2022年1月15日号
下京西部医師会と府医執行部との懇談会が10月20日(水),Webで開催され,下京西部医師会から11名,府医から10名が出席。「新型コロナウイルス感染症の現状と第6波への対策」,「大学医学部入学定員への診療科指定枠の詳細」をテーマに活発な議論が行われた。
〈注:この記事の内容は10月20日現在のものであり,現在の状況とは異なる部分がございます〉
~第6波に備えて~
京都府においては,新型コロナウイルス感染症の第1波~5波の間,行政と府医で協議を重ね,医療・療養体制を構築してきた。現在は,第5波を通して課題となった「中和抗体薬の投与体制」,「妊産婦への対応」,「小児医療への対応」や追加接種等について検討している。
新しい変異株に対応できる柔軟な体制づくりが重要であり,感染予防策(マスク,手指消毒,ゼロ密)の啓発と,季節性インフルエンザの流行に備えた診療・検査医療機関の増加が必要である。
2009年の新型インフルエンザ流行時には,抗インフルエンザウイルス薬(タミフル)・インフルエンザワクチン・検査方法が確立していたため,何とか乗り切った経験がある。今回も新型コロナウイルスワクチンとすぐに結果の出る抗原定性検査があるので,内服薬の使用が可能になれば,かかりつけ医での対応が容易になると考えられ,多くの医療機関で発熱患者に対応することにより,今後の第6波を乗り切ることができる見通しである。
~質疑応答~
◇「市販の抗原定性検査キットで陽性が出た場合の報告窓口を明確にしなければ混乱が起きるのではないかと危惧している。行政,府医,医療機関の役割分担・連携(特に夜間)について,今後の見通しがあれば伺いたい」と質問が出された。
新型コロナウイルスが2類感染症である限り,陽性の場合は保健所に発生届を提出し,京都府入院医療コントロールセンターに繋がるという流れは変わらないため,第6波に備え,行政と医師会の役割分担を明確にすべく,協議を重ね,意見を述べていくと回答した。
◇「他府県と比べて12~15歳のワクチン接種が進んでおらず,10代前半の1回目接種率は40%前後に留まっている。未接種者への今後の対応はどのようにすればよいか。また,府は16歳以上しか認めていないので,府・市と連携してほしい」と意見が出された。
ワクチン接種の本来の目的は重症化予防であるが,小児の場合は,重症化する人がほとんどいないため,接種対象年齢を16歳以上とする国が多い中,日本では12歳以上としていることと併せて,モデルナ社のワクチンについては心筋炎の問題もあり,厚労省は10~20代男性に対してファイザー社のワクチンも選択できることを呼びかけているため,対象者の多くは今後ファイザー社ワクチンでの接種になり,調整が課題であるとして,追加接種も含め,府・市と協議をした上で回答するとした。
◇「ワクチン接種は,重症化予防の他に後遺症対策にもなると考える。軽症で診ていた方が2~3ヶ月後に強い倦怠感や味覚障害等を訴え,外来に多数来られている。後遺症予防の観点からも議論を進めていただきたい」と要望が出された。
ワクチン接種者の後遺症発生率は低下することが報告されているが,ワクチン接種に加え,長期の後遺症患者をどこで診療するかについても協議していくと回答した。
◇「府からモデルナワクチンでの集団接種の依頼があり,現在対応中である。引き受けた際には心筋炎の問題が明らかになっていない状況であった。今後,該当の年代に対して,どのように対応していけばよいか」と質問が出された。
厚労省より,モデルナワクチン接種者の10~20代男性に心筋炎の発症率が特に高いことから,1回目がモデルナ社ワクチンであっても,2回目にファイザー社ワクチンを選択できることが示されているが,モデルナ社ワクチンの接種を妨げるものではなく,予診の段階で接種リスクを知らせた上で,本人の判断に委ねることになり,対象者への事前周知が重要だと考えると回答した。また,対象者にファイザーを用意するとしても,同一会場で複数のワクチンが混在することは,接種ミスに繋がる可能性が高まることから,避けなければならないとし,また,その対象者をどこに誘導するかについて,地区医と行政で協議が必要であるため,府医からも行政に申し入れる考えを示した。
「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織である「医師需給分科会」での推計によると,現行の医学部入学定員を継続すれば,医師過剰になることが再確認されている。
医師過剰になれば,将来の医師の生活基盤が極めて不安定になり,不適切な医療需要の掘り起こしが生じ,医療費の高騰による医療保険制度の逼迫を招くなどの問題が生じると言われている。
将来的な医師過剰の問題から,厚労省は,平成20年度より始まった大学医学部入学定員の大幅な臨時増員を削減する方向である。しかし,政治的な問題,大学の収益源の問題,近年の新型コロナウイルス感染症の蔓延による医療逼迫の問題もあり,令和5年度の医学部の定員は,令和4年度と同様とすることが決定された。ただし,平成21年に閣議決定され,地域の医師確保などに早急に対応するために継続されてきた歯学部振替枠は廃止され,診療科指定枠に代わる。
医師の偏在の解消に向けて,地域枠,地元枠の設定の拡充と,医師確保計画の実施が始まっているが,全国に行き渡っているとは言い難い。今後は医師養成課程での対策から,医師の異動にシフトすべきではないかとの意見も多数出ている。また,診療科指定枠については,入学時に診療科を選択させるのは酷であるとの指摘が多く,日医も反対している。さらに専門医制度,医師の働き方改革の問題も重なり,非常に複雑になってくると思われる。
~下京西部医師会からの意見~
・地域偏在の解消は,自分の卒業大学での研修のみとし,診療科の偏在は,診療科変更の際,需給のバランスにともなった試験等でハードルを設けてはどうか。
・京都府北部では,教育(私学,塾,予備校)の問題があり,医学部を目指すのが難しい。地域枠を地元出身枠,地域の高校から医学部枠を設定する等,例えば府医大なら可能ではないか。
・診療科枠は,高校3年生の時点では6~8年先をイメージできず難しいと思われる。また,地域枠では女性の比率が増えたので,それをどう活用するか考える必要がある。
・地域において専門医がキャリアアップできる病院がほとんどなく,地域で活躍しながら専門医,指導医のキャリアアップの両立は難しい。地域,医師会,行政,大学で地域枠を上手に使って,制度をもう一度練り直す時期に来ているのではないか。