地域医療部通信 – 新型コロナウイルス感染症関連情報 第38報

新型コロナウイルス感染症対策 ~京都府医師会での対応,2022年1月~

2022年1月31日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者は,B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)への置き換わりとともに急増し,第6波となった。第5波のB.1.617.2系統変異株(デルタ株)での感染拡大に比べて圧倒的にスピードが速い。感染者数は多いが,デルタ株に比べて重症者は比較的少なく,死者数も少ない傾向にある。濃厚接触者の待機期間等に係る対応策が次々と変更された。検査キットの供給不足とPCR検査結果の遅延が発熱外来の運用に影響した。
 2021年12月から始まった新型コロナワクチンの追加接種の時期は,2回目接種後8か月経過と当初はされていたが,6~7か月の前倒しとなった。ワクチンの供給情報が不足し,現場での対応に戸惑いがみられる。5~11歳対象のファイザー社ワクチンが承認され,12歳以上のファイザー社ワクチン,モデルナ社ワクチンの3種類となり,保管や接種に係るミスが増えることが懸念される。
 2022年1月の1か月間の動向について述べる。
 なお,本文中に記載した数値や対応策等は,1月31日時点のものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。

2.COVID-19の流行状況とその対策

⑴ 全国の感染者数の推移と対策
 1月5日以降,全国の新規感染者数は急速な増加がみられた。この感染者急増は昨年12月の忘年会,年末・年始や1月の連休などによる接触機会の増加の影響が大きかったが,感染の場は家庭,職場,学校,医療機関,介護施設などに広がりつつあると考えられた。新規感染者は20代以下を中心に増加したが,年代別の割合では20代が減少する一方で,10歳未満が増加し,また60代以上で増加していることに留意が必要である。新規感染者の急速な増加にともなって,療養者数が急増し,重症者数も増加してきた。オミクロン株の市中感染が拡大しており,多くの地域,特に首都圏や関西圏でオミクロン株への急速な置き換わりが進んでいるが,引続きデルタ株も検出されている。今週先週比や実効再生産数からは,増加速度の鈍化傾向が見られるが,オミクロン株の特性やPCR検査陽性率などの推移から,今後も少なくとも短期的には全国で感染拡大が継続すると考えられる。全国の実効再生産数は1月9日の5.90を頂点に,その後減少し,21日に2.07,その後2.0以下で漸減してきた。
 まん延防止等重点措置(まん防措置)は1月9日に沖縄県,山口県,広島県の3県に適用されていたが,19日に首都圏を含む1都12県が追加適用された。同時に,当初計画していた「ワクチン・検査パッケージ」について当面は一時的に停止することになった。16都県のうち,沖縄県以外の15都県でその後も急速な増加が継続した。それ以外の地域でも新規感染者の急速な増加が継続し,1月27日には京都を含む18府県がまん防措置の適用の追加となり,34都道府県がまん防措置適用区域となった(表1)。
 オミクロン株による感染拡大が先行した沖縄県では若年層の感染者が減少しているが,60歳以上で増加が継続するとともに,入院例も増加し続けた。特に80歳以上では重症例がみられた。沖縄県の実効再生産数は,1月9日に10を超えたが,その後急速に低下し15日に1.60,20日以降は1.0を下回っており,実際,新規感染者数は15日以降減少に転じている。沖縄県と同時にまん防措置の対象地域となった山口県と広島県も新規感染者数が中旬から下旬のピークの後に減少に転じた。この3県以外のまん防措置適用の31都道府県では,今週先週比は2以下となっているが,一部の区域では今週先週比が2を超えて急速な増加が継続している。
 若年層中心の急激な感染拡大により,健康観察者や自宅療養者の急増への対応を含め,軽症・中等症の医療提供体制等が急速にひっ迫する可能性がある。その後,高齢者に感染が波及することで重症者数が増加する可能性もある。また基礎疾患を有する陽性者でCOVID-19の肺炎が見られなくても,感染によって基礎疾患が増悪することで入院を要する感染者が増加することにも注意が必要である。例年,この時期は救急搬送困難事案が多く,救急搬送困難事案の状況は,COVID-19疑いのみならず非COVID-19疑い事案でも増加している。総務省消防庁は,救急搬送困難事案が1月17日~23日の1週間で全国52の消防で計4,950件と発表した。前週(10日~16日)の4,151件を上回り過去最多を2週連続で更新した。このうちCOVID-19が疑われるのは29%であった。

表1.基本的対処方針に基づく対応

 28日に厚労省は,COVID-19による自宅療養者が,26日時点で全国で26万4,000人弱と過去最多となったことを発表した。1週間で約16万人増え,一気に2.5倍となった。第5波での最多は昨年9月の約13万1,000人であり,その時の約2倍になった。
 学校・幼稚園・保育所等において,COVID-19感染者や濃厚接触者が増加することが多くの地域でみられた。感染拡大地域では,これらの施設における基本的な感染防止対策の強化と徹底が求められる。教員・職員等のワクチン接種をさらに進めることが重要である。介護福祉施設においても同様に感染防止対策が必要であり,入所者および従事者に対するワクチン追加接種を進めるとともに,施設等における感染管理や医療に関しては外部からの支援が必要となる。
 11日の全国知事会で岸田首相との意見交換会の席上で西脇知事は,エッセンシャルワーカーについて濃厚接触者の待機期間の見直しを求めた。19日に政府は「基本的対処方針」の改定を行い,感染拡大した場合にも,社会インフラなど国民の生活に不可欠な業務を継続するために,十分な感染対策やテレワークの活用など,各事業者に対し都道府県が要請する取組みを定めた。対処方針では,生活などに不可欠な業務を,①医療体制の維持,②支援が必要な人の保護の継続(老人福祉施設,障害者支援施設など),③国民の安定的な生活の確保(電力,ガス,飲食料品供給,小売店,冠婚葬祭,メディアなど),④社会の安定の維持(金融,物流・運送,行政,育児など)に分類し,医療従事者や介護職などを挙げた。
 オミクロン株による感染急拡大は,保健所業務を再び圧迫してきた。第4波と5波での教訓で,次の感染拡大に向けて,保健所体制強化が求められていたが,想定以上の急速な拡大で追いつかなくなった。感染者の行動歴を把握する積極的疫学調査に手が回らなくなり,濃厚接触者への連絡は感染者本人に委ねる事態となった。また,まん防措置適用の一部の地域では,発症から2週間遡る行動歴の聞き取りを2日間に短縮したが,オミクロン株の潜伏期間が短いため2週間遡る必要がないとしたことによる。これらの積極的疫学的調査の絞り込みについては,政府が感染拡大時には許容してきた。第5波では積極的疫学調査の対象を医療機関や高齢者施設の関係者を優先して保健所の負担軽減を図った地域もあった。但し,どこで感染してどのように広がったかを詳細に追うことができないと感染拡大を防ぐことができないという点では,感染経路が分からない市中感染が増えることによって悪循環に陥ることに繋がるため,積極的疫学調査の絞り込みは諸刃の剣となる。
 一方,政府にCOVID-19対策を助言する尾身茂分科会会長らの専門家有志は,さらに感染が急拡大した場合に重症化リスクの低い若年層について,必ずしも医療機関を受診せずに自宅での療養を可能とすることもあり得ると,方向転換を政府に促す提言を21日に公表した。

 ● COVID-19が疑われる全員が検査・診療で医療機関を受診すれば地域の医療体制能力を超える
 ● オミクロン株の感染拡大は速いが,基礎疾患のない50歳未満の感染者は,症状は軽く,自宅療養で軽快する
 ● 広範な人流抑制よりも,感染リスクの高い場面・場所に絞った人数制限が効果的
 ● 感染急拡大による医療の機能不全を防ぐためには,若年層で重症化リスクの低い人は医療機関を受診せずに自宅療養を可とすることもあり得る

 なお,当初専門家組織の会合では,若年層については検査を実施せずに臨床症状のみで診断を行うことを検討する必要がある,とした提言案を出していたが,自治体等での混乱を招くとして「検査をしない」という部分が削除された経緯があった。
 この提言を受けた形で,外来機能のひっ迫を懸念して,24日に厚労相は,若年層で症状が軽く重症化リスクが低い感染者は,医療機関を受診することなく自宅療養とすることを認める方針を発表した。また医療機関で診療や検査を受けるのに一定の時間がかかる場合には,発熱などの症状があっても,重症化リスクが低い人に限って,自らキットで検査をしてから受診するよう呼びかけることも認めるとした。さらに,感染者の濃厚接触者となった同居家族に症状がある場合は,検査をせずに症状等から医師の判断によって感染したと診断することを可能とした。
 オミクロン株はデルタ株に比べて感染拡大のスピードは極めて速いが,基礎疾患や肥満のない50歳未満の多くは感染しても症状が軽く,自宅療養で回復していることなどが分かってきたことが,これらの判断の背景にある。

⑵ 重症化リスク因子の保有数と中等症Ⅱ以上の割合
 HER-SYSデータにおいて,2022年1月1日~20日の間にSARS-CoV-2陽性と診断された3,365,398人中重症度のある196,365人かつ,各重症化リスクの項目に入力ありの178,795人を解析対象として,重症化リスク因子の保有数と中等症Ⅱ以上の割合に関するデータが厚労省アドバイザリーボードで示された。重症化リスク因子の保有数は,慢性閉塞性肺疾患,糖尿病,脂質異常症,高血圧症,慢性腎臓病,悪性腫瘍,肥満,喫煙の8つのうち,保有している数とした。結果は表2に示すとおり,保有数と中等症Ⅱ以上の割合は相関していたが,40代50代では重症化リスクありはなしに比べて約6倍多いことが示された。但し,第6波のこの時期はオミクロン株とデルタ株あるいはその他の変異株が混在しているため,オミクロン株固有のデータではない。

表2.重症化リスク因子の保有数と「中等症Ⅱ以上」の割合(2022年1月1日~20日)

⑶ 第5波における重症化率と致死率
 厚労省に協力が得られた茨城県と広県県等の自治体データを使用して,2021年7月1日~10月31日の期間中のCOVID-19感染者28,446人を対象に,年齢階級別,ワクチン接種歴別で,重症化および致死率を算出した報告が,厚労省アドバイザリーボードで出された。重症者の定義は,人工呼吸器使用,ECMOの使用,ICU等で治療,のいずれかに当てはまる患者とした。重症者には,経過中に重症となったが死亡に至らなかった者,重症化して死亡した者,重症化せずに死亡した患者が含まれる。
 この時期の感染者は,ほぼデルタ株によると考えられる。重症化率,致死率のいずれも高齢者に高く,ワクチン未接種に多いことが明らかであった。

表3.第5波における重症化率・致死率

⑷ オミクロン株
 2021年11月24日に南アフリカから最初のSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統による感染例が報告され,WHOはB.1.1.529系統を監視下の変異株(VUM)に分類したが,26日にウイルス特性の変化を考慮して「オミクロン株」と命名し,懸念される変異株(VOC)に位置づけを変更した。国立感染症研究所は,同日にB.1.1.529系統に分類される変異株を,感染・伝播性,抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき,注目すべき変異株(VOI)として位置づけ,監視体制の強化を開始した。28日に,国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき,B.1.1.529系統(オミクロン株)をVOCに位置づけを変更した。オミクロン株は従来株と比較すると,スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換を有し,3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。
 オミクロン株による感染急拡大の背景には,感染のサイクルが短くなっている可能性がある。世代間時間(感染者から他者への感染時間,一次感染から二次感染まで)が短くなり2日前後になったと分析されており,このことで感染が連鎖するサイクルが早まり急速に流行が広がることになる。世代時間に関する研究では,デルタ株は約5日(平均4.6日),オミクロン株は約2日(2.1日)と推定されている。潜伏期間も,デルタ型の約5日に比べて短く,約3日と考えられている。また,ウイルスの増殖場所は,オミクロン株は咽頭で増えやすくなっていると考えられ,二次感染の起こりやすさに関わっている。国内外の知見により,オミクロン株の家庭内の二次感染率は3~4割以上と非常に高くなっていることが明らかとなっている。ウイルス排出期間は,診断・発症から7~9日間,症状改善から2日間である。実効再生産数は,感染者数の推移と世代時間の数値をもとに算出されているが,これまでの分析ではオミクロン株とデルタ株の世代時間が同じと仮定していたが,世代時間が短いと実効再生産数の推定値が小さくなる。オミクロン株の実効再生産数は,第6波の始まった頃はデルタ株の3~4倍と言われていたが,世代時間の短さを考慮すると英国では2倍前後,デンマークでの分析では約1.6倍と推定される。またオミクロン株は免疫逃避の傾向がみられ,ワクチンの感染予防率が下がる時期と第6波の始まりが重なったことと感染サイクルの速さの両方により急拡大となっていると考えられる。世代時間の変化は,感染対策の効果にも影響するが,感染サイクルが速ければ,対策の効果発現も速くなり,感染者の減少傾向になったときに減るのも速くなる。まん防措置のような対策で接触機会を減らすことで,その効果はこれまでよりも短期間で表れる可能性がある。一方,感染サイクルが短くなったことで,感染者を隔離する前に他の人への感染が広がるケースが増えることになり,感染拡大阻止の効果が得られにくくなる。個人レベルでの基本的な感染対策としてマスクの着用,換気の徹底,密を避けることなどは意義が大きい。

表4.オミクロン-BA.2株の特徴(デンマーク)
   デルタ株と比べた発症間隔と実効再生産数の倍率

 オミクロン株の下部系統として,BA.1系統BA.2系統BA.3系統が位置づけられており,現在の世界的な主流はBA.1系統である。我が国での検出のほとんどがBA.1系統であるが,検疫ではインド,フィリピンに渡航歴のある者からBA.2系統が検出されている。デンマーク,フィリピン,インド等の諸外国ではBA.2系統が占める割合が増加していることから,我が国でもBA.2系統が広がる可能性が高い。特に2月に開催される北京冬季オリンピック2022での国際的な交流の場を通じて,各国へ拡散する可能性があり,2月中旬以降に注意を要する。現時点ではBA.2系統感染例の疫学的情報は限定的であるが,BA.1系統に比べて感染力が18%程度高いとの報告がある。日本国内ではPCR検査でL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが,BA.2系統もL452R陰性となるため検出可能である。今後も一定数のゲノム解析によるモニタリングを継続する必要がある。
 南アフリカ,英国,米国ではデルタ株からオミクロン株への急速な置き換わりを認め,いずれの国においても新規感染者の95%以上がオミクロン株に由来すると推定されている。また複数の国・地域で市中感染やクラスター事例が報告されており,さらなる感染拡大が懸念される。水際対策としての入国後の待機期間については,10日間から7日間にさらに短縮されたが,今後の水際対策は海外および国内のオミクロン株などの変異株の流行状況を踏まえて検証しなければならない。また入国時検査の陽性者は,海外における流行株監視のためにも,全ゲノム解析を継続させねばならない。

⑸ 京都府の感染者数の推移と対策
 京都府の新規感染者は正月明けから急増し,上旬には二桁台から三桁台へ,中旬には1,000名を超えた。下旬には2,000名を上回り,1日新規感染者数の最多更新が続いた。新規陽性者数の7日間平均は,1日時点の17.71人が10日時点で130.0人,20日時点で905.14人,31日時点では2,163.86人と増加した。新規陽性者数,PCR陽性率,療養者数項目は増加しているが,療養者数が増加したため,入院率は相対的に減少していた。しかし入院者数の絶対値は増えてきた。高度重症者は1月初旬はゼロであったが漸増し,10日2床,20日5床,31日時点で11床となり,重症者病床の使用率が上がっていること,特に高度重症病床の使用率は今後も増え続ける可能性が高く,対応に追われることになると思われる。感染経路不明の割合が31日には92.8%と著増したが,この背景には保健所による積極的疫学調査の対象を医療機関や高齢者福祉施設等のクラスターに絞り込んだことの結果である。感染経路が判明しているもので最も多いのは「同居家族」で30%前後を占め,「保育施設・学校」は上旬の0.3%から中旬には10.8%と増え,また「会食」は7.4%から10.5%に増えた。成人式前後の会食の機会で感染した例があると推測される。

表5.京都府のモニタリング指標の状況

 第6波では,20代が多数を占めることは第5波までと同様であるが,全年齢中の20代の比率は第4波と5波ではそれぞれ約22%,27%であったが,1月は20%を下回った。10代および10歳未満の乳幼児と小児の感染者の増加が目立った。就学前児童の通所施設や幼稚園・学校での感染拡大があり,それらの小児の保護者世代および施設の職員での増加もともなった。第5波では学校でのクラスターが昨年8月に9か所(102人)であったのに対し,23日時点で14か所(183人)となり第5波をすでに超えた。小中高校の6日~23日の学級閉鎖数は393学級(163校)で,市内の全4,002学級の約1割に相当する。学校での濃厚接触者の特定のための疫学調査は,従来は学級閉鎖となったクラスの全児童生徒にPCR検査を行い,検査結果をもとに登校の再開を行っていた。しかし,検査や疫学調査の業務ひっ迫が深刻化し,複数の児童生徒の感染が同時に確認される,あるいは教職員が感染するケースに絞ってクラス全員への検査を実施することとし,健康観察等で感染が抑制されていると判断した場合に7日後に登校を再開させるとしていた。しかし,その後はこの期間も5日に短縮された。疫学調査は保健所と京都市教育委員会(市教委)で行ってきたが,20日以降は市教委のみで担っている。保育施設も8か所(81人)で過去最多となり,高齢・障害者施設も15か所(248人)に上る。いずれも2月も引続いて増えると思われる。
 昨年12月のオミクロン株の感染拡大に対する水際対策が強化されて以降,京都府では12月3日からSARS-CoV-2陽性者は全員を一時入院とする強い措置をとってきた。年末には感染急拡大による新規感染者急増で病床利用率が急速に増加し,1月3日時点で病床利用率は23.8%に上昇していた。この感染のスピードが速いことを受けて,年明けの4日に京都府庁で京都府COVID-19対策本部会議が開かれた。全員入院は医療体制のひっ迫を早めるリスクがあるため,感染者数の顕著な増加の中で,病床を確保するためには方針を変更し,医療体制への負荷を下げるため,軽症あるいは無症状者は宿泊療養施設入所とすることとした。この京都府の方針変更決定は,政府の5日発表の同様の変更に先んじていた。中等症以上あるいは重症者,重症化リスクのある感染者は入院とし,軽症・無症状であってもオミクロン株感染が判明した場合は入院とする。第6波への備えとして入院治療/検査体制の強化を行うため,679床に増やした即時入院用病床に加えて,感染拡大期に使用する確保病床も868床とした。また,SARS-CoV-2検査の無料検査所を府内21か所から新たに64か所に増設することとした。
 12日の府対策本部会議で,京都府の感染状況のレベル指標を「1」から警戒を強める「2」に引上げることを決めた。19日の京阪神3府県の知事の協議ではまん防措置の政府への要請は見送ったが,21日に3府県共同で政府に対して,まん防措置適用を要請することになった。ただ,これまでに京都府に2度まん防措置が適用されたが,いずれも感染者の増加が止まらず,緊急事態宣言の発令に至った。今回はオミクロン株の特性から,どれだけの効果が上がるのかは未知である。京都府は27日からまん防措置適用となり,2月20日までの期限となった。
 保健所機能のさらなる強化として,21日に京都市は保健所体制を434人から562人に増員した。発生届が提出された後の保健所による「ファーストタッチ」を確実にすることと,健康観察を確実に行い必要な医療に繋げ,在宅療養解除の連絡を確実に行うことを最重点事項として職員配置を行うとした。しかし実際には,医療機関からの発生届・重症化リスクチェックシートをもとに,症状の重い者,高齢者,基礎疾患を有する者等,重症化リスクのある陽性者を最優先としているため,軽症者あるいは無症状者への「ファーストタッチ」には数日を要している。また積極的疫学調査については,クラスター化や重症化リスクの高い医療機関,福祉・児童施設等に対しては保健所が実施するが,それ以外では,感染者本人から直接同居家族以外の友人・知人等の接触者に連絡,また感染者の勤務先事業主は事業者自ら接触者の洗い出しや検査対象者の名簿の作成等の対応をすることを求めた。

図1 京都府内 新規感染者数・年代別 1月

図2 京都府内 若年層新規感染者推移 1月

⑹ 感染急拡大がSARS-CoV-2検査へ及ぼす影響
 感染者数の増加に加えて,無料検査所(京都府内102か所)での検査希望者の増加により,SARS-CoV-2検査への影響が出てきた。PCR検査,抗原定量検査等の試薬の不足に加えて,検体処理数の急増によって検査結果が出るまでの期間が延びてきた。PCR検査を検査施設へ外注すると,従来は早ければ当日の夜までに,あるいは翌日には結果報告を受け取ることができたが,検査実施から検査結果判明まで数日を要するようになった。中和抗体薬や内服治療薬は発症から5日以内に投与するという時間的な制限がある中で,この延長は臨床現場を混乱させた。
 また,抗原定性検査キットの急速な需要増大によって,全国的に検査キットの在庫が激減し,1月下旬には医療機関からの発注に卸販売業者が応じることができなくなった。このことから,政府は検査キットの製造業者に増産を指示するとともに,医療機関へ優先的に供給する通知を27日に発出した。有症状者が確実に検査を受けられるために,「行政検査を行う医療機関」,「行政検査を行う地方自治体」,「地方自治体からの委託を受けて抗原定性検査キット等を配布する薬局等」からの発注について優先するとした。これを受けて京都府は,薬剤師会,医薬品卸協会等に対して行政検査を行う医療機関等に優先的に納入すること,安定供給に支障が生じる納入を行わないようにすることを依頼した。
 一方,検査キットが不足している現状に対して,厚労省対策推進本部は,「同居家族などの感染者の濃厚接触者が有症状となった場合には,医師の判断により検査を行わなくとも,臨床症状で診断すること。こうした場合でも,経口薬など治療薬の投与が必要となる場合等は,医師の判断で検査を行うことが可能であること」と24日付けで事務連絡を発出した。京都府は26日に,京都市は27日にこの内容を公開した。臨床症状で診断した場合は,疑似症届として発生届を提出する。
 また,無料検査所での抗原定性キットで陽性であった場合には,従来は医療機関で抗原定性検査あるいはPCR検査等で再検査を行った上で陽性を確認すれば発生届を出すこととしていたが,陽性結果のデバイスを医療機関の医師が確認すれば(情報通信機器の画面も可)改めての検査は行わずに,陽性と診断して届出を行うことは差し支えなしとする旨が厚労省から発出された。
 また,症状の軽い若い世代は自らが抗原定性検査キットで検査をして陽性であった場合,自治体が設ける「健康フォローアップセンター」に連絡する仕組みを想定し,自治体にその構築を通知した。この対象者としては,40歳未満,基礎疾患や肥満などの重症化リスクを持たない,ワクチン2回接種済みであることが想定される。受診なしで自宅療養を行うこと,発生届は「健康フォローアップセンター」の医師が行うことになる。京都府はこのセンター「京都府新型コロナウイルス感染症陽性者登録センター(仮称)」の早急な構築を目指している。
 なお検査キットが充足してくれば,従前通りに検査を実施した上で診断をすることになる。

⑺ 濃厚接触者の待機期間と無症状者の療養解除基準の見直し
 濃厚接触者の待機期間は,陽性者と最終接触のあった日(同居家族の場合,自宅療養解除日)の翌日から14日間としていたが,国の基準変更により,1月17日に10日間に短縮するとした。その後,国立感染症研究所のウイルス排出期間の調査検討の結果から,さらに7日間に変更することを27日に決めた。感染者の自宅療養期間を含めると同居家族の濃厚接触者の待機期間は20日が17日と3日間短くなったに過ぎない。その後,2月2日には同居家族の待機を7日に短縮するのは,感染者の発症日か,感染対策開始日の遅い方の翌日から7日間発症しなければ解除する,と変更した。ただし,家族内で新たに陽性者が出た場合は,その陽性者の発症日に合わせて繰り下がることになる。約2週間で2回の変更は,まさに朝令暮改で,現場は一時混乱したが,社会経済活動維持のための再度の短縮に踏み切った結果であると理解したい。
 エッセンシャルワーカーは,抗原検査キットで4日目と5日目に陰性を確認されれば解除可能とした。最短5日目には待機解除になる。7~10日の間に発症するリスクは数%と考えられているが,これを無視できるかどうか,をこれらの決定までの間に議論がなされた。
 また無症状感染者については,療養解除基準を検体採取から10日間の経過としていたが,7日間に短縮すること,臨時休校や学級閉鎖も5~7日程度から5日程度に短縮すること,入国者の自主待機も10日から7日間に短縮することが発表された。
 これらの短縮を可能とする根拠は,国立感染症研究所の検討で,一次感染者の発症日から二次感染者が発症するまでの日ごとの確率(表6)が基になっている。発症間隔の中央値は2.6日(95%CI:2.2-3.1),95%が0.7日から4.9日の間であると推定されている。

表6.二次感染者の発症までの確率

⑻ 自宅療養者へのかかりつけ医による健康観察
 第4波以来,保健所業務のひっ迫を目の当たりにしてきた。本来,入院措置となる感染者が病床の稼働状況によって入院先が見つからずに自宅待機を余儀なくされる人を含めて,医療機関での受診を経ないで自宅療養となった人の増加,自宅で病態の悪化した人が救急要請をしても搬送先がみつからない,などの問題を経験してきた。これを解消するために,2020年〜21年の年末年始,21年のゴールデンウィーク,21年秋の第5波では,府医会館で電話診療を行った。厚労省アドバイザリーボードが「医療ひっ迫時の地域における医療提供体制の役割分担イメージ」(新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き第6.2版,p44)で掲げる医療提供体制と自宅療養については,「かかりつけ医等地域の診療所が,自宅療養・宿泊療養者の健康管理を支援する」と記載されている。これを実現するために,府医は行政と協議を繰り返してきた。
 京都市では,診療・検査医療機関の医師で,自宅療養となった陽性者を電話診療・遠隔診療あるいは訪問診療を行うことを可とする場合は,発生届にその旨を記載する。SARS-CoV-2検査は公費1で扱い,電話再診料等は公費2で算定する。保健所との情報共有はHER-SYSで行い,健康観察欄に診療した記録として必要事項を記入する,あるいは「新型コロナウイルス感染症自宅療養者診療結果連絡シート」に記入して保健所にFAXで送付する。また,自宅療養者は保健所からのID発行により,myHER-SYSに毎日の健康観察を記録記入するか,自動架電によりHER-SYSへの健康記録を回答する。自宅療養者,かかりつけ医,保健所がHER-SYSを介して情報共有することになる。協議をしながらの,第6波の感染急拡大の中での見切り発車的に始まった。コロナワクチン追加接種が始まる中,日常の診療・発熱外来診療に加えて,かかりつけ医にはさらなる負担がかかることとなったが,このことの検証は後日なされなければならない。

3.府医の1月の活動

⑴ 会議等
 府医の会議(定例理事会,各部会,各委員会等),15日の京都市域地区医感染症担当理事連絡協議会(京都市のコロナワクチン追加接種および自宅療養者へのかかりつけ医による健康観察等を京都市から説明),26日の地区庶務担当理事連絡協議会は,新規感染者の急速な拡大の中で,1月も引続きWebあるいはハイブリッドで開催した。15日左京および22日綴喜の各地区医との懇談会はWeb会議で意見交換を行った。行政とのCOVID-19対策関連の協議は,6日にワクチンおよび診療体制に関して,17日に自宅療養者の支援体制に関して,それぞれ松井府医会長をはじめ府医コロナチームが臨んだ。松井府医会長は,4日の京都府対策本部会議と12日の京都府対策専門家会議に出席した。

⑵ 宿泊療養施設健康管理
 ヴィスキオ京都(V)とアパホテル京都駅東(AE)の2か所の宿泊療養施設への新規入所者は,正月明けからの新規感染者数急増とともに増加した。1月14日からアパホテル堀川(AH)で入所者受入を再開した。その後も入所者は増え続けたが,20日をピークとして漸減した(図3)。新規感染者が減ったのではなくむしろ増加している中での施設療養者数の減少は,オミクロン株による感染でも軽症者が多いこと,デルタ株に比べて有症状期間が短いことが関与していると思われる。
 入所者数の増加により,施設療養者の健康観察のために出務する医師も増員体制にした。1月6日まではVの出務医1名が,AEを遠隔診療することで兼務していたが,7日からAEに1名が出務を再開,10日からVの出務は2名体制とし,15日からAHに1名の出務を開始した。施設療養から転院となったのは22名で,陽性者外来受診は5名であった。
 出務していただいた地区医の会員の先生方に御礼申し上げるとともに,今まで出務をされていない会員の先生方でできる限り多くにご協力いただけるよう改めてお願いさせていただく次第です。

図3 1月 宿泊療養入所者数(三施設総数)の推移

⑶ 京都府・医師会 京都検査センター(府医PCR検査相談センター)の診療・検査医療機関紹介
 2021年12月22日以降,診療・検査医療機関への紹介業務を休止している。

4.COVID-19ワクチン

⑴ 接種状況
 京都府の2回接種完了の状況は,府内全人口の約77%,12~64歳の約73%,65歳以上の約91%となった。全国的に1回目・2回目接種の伸びは鈍く,ほぼプラトーとなっている。
 全国での追加接種(3回目接種)は約600万人が受け,全人口の4%程度になった。

⑵ 3回目接種
 昨年11月に,2回目から8か月以上空けることを原則として3回目接種の接種体制の構築を決めたが,その後のオミクロン株による感染急拡大に対応するため,8か月から7か月に前倒しすることを政府が決めた。京都府と京都市は,12日にそれぞれの対策本部会議を開き,ワクチンの3回目接種に向けて,2月から集団接種を始める方針を明らかにした。府が3か所,市は拠点となる医療機関13か所と公共施設など7か所を会場として,65歳以上の在宅高齢者をはじめとする一般向けの追加接種を迅速に進めることとした。これらの集団接種会場では,モデルナ社ワクチンを用いて行う。
 モデルナ社が若年男子で心筋炎が起こりやすいとされたため,高齢者でもモデルナ社よりファイザー社を希望する人が多く,ファイザーの順番待ちをするよりはモデルナで早く接種するよう,政府はテレビCMで呼びかけている。重症化予防に向けて急ぐはずの追加接種にブレーキがかかるようにならないためにも,悪いイメージの払拭と,「種類よりスピードを優先」の浸透を続けなければならない。

⑶ 5~11歳対象のコロナワクチン
 1月26日開催の第29回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で小児(5~11歳)の新型コロナワクチンの接種について,有効性と安全性,海外での状況などが検討された。数理モデルを用いたシミュレーションでは11歳以下の小児のコロナワクチン接種が進むことで同世代の重症例が抑制されるだけでなく中高年世代を含む人口全体の感染者数や重症化数を減少させる効果が期待されること,発症予防効果は90.7%と報告されていること,2回目接種後2か月の追跡期間において安全性が示されたと報告されているが,心筋炎等の副反応の報告頻度に関しては報告により発熱等の頻度は異なるものの12歳以上に比較して少ない(12〜24歳の10分の1程度)と報告されていることが示された。ただし,これらはオミクロン株の出現以前の知見であり,オミクロン株のワクチンへの影響については引続き情報収集を行うとした。国内においては薬機法に基づき有効性,安全性を審査した結果,1月21日に小児(5~11歳)の初回シリーズの接種に使用するワクチンとして,ファイザー社ワクチン(コミナティ筋注5~11歳用)が薬事承認された。
 これに遡る1月19日に,日本小児科学会(予防接種・感染症対策委員会)および日本小児科医会から,それぞれ小児のコロナワクチンに対する考え方などの提言が発表された。両者ともに否定的な意見は出しておらず,ワクチン接種に意義があるとしている。特に小児科医会は,小児用ワクチンの取り扱いや接種体制について具体的な提言をしている。
 小児用ワクチンは,保存方法,希釈方法,接種量が12歳以上ワクチンと異なるため,12歳以上のファイザー社ワクチンとモデルナ社ワクチンとの混在による接種ミスを避ける必要がある。
 接種方法は筋肉内注射であるが,我が国では12歳未満に対して筋肉内注射を行う機会がなかったために不馴れであること,小児は大人しく接種を受けるわけではなく,暴れることもあり,12歳以上と同じようには接種できない可能性があり,接種場面での保持や抑制・介助の工夫が必要であることから,小児科医といえども三角筋への筋肉内注射での接種はより慎重に行わねばならない。また保護者同伴が必須であるが,保護者が同胞を連れてくることもあり,接種会場での密を避けることが困難になることから,ある程度の広さが必要になる。
 26日の分科会の議論を受けて,28日に厚労省は「新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保に係る自治体説明会(第11回)」を開催した。この中で,2月上中旬(2月10日の予定)に小児への接種について厚生科学審議会に諮問,2月下旬に自治体に対しファイザー社ワクチン(5~11歳用)の配分開始,3月には予防接種法関係の改正等を経て小児(5~11歳)を対象とした接種が可能となる,と説明した。当面のスケジュールでは,小児第1クールの配送は2月28日の週から,第2クールの配送は3月7日の週からになる予定である。それまでの約2か月で小児の接種体制構築を行う必要がある。

⑷ オミクロン株に対するコロナワクチンの効果
(i)ワクチン接種者から得られた血液検体を用いて,オミクロン株,デルタ株,従来株に対する,ファイザー社,モデルナ社,アストラゼネカ社の有効性が米国マサチューセッツ総合病院で検討された。①SARS-CoV-2感染歴がないワクチン接種完了後3か月以内の群(recent vax群),②SARS-CoV-2感染歴がないワクチン接種完了後6~12か月経過している群(distant vax群),③SARS-CoV-2感染歴がありワクチン接種完了後6~12か月経過している群(distant vax + infection群),④SARS-CoV-2感染歴がない過去3か月以内にmRNAワクチンのブースター接種を済ませた群(booster vax群)に分類した。ハイスループットSARS-CoV-2類似ウイルス中和抗体アッセイで,血清検体における3種のそれぞれの疑似ウイルスに対する中和抗体価を比較検討した。
 その結果,野生株に対する中和抗体価は,mRNAワクチン2種のrecent vax群で高かった。distant vax群ではいずれのワクチンでも中和抗体価が大幅に低下していたが,distant vax + infection群ではアストラゼネカを含めたすべてのワクチンで高い中和抗体価が認められた。booster vax群ではファイサー,モデルナ,アストラゼネカのいずれでも最も高い中和抗体価を示した。
 デルタ株に対する中和抗体価については,すべてのサブグループにおいて野生株と比べて低く,先行研究と一致した結果であった。またdistant vax群のほとんどで中和抗体が検出されなかったが,recent vax群とdistant vax群, vax + infection群では中和抗体の低下は軽度であった。
 一方,オミクロン株に対しては,recent vax群でも50%超で中和抗体が消失しており,野生株に対する中和抗体価と比べたオミクロン株に対する中和抗体価はモデルナで43倍低く,ファイザーで122倍低いことが示された。これに対し,distant vax + infection群では,そのほとんどで検出可能なレベルの中和抗体が維持されていたが,中和抗体価はモデルナで9倍,ファイザーで12倍,アストラゼネカで17倍の低下がみられた。しかしvax + infection群では,オミクロン株に対する中和抗体価は,野生株に対する中和抗体価と比べて4~6倍の低下に留まっていた。
 さらにrecent vax群とbooster vax群の比較から,2回目接種と比べたブースター接種による中和抗体価の上昇度は,野生株やデルタ株では1~9倍であったのに対して,オミクロン株ではモデルナで19倍,ファイザーで27倍と大幅に上昇していた。
 これらの結果から,mRNAワクチンの3回目接種によって,オミクロン株に対する強力な交差中和反応が生じることが明らかになった。

(ⅱ)米国CDCで,診断陰性症例対照試験を実施し,オミクロン株,デルタ株に対するファイザー社およびモデルナ社ワクチン3回目接種の有効性を検証した。対象は,COVID-19様症状があり,PCR検査を受けた18歳以上の7万155例で,①3回目接種から14日以上経過かつ2回目接種から6か月以上経過した群(3回目接種完了群),②2回目接種から6か月以上経過し,3回目は未接種群(2回目接種完了群),③ワクチン非接種群(非接種群)の3群に分けた。
 解析の結果,3回目接種群のうち,オミクロン株への感染が確認されたのは2,441例(11.2%),デルタ株679例(3.1%),非感染は1万8,587例(85,6%)だった。2回接種完了群ではそれぞれ,7,245例(23.2%),4,579例(14.6%),1万9,456例(62.2%),非接種群では,3,412例(19.9%),5,044例(29.4%),8,721例(50.8%)だった。回帰分析では,非接種群に対する3回目接種完了群のSARS-CoV-2感染の調整オッズ比(aOR)はオミクロン株で0.33(95%CI 0.31~0.35),デルタ株で0,065(同0.059~0,071)と,いずれもリスクの低下が認められた。2回目接種完了群に対する3回目接種完了群のaORは,オミクロン株で0.34(同0.32~0.36),デルタ株で0.16(同0.14~0.17)と,同様に低かった。
 SARS-CoV-2変異株とワクチン接種状況で層別化し,SARS-CoV-2ウイルスゲノムの3領域(N遺伝子,ORF1ab遺伝子,S遺伝子)の閾値到達サイクル数(Ct値)を解析し,Ct値の中央値は,オミクロン株,デルタ株ともに3回目接種完了群では2回目接種完了群に比べ有意に髙値だった。
 COVID-19様症状がありPCR検査を受けた者のうち,SARS-CoV-2陽性と判定される割合はmRNAワクチン非接種例,2回接種例に比べて3回目接種例で少なかったことと,デルタ株ほどではないがオミクロン株に対してmRNAワクチンの3回目接種が,非接種,2回目接種に比べて感染抑制に有効であることが示唆された。

(ⅲ) 神戸大学感染症センターで,ファイザー社ワクチンを2回接種した医師を対象に,接種後の2か月時点,7か月時点,および3回目接種後の変異株に対する中和抗体を測定した。その結果,3回目接種を受けた全員がオミクロン株に対する中和抗体を獲得し,抗体価は2回目接種後2か月および7か月時点に比べて,それぞれ32倍,39倍と著明に高かったことを報告した。
 2回目接種後2か月時点では,従来株とアルファ株に対して全員が,デルタ株に対しては92.7%が中和抗体を有していたが,オミクロン株に対しては28%しか得ていなかった。またオミクロン株に対する抗体価は,従来株および他の変異株に対する抗体価と比べて,いずれも低かった。年齢別で比較すると,59歳以上の高齢群で中和抗体陽性率の低下傾向がみられたが,オミクロン株では前年齢群で中和抗体陽性率が低かった。3回目接種後の解析では,全員が従来株およびオミクロン株を含むすべての変異株に対する中和抗体を獲得していた。またオミクロン株に対する抗体価は,2回目接種後2か月時点および7か月時点よりはるかに高く,それぞれ32倍と39倍であった。各年齢別の比較では,2回目接種後7か月時点と比べて,若年群(38歳以下)で41倍,中高年群(39~58歳)で43倍,高齢群で27倍に上昇していた。

5.COVID-19治療薬

⑴ モルヌピラビルの効果
 メルク社は,COVID-19治療薬モルヌピラビルに関して,臨床試験ではオミクロン株に対する効果を検証する試験が実施されていなかたため,改めてオミクロン株に対する有効性を検証した。
 試験は6か国(ベルギー,チェコ,ドイツ,ポーランド,オランダ,米国)で実施した。オミクロン株を含む「懸念される変異株(VOC)」に対する抗ウイルス活性を評価したところ,変異株感染例では概ね一貫した有効性が確認された。

⑵ レムデシビルの早期投与
 レムデシビル(日本の販売名:ベクルリー点滴静注用100mg)は中等症~重症のCOVID-19の入院患者に使用し,その転帰を改善する。COVID-19の有症状者で重症化リスクのある非入院患者で,レムデシビルの使用によって入院を回避できるかどうかは不明であった。COVID-19の症状発現後7日以内で,重症化危険因子(60歳以上,肥満,特定の基礎疾患)を1つ以上有する非入院患者を対象とした無作為に絨毛券プラセボ対照試験が行われた。レムデシビル静脈内投与(1日目200mg,2日目・3日目各100mg)群(279例)とプラセボ投与群(283例)に割り付け,主要有効エンドポイントは28日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡の複合とした。28日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡は,レムデシビル群2例(0.7%),プラセボ群15例(5.3%)に発生した(ハザード比0.13,95%信頼区間(CI)0.03~0.59,P=0.008)。28日目までのCOVID-19関連受診は,レムデシビル群では246例中4例(1,6%),プラセボ群では252例中21例(8.3%)に発生した(ハザード比0.19,95%CI0.07~0.56),28日目までの死亡患者はいなかった。有害事象はレムデシビル群42.3%,プラセボ群46.3%で発言した。この結果,COVID-19の重症化リスクの高い非入院患者において,レムデシビルを3日間投与する治療は,プラセボと比較して入院または死亡のリスクを87%低くしたことがわかった。
 オミクロン株への有効性も報告されており,1月27日に治療ガイドライン「診療の手引き」を改訂し自治体へ通知した。28日に後藤厚労相は,軽症者に対して3日間の点滴投与を認めることを表明した。

<資料>
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#「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び航空機内における濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(1月5日,日医)
#「オミクロン株の感染流行に備えた地域の医療機関等による自宅療養者支援等の強化について」(1月5日,日医)
#「「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第6.1版」の周知について」(1月5日,日医)
#「新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬の医療機関及び薬局への配分について(別紙及び質疑応答集の追加・修正)」(1月5日,日医)
#「精神疾患による入院患者への新型コロナワクチンの追加接種に係る接種体制の確保について」(1月6日,事務連絡,厚労省社会・援護局/健康局)
#「「新型コロナウイルスの懸念される変異株,オミクロン株に対応した学校における感染症対策に係る留意事項について」の周知について(依頼)」(1月11日,事務連絡,文科省初等中等教育健康教育・食育課)
#「5歳以上11歳以下の者への新型コロナワクチン接種に向けた接種体制の構築について」(1月11日,事務連絡,厚労省健康局)
#「基本的対処方針の変更に伴う周知依頼について」(1月12日,事務連絡,厚労省医政局)
#「オミクロン株の感染流行に対応した保健・医療提供体制確保のための更なる対応強化について」(1月12日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(1月12日一部改正,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルス感染症治療薬「モルヌピラビル」(販売名:ラゲブリオカプセル200mg)の処方に関する留意点について」(1月13日,日医)
#「初回接種完了から8か月以上の経過を待たずに新型コロナワクチンの追加接種を実施する場合の考え方について(その2)」(1月13日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの迅速な接種のための体制確保に係る医療法上の臨時的な取扱いについて(その6)」(1月14日,事務連絡,厚労省医政局)
#「新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)に使用するファイザー社ワクチン及び武田/モデルナ社ワクチンの配分等について(その3)」(1月14日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルスワクチン接種会場への看護師・准看護師の労働者派遣について」(1月14日,厚労省医政局/健康局/職業安定局)
#「京都府接種会場にいける医療従事者及び高齢者・障害者施設従事者等の新型コロナウイルス感染症に係る追加接種(3回目接種)の実施について」(1月17日,事務連絡,京都府健康福祉部)
#「新型コロナワクチン接種事業,地域にお住まいの高齢者をはじめ全ての方の3回目接種の開始について」(1月17日京都市保健福祉局)
#「新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者の待機期間短縮について」(1月17日,京都市保健福祉局)
#「5歳~11歳の新型コロナワクチン接種にあたって」(1月19日,日本小児科医会)
#「5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」(1月19日,日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会)
#「新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について」(1月19日一部改正,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「オミクロン株の感染流行に対応した臨時の医療施設等の開設準備及び医療機関における診療機能の維持・継続について」(1月19日,事務連絡,厚労省対策推進本部/医政局)
#「新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置等に関する周知依頼について」(1月20日,事務連絡,厚労省医政局)
#「新型コロナウイルス感染症オミクロン株の発生等に伴うPCR検査試薬等・抗原定性検査キットの適正な流通における留意点について」(1月20日,事務連絡,厚労省医政局)
#「新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬の医療機関及び薬局への配分について(「別紙及び質疑応答集の追加・修正」(1月21日最終改正,厚労省対策推進本部/医薬・生活衛生局)
#「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の公布・施行について」(1月21日,厚労省医政局/職業安定局)
#「新型コロナ感染症対応にかかる保健所機能の更なる強化について」(1月21日,京都市保健福祉局)
#「新型コロナウイルス感染症の感染急拡大時の外来診療の対応について」(1月24日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルス感染症感染拡大等に伴うPCR検査試薬及び抗原定性検査キットの安定供給について(依頼)」(1月24日,京都府健康福祉部)
#「SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第6報)」(1月25日一部修正,国立感染研究所)
#「新型コロナウイルス感染症患者が自宅で死亡された事例を踏まえた自治体の対応について」(1月26日,日医)
#「新型コロナウイルス感染症の感染急拡大時の外来診療の対応について」(1月26日,京都府対策本部/健康福祉部)
#「新型コロナウイルス感染症の感染急拡大時の外来診療の対応について」(1月27日,京都市健康福祉局)
#「新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置等に関する周知依頼について」(1月27日,事務連絡,厚労省医政局)
#「「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第6.2版」の周知について」(1月27日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保について」(1月27日,新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保に係る自治体説明会(第11回)資料1,厚労省健康局)
#「SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の発症間隔の推定:暫定報告」(1月31日,国立感染症研究所)

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