナワクチンの間違い接種情報No.3について」(11月10日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症患者の治療に必要な人工呼吸器無償譲渡について」(11月11日,事務連絡,厚労省医政局)
#「今冬のインフルエンザ総合対策の推進について」(11月12日,京都府健康福祉部)
#「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」(11月12日,対策本部決定)
#「新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)の体制確保について(その2)」(11月16日,事務連絡,厚労省健康局)
#「5歳以上11歳以下の者への新型コロナワクチン接種に向けた接種体制の準備について」(11月16日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルスワクチンの時間外・休日の接種及び個別接種促進のための支援事業の請求について(その3)」(11月17日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)等に使用するファイザー社ワクチン及び武田/モデルナ社ワクチンの配分等について」(11月17日,事務連絡,厚労省健康局)
#「中和抗体薬投与医療機関病床確保支援事業費補助金の運用について」(11月19日,事務連絡,京都府健康福祉部)
#「新型コロナウイルス感染症流行下における薬局での医療用抗原定性検査キットの取扱いに関する留意事項について」(11月19日,事務連絡,厚労省対策推進本部/医薬・生活衛生局)
#「ファイザー社ワクチンの保有状況に係る報告について(依頼)」(11月19日,事務連絡,厚労省健康局)
#「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正)」(11月22日,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症対策に係る病床の確保状況・使用率等の「見える化」について(協力依頼)」(11月19日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)の交付について」(11月24日,厚労省事務次官)
#「「令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)の実施について」の一部改正について」(11月24日,厚労省医政局/健康局/医薬・生活衛生局)
#「令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)の実施に当たっての取扱いについて」(11月24日,厚労省医政局/健康局/医薬・生活衛生局)
#「「新型コロナウイルス感染症充填医療機関及び新型コロナウイルス感染症疑い患者受入協力医療機関について」の改正について」(11月24日,事務連絡,厚労省健康局)
#「令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)に関するQ&A(第9版)について」(11月24日,事務連絡,厚労省医政局/健康局)
#「医療施設等における感染拡大防止に留意した面会の事例について」(11月24日,事務連絡,厚労省医政局/健康局)
#「例外的な取扱として接種券が届いていない追加接種対象者に対して新型コロナワクチン追加接種を実施する歳の事務運用について」(11月26日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」(国立感染症研究所実地疫学研究センター,令和3年11月29日版)
#「基本的対処方針の変更に伴う周知依頼について」(11月30日,事務連絡,厚労省医政局)
#「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び航空機内における濃厚接触者の取扱いについて」(11月30日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルス感染症(変異株)に係る健康観察について」(11月30日,事務連絡,厚労省対策推進本部)