2020年3月1日号
担当理事 宇治久世 今井 恵子
1月25 日(土),京都ブライトンホテルにて京都府医師婦人会新年会が開催されました。 当日は天気予報で雨と言われていましたが, 新年をお祝いするような,暖かな快晴となりました。晴れやかな着物姿の方も多く,皆様のお足元が濡れずにほっといたしました。
はじめに,佐々木会長が新年のご挨拶をされました。ご挨拶の最後には,新型コロナウィルスが世界中に蔓延してしまったことにも触れられ,「現在苦しんでおられる方がたくさんいらっしゃることを,このさわやかな時間にも心に置きながら過ごしましょう」とお話をされ,襟を正してお聞きしました。
本年ご出演いただきましたのは,観世流シテ方の人間国宝である梅若実玄祥先生と,芸術文化プロデューサーの西尾智子さんでいらっしゃいます。会はお二人のトークショー形式で進みました。
梅若先生は2014 年に人間国宝に認定され, 2018 年には四世梅若実を襲名されたお方です。私は,梅若先生が醸し出す重厚な威厳に圧倒され,少し緊張しておりました。今からどのような厳しいお言葉が発せられるのかと見守っておりましたが,梅若先生はとても柔和な表情と穏やかなお声で,お能をはじめられた時のことをお話されました。ご祖父様はとてもやさしく,お能が日常に自然に入るようなご指導で,お稽古はとても楽しかったそうです。対照的に,お父様は非常に厳しいお稽古で,手をあげられることもしばしばあったそうですが,梅若先生はお能をおぼえるために当然の苦しさであると思われていたそうです。梅若先生は,どちらのご指導にも感謝をされていて「教育には二通りあるのでしょうね」とおっしゃっていました。
またある時に,梅若先生は芸術文化プロデューサーの西尾さんに,お能で世界に出てゆきたいとご相談されたそうです。西尾さんは,世界的な芸術家とのコラボレーションが最適な方法であると考えて,バレリーナのマイヤ・プリセツカヤさんとの上賀茂神社での共演や,パリのオペラコミック劇場での現代能「マリー・アントワネット」の上演をプロデュースされました。西尾さんは,お能の梅若先生とバレエのマイヤさんが,二回ほどしか合わせを行っていないにもかかわらず,本番はアイコンタクトだけでボレロの音楽に合わせて見事な舞台を作り上げられたことに, 天才と天才が一緒にお仕事をするということはこういうことなのかと,とても衝撃を受けられたそうです。それをお聞きになった梅若先生は「マイヤさんには,同じ舞はもうできませんので,本番も適当に合わせましょうとお伝えしたのですよ」と微笑んでおられました。適当にというお言葉には,踊りが持つ自由性やお互いをリスペクトするお気持ちが含まれているのだと思います。室町時代に観阿弥・世阿弥が大成した,世界最古の舞台芸術であるお能を受け継がれることに大変な重責がありますのに,さらにこれまでの歴史につながる新しい作品をお創りになるお姿に,とても感銘を受けました。
最後は豪華にも,鼓を打ちながら「高砂」を謡ってくださいました。お優しいトークショーの時とはちがって,黄泉の国から将軍が降り立ったような,地の底から湧き立つ威厳あるお声でした。鼓の音色と相まって,この世のものとは思えない謡をお聞かせいただき,すばらしい体験でした。神仏や亡霊が登場するというお能は,あまたの神々が土地に息づき,多様な信仰に寛容な日本において, すでに無意識に浸透している世界観なのでしょう。私はお能を正式に見に行ったことはありませんでしたが,日本人としての意識を再確認し,お能の舞台をもっと見てみたいと思いました。
京都府医師婦人会の催しは,いつも文化や教養の扉を開ける貴重な機会を与えてくださいます。この場をお借りして,心より感謝申し上げます。