第47回京都医学会をWeb開催

 今年47回目となる京都医学会を11月7日(日)から12月5日(日)まで開催。新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の情勢を鑑み,昨年に引続き全プログラムをWebで配信し,432名が参加した。会期初日の11月7日には,「COVID-19」をテーマとした特別講演・シンポジウムをライブで配信した。

(学術生涯教育担当理事  髙橋 滋 記)

 昨年来新型コロナによる社会の分断は続いている。押し寄せる波は次第に大きくうねり,47回京都医学会 は昨年に引続きWeb開催を余儀なくされた。日程についても通常9月の第4週に行われるはずが11月第1週の日曜日に延期された。ハイブリッド開催も見送らざるを得ず,例年の医師会館での熱い討論が見られないのは寂しい限りだったが,2回目のWeb開催ということもあり手際よく催行できたことは関係諸氏に御礼を申し上げたい。一方で個々のスケジュールに応じて参加していただけることと,約1か月の視聴期間があることは大きなメリットでもあり,今後コロナ禍が収束した後もハイブリッド形式を模索していくことになるのではなかろうか。

特別講演・シンポジウム

 今年の特別演題は『COVID-19の疫学モデルと制御の困難』というテーマで京都大学大学院医学研究科 環境衛生学教授の西浦 博先生にご講演いただき,数理モデルに基づく流行の波やワクチンなど新型コロナウイルス感染症の最新の状況や課題などを網羅的にわかりやすくお話しいただいた。

座長・清水 恒弘 先生

講師・西浦 博 先生

中屋 隆明 先生

 シンポジウムは『新型コロナウイルス感染症~その時組織が動いた!』というタイトルで京都府保健環境研究所所長 藤田直久先生を総括者に迎え,京都府内の新型コロナ対策を担う各機関の現状等について5名の先生にそれぞれお話を伺った。
 まず,京都府立医科大学大学院医学研究科感染病態学教授 中屋隆明先生は,ウイルス学の専門家の立場からCOVID-19の特徴やウイルス変異などについて,過去の感染症の流行と比較しながらご講演いただいた。
 次に,京都府立医科大学救急・災害医療システム学講師 山畑佳篤先生からは,「入院コントロールセンター」での活動について,京都府の新型コロナウイルス感染症対応の中枢として,センター設置から第5波までを振り返り,京都の医療提供体制の特徴などをわかりやすくお話いただいた。

山畑 佳篤 先生

 続いて,京都府乙訓保健所所長 佐藤礼子先生からは,COVID-19に関する保健所の業務の実情をお話しいただくとともに,患者増加にともなう業務逼迫の中で検査体制や自宅療養者への健康観察など多様な医療ニーズに応え,感染拡大を食い止めるために,地域の医師会や病院と協力して対応した取組みが示された。

佐藤 礼子 先生

 府医の新型コロナウイルス感染症対応の最前線に立つ感染症対策担当理事 禹満先生は,広報,診療・検査体制の整備,宿泊施設・自宅療養者の健康管理,ワクチン接種など,府医が会員や行政とともに取組んできたことを報告するとともに,今後の府内の医療提供体制におけるかかりつけ医の役割などについて言及した。

禹 満 先生

 最後に,京都第一赤十字病院院長特任補佐・救命救急センター長 髙階謙一郎先生から,新型コロナ患者の受け入れ病院の実情について,スタッフの配置や病床運用などの視点からご講演いただいた。

髙階 謙一郎 先生

 この1年以上にわたり京都が未曾有の感染症である新型コロナウイルスに対して如何に一丸となって対処してきたか良く分かる内容であったと思う。人類史上初のm-RNAワクチンはゲームチェンジャーとして大きな期待が寄せられるが,健康転換の歴史を考えるに接種ひとつとっても人それぞれの考え方があり回避・予防・治療・管理のすべてにおいて対応には困難をともなうのだろう。現場の苦労が偲ばれ目頭が熱くなった。

ディスカッション

一般演題

 今回,一般演題は広く53題の応募をいただいた。内容は循環器系5題,消化器系4題,内分泌・代謝系1題,呼吸器系2題,血液系3題,免疫・アレ ルギー系1題,腎尿路系4題,脳神経・精神系7題,産婦人科系2題,耳鼻咽喉科系5題,運動器系3題,皮膚形成外科系1題,在宅医療系1題,医療連携1題,その他6題,昨年から新設された初期研修医セッション7題である。いずれも日常診療に基づいた興味深い取組みや貴重な症例報告であった。また今回京都医学会に応募していただいた研修医の先生方が大きく育ち,近い将来日本の医療を牽引する立場になっていただければと願ってやまない。
 さて,来年の医学会はどうなるであろう。ワクチンだけでは基礎疾患を持つ高齢者を守ってはくれないという報告もあり,距離をとってマスクを着ける生活は今後も必要であろう。このまま第6波が来ないことを祈りつつ,学術・生涯教育委員会の先生方と内容などを検討させていただきたい。来年も多数のご参加をお願い申し上げる次第である。

学術賞・学術研鑚賞の表彰

 令和3年度学術賞および学術研鑚賞の表彰者は京都医学会ホームページ上で発表した。
 京都府医師会学術賞は過去1年間に「京都医学会雑誌」に掲載された一般応募論文の中から,学術・生涯教育委員会委員と勤務医部会正副幹事長の投票によって選定された論文に授与されるものである。1位論文1編に30万円,2位論文1編に20万円,3位論文1編に10万円,症例報告賞1編に10万円,新人賞2編に5万円の賞金と賞状が授与された。
 学術研鑚賞は前年度中に学術講演会等に率先して出席し,日医生涯教育講座の取得単位数の多い会員を表彰するもので,京都市内および乙訓・宇治久世会員は50単位以上,亀岡市,南部(綴喜・相楽),北部(船井・綾部・福知山・舞鶴・与謝・北丹)地区会員は30単位以上の取得者を対象とし,京都市内・乙訓・宇治久世より23名,北部より19名,南部より2名の計44名が選ばれた。
 学術賞および学術研鑚賞の受賞者は以下のとおり。

(敬称略)

―学術賞―

原著論文賞 1位
◆「塞栓源不明の脳塞栓症:ESUSにおけるDWI高信号パターン判読の有用性」

 代表:京都桂病院 脳神経内科  山本 康正
    永金 義成,冨井 康宏

原著論文賞 2位
◆「当院における乳房温存療法の成績と局所再発症例の検討」

 代表:京都第一赤十字病院 乳腺外科  本田 晶子
    北野 早映,森本 雅美,糸井 尚子,
    張  弘富,小谷 達也,李  哲柱

原著論文賞 3位
◆「高齢者の心血管イベント予測におけるトレッドミル負荷心エコー図法の有用性」

 高木循環器科診療所  高木 力

症例報告賞
◆「急性骨髄性白血病のため17歳で卵子凍結保存し,24歳以降2児を得た症例」

 田村秀子婦人科医院  田村 秀子

新人賞
◆「4型胃癌様形態を呈した乳癌胃転移の1例」

 代表:宇治徳洲会病院 外科  若園 依未
    下松谷 匠,竹内  豪,大森 敦仁,
    三村 和哉,仲原 英人,我如古理規,
    水野  礼,橋本 恭一,日並 淳介,
    久保田良浩,仲井  理

◆「最近経験した胃schwannomaの2症例」
 代表:順天堂大学医学部附属浦安病院  平井みつ子(前・京都第二赤十字病院)
    越智 史明,中村 吉隆,三好 隆行,
    西田真衣子,氏家 和人,伊藤 範朗,
    武村  學,山口 明浩,柿原 直樹,
    井川  理,岡野 晋治,渡邉 信之,
    谷口 弘毅

―学術研鑚賞―

京都市内・乙訓・宇治久世
森島 正樹(中 西),梅原 誠司(西 京)
福田 昌義(山 科),竹中  健(西 陣)
清水  亨(伏 見),中川 卓雄(伏 見)
赤城 光代(山 科),赤城  格(山 科)
渡邉 雅彦(左 京),野見山世司(中 西)
藤田 祝子(下 西),川西 秀徳(左 京)
関   透(下 西),今林 丈士(宇 久)
山本 干城(宇 久),柴垣 一夫(中 西)
西川 昌之(左 京),西尾 雅年(伏 見)
木村 敏郎(伏 見),畔柳  彰(下 西)
青木 美博(中 東),木戸岡 実(伏 見)
落合  淳(伏 見)

北部(船井・綾部・福知山・舞鶴・与謝・北丹)
肥後  孝(舞 鶴),池田 義和(北 丹)
仁丹 利行(船 井),西村  茂(福知山)
中江 龍仁(北 丹),冨阪 静子(福知山)
宮地 高弘(与 謝),木村  茂(船 井)
竹下 一成(福知山),岸本 道博(舞 鶴)
松山  徹(福知山),上田  誠(北 丹)
日置 潤也(与 謝),大西 勇人(福知山)
西𠩤  寛(与 謝),堀川 義治(与 謝)
伊藤 邦彦(与 謝),木村  進(与 謝)
飯田 泰成(北 丹)

南部(綴喜・相楽)
飯田 泰啓(相 楽),飯田 泰子(相 楽)

シンポジウムを振り返って

シンポジウム総括者のことば

京都府保健環境研究所所長 藤田 直久

 新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)の変異株,オミクロン株が日本での流行の兆しが見え,第6波も現実的なものとなりそうな状況である。「総括者のことば」は3回目を書いている。

藤田 直久 先生

 1回目は2021年5月27日で,「第4波が3月末から始まり,京都では蔓延防止重点措置が4月12日,そして緊急事態措置が4月25日発出されても,その増加傾向はおさまらず,5月下旬になり近畿ではようやく減少傾向を見せ始めたものの,他府県では増加傾向が止まらず,緊急事態措置が追加されている。このCOVID-19を治療できる特効薬は現在まだない。ワクチンがこのCOVID-19を封じ込める最善の策として世界的に接種が実施され,接種率に連動して新規感染者は減少しており,その効果が証明されている。日本においても接種回数を増やすための施策が5月以降次々と打ち出され,今後接種者数は劇的に増えていくであろう。恐らく,この学会が開催される11月初旬には,日本中にワクチン接種がゆきわたり,医療の逼迫はなくなり,通常の医療に移行しているのではないかと期待している」と書いているが,期待に反した状況である。
 そして,2回目は10月12日で,「この感染症は当初の予想をはるかに越え,10月11日現在で感染確定者が約2.37億人(5月末1.7億人),死者は484万人(5月末350万人)と世界保健機構から報告されている。世界中で様々な変異株が流行したが,なかでもデルタ株は世界の主要な流行変異株となり,その感染力とワクチン効果とが世界中の関心事となった。リアルワールドでのワクチンや抗体療法の有効性が多数報告され,現時点でデルタ株への対処は可能である。日本においても第5波において90%以上がデルタ株に置き換わったが,なぜか8月末をピークに減少傾向となり,21都道府県に出されていた緊急事態宣言は解除された。しかしながらこれまでに171万人が感染し,約1.8万人が亡くなっている」と書かれてある。
 3回目の原稿を書いている2021年12月31日は,中国武漢市で原因不明の肺炎が流行し,世界保健機関の中国事務所にその報告がされて丸2年となる日である。COVID-19は瞬く間に世界中に拡がり,日本でも1月16日には第1例目の報告以後,第1波にはじまり,第5波を9月末に乗りきり(実際はいまだに理由はわからないが,自然に減少してきた?),次の第6波に備えて医療体制や検査体制などの見直しをしていた。11月末に南アフリカでの新型変異株オミクロン株が登場し,これまで英国を中心に世界中にあっという間に拡大し,今まさに日本でもオミクロン株による第6波がくるのではないかと戦々恐々としているところである。今回のシンポジウムはちょうど第5波がおわり,全体的に落ち着いた時期にリモートではあるが無事に開催することができた。COVID-19対しては,オール京都で対応しているにもかかわらず,コロナ受入病院,医師会,保健所,コントロールセンターなど,COVID-19の医療において不可欠な役割を果たしているが,それぞれがどのように動いているのかは実は断片的にしか理解できていないのが現状である。多くの医療にかかわる人々の疲弊が報道されていたが,京都ではそれぞれが各パートでの役割を確実に果たしながら,第5波をなんとか乗り切ることができた。しかしながら,この未曾有の感染症に対応するためには,様々な解決すべき課題が明らかとなり,未解決の課題も残されている。このシンポジウムにおいては,それぞれの立場からCOVID-19への対応について語っていただき,相互理解を深めることで,第6波にむけて,コロナ禍で府民が安心安全に過ごせるよう,より良い医療を提供できるよう,改めて考える機会になればと思っている。
 このように新型コロナウイルス感染症は時々刻々と変化している。すなわちウイルス側は変異を繰り返しながら感染力や病原性が変化し,また宿主である人間側もワクチンや抗体療法,抗ウイルス薬などの治療の選択肢が変わるとともに既感染,ワクチン接種や抗体治療などにより免疫機構も変化をしている。感染症の変化に対して世界中の叡智を結集して打開策を模索している。まだまだ安堵することはできないが,情報の共有とご理解による協力体制を組み,このコロナ禍を乗り切りたいと思っている。

2022年2月1日号TOP