2022年5月1日号
京都大学医師会と府医執行部との懇談会が2月16日(水)Webで開催され,京都大学医師会から18名,府医から13名が出席。「新型コロナウイルス感染症『第6波』への対応」をテーマに活発な議論が行われた。
〈注:この記事の内容は2月16日現在のものであり,現在の状況とは異なる部分がございます〉
~京都大学医学部附属病院の取組み~
京都市内における感染者数の推移に比例して,京都大学医学部附属病院(以降,京大病院)に勤務する職員(医師,看護師,事務職等)およびその家族の体調不良者または休務者の数も増加したことが報告された。
第6波では,教育機関での学級閉鎖あるいは濃厚接触者の報告が半数を占め,子どもの感染者が多いことが特徴的であったことから,これまで曖昧であった職員家族が濃厚接触者となった場合のフローを,①職員の子どもが通う保育所等で感染者が発生した場合は,子どもが濃厚接触者のグループでなくても当該職員は自宅待機とする,②子どものPCR検査結果が陰性であっても,潜伏期間を考慮して3日後に再検査する―等,具体的な内容に整備するとともに,職員に対しては,京大病院で定めた「マスクを外した患者対応はしない,孤食の徹底,マスクを外した会話を禁止する」という指針に基づく行動を要請したことが説明された。
その他,院内の取組みとして,多数の休務者の発生によって診療への影響を免れない状況が生じることを想定し,各部署でBCPを作成の上,レベルに応じて対策を講じていることが報告された。
また,京大病院では,2020年11月に締結した京都市との包括連携協定に基づき,感染制御部において京都市の行政検査体制を補完し,介護ケア推進課が担う高齢者福祉施設での感染症対策に努めてきたことが報告された。「高齢者施設検疫モデル」を作成し,通所系・入所系の高齢者福祉施設において,いわゆる「まん防検査」を実施するとともに,教育資材を提供する取組みを実施。結果として,第5波,第6波ではワクチン接種の効果と併せて,高齢者施設でのクラスター発生件数の減少に繋がったことが報告された。
~感染症対策に係る加算と病診連携の推進について~
令和4年度診療報酬改定では,従来の感染防止対策加算が感染対策向上加算に名称変更されるとともに,感染対策向上加算1を届出する病院のカンファレンスや新興感染症対策に係る訓練には地域の医師会の参加が求められるなど,地域の拠点となる病院と診療所との連携がますます重要になるとして,今後の連携促進に期待が示された。
~京都大学医学部附属病院および京都府内における救急医療の現状~
新型コロナウイルス感染症が流行する前の2019年から直近までの京都市内における救急搬送受入件数について,第1波では,全国的な推移と同様に,事故や新型コロナウイルス感染症以外の感染症が流行しなくなったため,1~2割ほど搬送台数が減少したが,第6波においては,京都市内および左京区の救急搬送件数が増加していることが報告された。一方で,京大病院においては,職員・家族に感染者が増加したことが影響し,受入件数が減少したと説明があり,現状では他の医療機関でも共通した問題であるとした。
~救急搬送困難事案への対応について~
病院交渉4回以上かつ救急隊が現場に30分以上滞在しなければならなかった「搬送困難事案」について,2020年度と2021年度の同時期を比較したところ,第6波から増加傾向にあり,特に救急隊が現場に30分以上滞在したもののうち,4分の3が30分~1時間の滞在を要し,4分の1は滞在時間が1時間を超える事例であったことを紹介。
このような救急搬送困難事案に対応するため,2021年2月から,局地災害における情報共有ツールを転用し,病院交渉が10回を超えるような搬送困難事案に対して,「京都健康医療よろずネット(京都府救急医療情報システム)」を通して,消防から京都府内の救急病院に一斉に搬送依頼がかかるシステムの運用が開始されていることが報告された。同システムの運用により,不必要な病院交渉を抑制することが期待されるが,受け入れ可能な病院が限られているため,今後の改善の必要性が指摘された。
また,第6波では,要介護度が高い高齢者等,新型コロナウイルス感染症以外の事例も含めて不搬送事例が増加しており,この状況に対応すべく,島津アリーナ京都に開設された早期入院が困難な新型コロナウイルス感染症患者の受け入れを行う「入院待機ステーション」では,これまでの約30床から110床の受け入れが可能となるよう準備が進められているとした。
さらに,従来は消防指令センターが選定した病院に受け入れ要請を行うシステムであったが,心肺停止やショックなどの重症事案を除き,救急隊から直接,病院へ受け入れ要請を行うシステムが3月から試験運用され,4月から全面切り替えとなる予定であることが報告された。傷病者の詳細を連絡しやすいメリットがある一方で,現場の救急隊が病院の選定も行わなければならず,負担が増えるデメリットもあると指摘があった。
府医より,新型コロナウイルス感染症における感染状況について,第6波当初は20代の感染者数が多かったが,2月になると10代や10歳未満の感染者数が急増したことにともない,家庭内感染でその親世代である30・40代にも拡大している状況を報告した。オミクロン株が猛威を振るう中,かかりつけ医としてどのように対応するかが課題であるとした。
~府医における自宅療養者への対応~
第5波では,病床逼迫により入院対象者が自宅での療養を余儀なくされるなど自宅療養者が急増し,保健所による自宅療養者への健康観察が困難になったことから,京都市からの要請を受けて府医会館内に「京都市電話診療所」を設置の上,京都市内の地区医の協力を得て,出務医師と府医役員が分担して電話による健康管理と健康相談を実施したことを説明。投薬が必要な場合は処方箋を発行し,薬剤師会の協力を得て,連携の調剤薬局から患者宅へ薬剤を届ける体制を構築するとともに,患者の状態に応じて,入院,中和抗体薬の適応,市内の病院に設置された「陽性者外来」でのCT・血液検査等の必要性を判断し,京都府入院医療コントロールセンターに調整を依頼したことを報告した。
~かかりつけ医による自宅療養者への健康観察の体制整備について~
今後はかかりつけ医も電話等による診療と健康観察を行うことが求められており,発生届の項目にも訪問・電話またはオンラインによる診療の可否を確認する欄が設けられ,「可」と回答した医療機関に対しては保健所から必要に応じて対応が依頼される可能性があるとした。
これまでは医療機関が発生届を提出した後,保健所・行政から情報のフィードバックがなく,その患者の状態や療養先が全くわからないことが課題であったが,保健所と医療機関との双方向の情報共有を可能とすべく,HER-SYSを介して情報共有する体制が検討されていることを報告した。
今後の課題として,特定の医療機関に発熱患者が集中している現状があるため,さらなる診療・検査医療機関の拡充を図ることと併せて,需要増大による検査キットの不足,保健所のひっ迫等を挙げ,行政とも十分に協議の上,体制整備を進めていく考えが示された。