第208回 府医定時代議員会

― 令和3年度事業報告および決算を可決 ―

 府医では6月18日(土),新型コロナウイルス感染症対策として,十分なスペースの確保と感染予防策を講じた上で,ホテルグランヴィア京都「源氏の間」において代議員88名の出席を得て,第208回定時代議員会を開催した。府医会館以外での開催は初めてであり,新型コロナウイルス感染症の流行後,参集での代議員会の開催は令和元年6月以来,3年ぶりとなった。
 冒頭の松井府医会長の挨拶に続き,地区からの代表質問ならびにその答弁が行われた。
 引続き,第1号議案として「令和3年度事業報告および決算」が上程され,松井府医会長からの総括報告,担当副会長から保険医療,地域医療,学術・会員業務,看護専門学校に係る各事業報告,内田府医理事による会計決算報告を受けて,大坪府医監事より監査報告が行われ,賛成多数で可決承認された。
 協議では,畑府医理事から決議案が上程され,採択された(決議文は別掲)。

松井府医会長 挨拶

松井 府医会長

 本日は,第208回府医定時代議員会にご出席を賜り誠にありがとうございます。久しぶりに対面で開催させていただきました。感染対策としてしっかりとディスタンスをとることから,本来,府医会館で行われていた代議員会をホテルでの開催とさせていただいたことをご了承いただきたいと思います。
 さて,新型コロナウイルス感染症ですが,昨日までの新規感染者数は,7日間平均で292.9人,減少のスピードは鈍化しているものの,前週比は0.94とわずかながら減少しており,本日現在で重症患者は0人,入院患者,宿泊療養者ともに100人を下回る状況となっています。
 この2年余りの間,診療・検査医療機関として感染者の診断にあたり,また,宿泊療養者ならびに自宅療養者への健康観察,そしてワクチンの接種と,会員の先生方には多大なるご協力,ご尽力をいただき,改めまして御礼申し上げます。
 京都府におきましては,感染拡大の当初から京都府入院医療コントロールセンターが設置され,いわゆる「災害対応」という視点で,感染者の一元管理が行われ,症状,重症度,リスクに応じてトリアージがなされ,適切な医療が提供されてきました。大変残念なことに,感染が想定を超えて拡大した時には,医療に繋げることができずに自宅で亡くなられた事例も発生しましたが,その都度対応を見直し,改善に努めてまいりました。改めて亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げるとともに,今後さらに改善に努めてまいりたいと思います。
 今週になって,南半球のオーストラリアでインフルエンザが流行していると報道がありました。オーストラリアでのインフルエンザの流行は,その後の日本での流行を予測する上で大変参考になるものであり,我が国でも今年の冬はインフルエンザが流行する可能性があります。この2年間流行がなかったことから,インフルエンザに対する免疫力の低下が指摘されておりますが,つまり今年の冬は新型コロナに加えて,インフルエンザ対策も準備が必要であるということです。いずれにしても,新型コロナ対策で行ってきた感染対策の継続と適切なワクチン接種を計画的に進めなければなりません。今後も情報の把握に努めますので,よろしくお願い申し上げます。
 さて,新型コロナウイルス感染症の拡大によって私たちは多くの経験と知見を得ることができました。地域における入院,外来,在宅にわたる医療機能の分化と連携の重要性を実感いたしました。これから議論を深めなければならない地域医療構想においては,既存病床の削減・調整という視点ではなく,それぞれの医療圏で必要な医療の機能とその量,つまり必要な病床数を含めた医療資源をどうするのか,高度医療とそれを支えるための役割分担と連携をどう進めるのか―といった議論をこれから早急に始めなければなりません。その中でもかかりつけ医の役割は大きく,一層の機能強化は取組むべき課題であると考えております。
 さて,この「かかりつけ医」という言葉ですが,日医では,かかりつけ医とは,「健康に関することを何でも相談でき,必要なときは専門医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師」と整理しています。我が国では,医学部を卒業すると,それぞれの専門分野を高めた後に開業することが多いのですが,開業医はそれぞれの専門分野を維持しつつ,専門外の疾患については専門家に相談,あるいは紹介しながら,自らも知見を重ね,質の向上を図るという形で患者と関わってきました。患者側からすると,その先生の診療科,専門に関係なく,気の合う,信頼できる先生に何でも相談することができ,必要に応じて専門病院,あるいは専門医を紹介してもらえるということが当然のように行われてきましたし,それが開業医の質の向上に繋がってきたと考えております。
 ところが今,政府はかかりつけ医の制度化を進めようとしています。「かかりつけ医の制度化」とはどういうことでしょうか。海外の例を見ますと,ドイツの家庭医制度,あるいはフランスの主治医制度が参考になります。ドイツやフランスでは,法律によって医師と患者の間に明確な契約関係が結ばれています。例えばドイツでは,18歳になると家庭医を登録するという決まりになっており,登録自体は任意ですが,登録をしていないと金銭的なペナルティを受けることになります。つまり,登録した家庭医を受診した場合は自己負担がゼロであるのに対して,その他の医師や自分で選んだ専門医を受診した場合は,約10ユーロ(約1,400円)がかかります。フランスの主治医制度でも同様で,主治医を経由する場合は自己負担3割であるのに対し,経由しない場合は7割を負担しなければなりません。このような制度のメリットは,例えば,慢性疾患の管理がしっかりなされること,あるいは,今回のような感染症の感染拡大に際しては,患者がどこへアクセスすればよいかがはっきりしているため,患者が迷うことがないということが挙げられます。しかし,我が国の長い歴史において様々な経緯があって現状に繋がっているため,これからのかかりつけ医と患者の関係については,十分な議論が必要であると考えております。
 国の方針,特に財務省の目的は医療費の抑制です。医療費を抑制するために有効な手段として,まず診療報酬の引下げを考えています。それから,医療へのアクセスの制限です。大病院志向を改め,かかりつけ医に高度医療へのゲートキーパーの役割をさせようとしています。
 一方,私たち医師会の目的は,「必要な人が必要なときに必要な治療が受けられる」医療を守ることであり,私たちが考えているかかりつけ医は,単なるゲートキーパーではなく,繰り返しますが,「健康に関することを何でも相談でき,必要なときは専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師」のことです。そしてこれこそが,国民が期待するかかりつけ医の姿ではないでしょうか。「かかりつけ医」という言葉は同じでも,目的の違う者が考えると,その性格や果たす役割が変わってきます。政府,財務省は医療費の抑制を目的としているため,医療へのアクセスの制限や診療報酬の引下げを政策として行ってきます。オンライン診療やリフィル処方箋も医療へのアクセスを制限するための手段だと考えればわかりやすいのではないでしょうか。
 府医は今後も,「必要な人が必要な治療を受けることができる」医療体制を維持することを目的に,広く会内において先生方と協議を行い,提言に繋げていきたいと考えていますが,私たちのやりたい医療,私たちがやらなければならないと考えている医療を実現するためには,国政の場に私たちの意見を届けなければなりません。それを実現するための原動力となるのが,医政活動です。今回,7月10日に行われる参議院議員選挙は,2024年の診療報酬・介護報酬の同時改定を控えて,私たちにとって,そして何よりも国民にとって本当に大切な選挙です。医療の専門家である私たちが声を上げなければ,医療費の削減を目的に我が国の医療提供体制は間違った方向に変わっていく可能性があります。どうかご理解いただきまして,私たちの意思表示の手段として,是非次回の参議院議員選挙では先生方一人ひとりの主権を行使していただきたいと思います。
 あるべき医療を守るために,会員の皆様のご理解とご協力を改めてお願い申し上げまして,本日のご挨拶とさせていただきます。

代表質問

 代表質問では,西京,相楽,亀岡市の3地区から代議員が質問に立ち,直面する課題について質疑が行われた。質問内容および執行部の答弁(概要)は次のとおり。

○大藪 博 代議員(西京)

〔新型コロナウイルス感染症患者に係る行政と医師会の情報共有について〕

大藪 代議員

 西京医師会では,西京区においてかかりつけ医が新型コロナウイルス感染症に対してどのように取組んできたのかを検証し,解決すべき課題の抽出作業を行っているところである。我々かかりつけ医が新型コロナ患者をファーストタッチで診療し,必要に応じて高度医療機関に紹介するような連携がとれればと考えている。
 京都府が3月17日に発表した「新型コロナウイルス死亡者の状況」では,第6波中の令和3年12月21日から本年3月14日までの死亡者が計250人となっており,「3ヶ月弱で,令和3年7月から12月の第5波死者数(49人)の6倍に達した」と報告されている。しかしながら,少なくとも西京医師会の知る範囲では,この間に西京区内における新型コロナ患者の死亡数が著増したという報告がないことに加え,「オミクロン株による感染はデルタ株に比べ入院・重症化のリスクが低い」とされていることから,京都府の報告に驚いている。
 会員への周知に際して,データに基づく検証と課題の抽出が最も説得力があると考えられるため,地区ごとの新型コロナ患者の死亡数推移と,どのような過程で死亡に至ったのかを,府医・京都市保健所から地区医に適時,的確な情報共有をしていただけないか。

●谷口府医副会長

谷口 府医副会長

 約2年前に開催した地区感染症対策担当理事連絡協議会においても,西京医師会から,地域・学校区ごとに新型コロナ発生者数を知らせてほしいとのご要望をいただき,この時にも地域・学校区ごとの陽性者数の把握は難しいことから,せめて学校生徒,園児だけでも把握できればと考え,日本学校保健会が運用する「学校等欠席者・感染症情報システム」の導入を改めて京都府教育委員会,京都市教育委員会に要請したものの,実現に至っていない状況である。
 データに基づく検証と課題の抽出が,会員への有益な情報提供に繋がることはご指摘のとおりであり,府医としても行政との連携のもと,適時的確な情報共有に努めたいと考えているが,現実的には,これまでの第1波から第6波までを通じて,感染急拡大時に京都府・京都市がオンタイムで情報を発信する余裕がないのが実情である。現在,京都府が設置する「京都府新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(議長:松井府医会長)において,今後の対策を検討すべく,振り返りのための情報集約・検証がなされているところであるが,改めて京都府に対し,
○行政区ごとの新型コロナ死亡者数の推移と死亡に至った過程
○第1波から第5波までと,第6波を比較した死亡者数と死因の相違点
○コロナ重症患者数と死亡者数の相関関係の有無
についてデータの提供を求めたところである。

 まず,第1波から第6波における陽性者数と死亡者数の集計はあるものの,地区ごと,居住地ベースでの新型コロナ患者の死亡者数推移と死亡に至った過程を追うのは物理的に難しいということで,取りまとめた資料は無いとのことであった。
 京都府が公表している死亡者数の資料をもとに,「致死率」について算出したところ,第6波を5月末までとした場合,第6波の致死率は0.25%であり,第5波の0.27%に比べて0.02%低くなっており,他の波と比べても相当程度低く抑えられていることがわかる。
 「死因」については,「京都府新型コロナウイルス感染症対策本部会議」の資料から年代別,基礎疾患の有無別で集計された本年3月末までの「死亡者の状況」を見ると,第6波では,死亡者の92.5%が「70代以上」で,「基礎疾患あり」で亡くなった方も92.5%が「70代以上」となっている。第1波から第5波をトータルで見ても,死亡者の90.4%が「70代以上」であり,「基礎疾患あり」で亡くなった方の内訳も92.3%が「70代以上」となっている。自身が宿泊療養者への健康観察を担当した印象としては,第5波では肺炎症状の患者が多く見られたものの,第6波では肺炎症状を有する患者がかなり少なくなり,一方で高齢者の患者が増加したことから,基礎疾患の悪化による死亡が増えたのではないかと考えている。
 また,そもそも「コロナ死亡者」の定義が都道府県によって異なるため,一概に比較・評価を行うことが難しい点も課題の一つであるが,京都府においては,コロナ陽性者で亡くなった方すべてを「コロナ死亡者」として計上しており,基礎疾患が原因であっても,死亡後に検査し,陽性が判明した場合は「コロナ死亡者」に含まれている。
 なお,「コロナ重症患者数と死亡者数の相関関係の有無」については,現在,京都府でも検証・分析が可能か,検討が行われているところである。
 京都府・京都市が広報発表している毎日の「男女別」,「府市別」,「年代別」,「症状程度別」等の新規陽性者情報の他,新型コロナウイルス感染症患者の死亡についても,ご遺族の意向により限定的な情報にはなるが,同意が得られたものについては広報発表が行われる。行政区ごとの集計・公表は困難な状況ではあるが,せめて,日々,京都府・京都市が広報発表している情報を府医から地区医に送信させていただくなど,今できることから,可能な限りの情報共有に取組んでまいりたいと考えている。

 府医の理事会においても,第6波の検証に向けて意見交換を重ねており,▽高度重症病床の使用状況が0~1人で推移している中で死亡者が増加していたのはなぜか,▽高齢者施設等のクラスターを病院に収容できなかった可能性,影響がどの程度あったのか,▽高齢者施設等におけるクラスターの際に,搬送されなかった事例が一時的にでもあったのか,その場合,施設から病院への搬送,入院医療コントロールセンターによる調整が逼迫していた可能性があるのか,▽施設の感染予防策に差はなかったのか,▽DNARが影響した可能性はなかったのか―などについて,検証が必要だと考えており,京都府新型コロナ対策専門家会議等においても議論をお願いしているところである。
 第6波では,高齢者施設等でのクラスターが感染者数,死亡者数に影響を与えた一因と考えられるが,今後は過去の取り繕いばかりではなく,重症化リスクとワクチン接種のタイミング等も踏まえつつ,様々な可能性,感染リスクを予測しながら,次の感染の波における対策を立てていく必要がある。府医としても,会員の先生方とできる限りの情報共有に努め,地域の医療機関の連携を深めていただくことで,新興感染症への対策も含めた地域包括ケアの推進に繋げていきたいと考えている。

○山口 泰司 代議員(相楽)

〔特別養護老人ホームの配置医師のあるべき姿について〕

山口 代議員

 近年,我が国では超高齢社会に突入し年間150万人以上が亡くなる「多死社会」となる一方で,社会構造,家族構成の変化にともない,人生の最終段階を自宅で迎えることが必ずしも容易ではなく,老人施設での看取りとなる例が増えている。
 高齢者施設のうち,介護老人保健施設(以下,「老健」)は,常勤医師のもと高齢者の自立や家庭復帰を目指すものであり,一定期間後に退去を求められるのに対して,特別養護老人ホーム(以下,「特養」)は高度医療を要しない限り住み続けることが可能で,終の棲家としても期待されている。ところが,この特養の配置医師は常勤医師である必要はなく,実際には医師が医療機関での本業の傍らに副業として兼任しているケースが多く,その配置医師には,深夜の看取りや入居者の健康管理に熱心に対応しているケースもあれば,他府県の遠距離に常在する医師が名義貸しで一定報酬を得ているケースもある。後者では,本人や家族が施設内看取りを希望しても,急変時には救急搬送で病院に運ばれて死亡確認されるケースが多く,救急隊からは現場到着時に家族や施設職員からDNARを希望されて対応に困るという悩みも聞く。
 パンデミックを含む災害時にも配置医師の役割は大きく,新型コロナウイルス感染拡大期の第6波において,当地区でも多くの高齢者施設でクラスターが発生した。配置医師が熱心に対応している特養ではクラスターが発生しても被害は最小限に食い止められた一方で,配置医師の対応が乏しい施設ではクラスターの連鎖反応で甚大な被害が長引いた。施設管理者と保健所の事後検討において,施設管理者からは配置医師に方針を変えてほしい,または配置医師を変えたいとの希望が出るものの,立場上,配置医師には言い出せないという現実がある。
 地域包括ケアシステムやACPを推進するにあたり,単なる「健康管理医師」としてのみならず,特養の配置医師のあるべき姿,業務として満たすべき内容について指針となる府医の考えをご教示いただきたい。

●北川府医副会長

北川 府医副会長

 今後も死亡者数の増加にともない,老人施設で亡くなる方が増えることが見込まれている中,特養における配置医師については,国レベルで議論がなされているところである。令和3年3月に示された「特別養護老人ホームにおける看取り等のあり方に関する調査研究報告書」においては,まず,看取りの受入れ状況について,80%以上の施設が「希望があれば受入れる」という方針である。また,看取りの際,配置医師は死亡診断だけでなく,「入所者・家族への説明・同意」や「夜間・緊急時の対応体制づくり」など,多様な役割を担っていることが示されている。
 ACPにおいて最も重要となる「意思確認の見直し」は,「不定期であるが行っている」(62.2%)と「定期的に行っている」(21.0%)を合わせて8割以上の施設で行われており,その内容は医療行為の選択や救急搬送など,いずれも医師の関与・判断なしではできないものとなっている。また,看取りに関する説明と意思確認を実施するタイミングについては,病状の悪化時など節目節目で繰り返し行われていることが推察され,配置医師の労力は相当なものと考えられる。実際に看取りが近づいた際には,看護師への指示,周辺への対応,診察回数の増加など,さらに業務が増大している。
 本人や家族の希望があったとしても,実態として看取りが受け入れないことがある理由として,「家族の意見が一致しない」,「同意が不十分」等が多く挙げられ,「施設で看取りをサポートしてくれる医師・医療機関がない」という理由は少数である。ただし,原則として看取りを受け入れていない施設が約1割あることから,これらの施設においては,「医師のサポートが得られない」という理由が最も多い回答となっている。
 ここまでのデータから,多くの特養が看取りを行い,配置医師は診療だけでなく,ACPや看取りの体制づくりに多くの労力を費やしていることが伺えるが,一部において,ACPが不十分であったり,医師の協力が得られないことがあり,ご指摘のような救急搬送時の問題等が生じていると推察される。
 全国老人福祉施設協議会が内閣府の規制改革推進会議に提出した特養における医療アクセスに関する資料では,特養入所者に求められている医療ニーズは,「日常的な健康管理」を超えているとして,4つの医療ニーズ:①専門医療等対応,②認知症対応,③看取り対応,④新型コロナ対応―に分けて議論を整理する必要があると指摘されている。
 まず,③看取り対応では,様々な状況に合わせ,医師が家族への説明等において大きな役割を果たしており,家族からは入所時から本人の状態をよく把握している配置医師によって行われることを望む声が強いとされている一方で,「勤務形態や報酬面などから,それらの医療ニーズへの対応が困難な場合が多い」として,特に報酬については,介護報酬の中からわずかな額しか捻出できないという問題点が指摘されている。
 厳しい条件の中で,現に健康管理を超える専門医療や夜間・緊急時対応,看取り等で活躍し,様々な役割を果たしている配置医師が一定数存在しているのも事実であるが,配置医師の勤務実態としては,96.6%が非常勤であり,従事できる勤務時間も非常に限られたものとなっている。特養における医療提供に対する報酬として,配置医師が医療保険で算定できる項目は限定されており,特に看取りにおいては,それに見合った評価がなされていないのが現状である。
 次に,④新型コロナ対応について,第6波では,京都府内においても高齢者・障害者施設でのクラスターが多く発生したが,京都市が高齢者施設に対して行った新型コロナ診療に関するアンケート結果では,特養において,対症療法はおおむね「実施可」とされているものの,早期診断・早期治療については「実施可」の率が低く,また,やむを得ず行わなければならない中和抗体薬の投与などの重症化予防への対応についても,サ高住やグループホームに比べると「実施可」の率は高いものの,対応が厳しい状況にあることが示されている。このような中で,配置医師にはたいへんご尽力いただいているところである。
 第6波の状況から,京都府では,高齢者施設等への医療提供体制の強化が図られ,「施設内感染専門サポートチーム」による早期からの施設支援,施設への訪問診療の調整,ファーストタッチを担う配置医師等への支援等,対策の充実化が徐々に進められている。先述の「特別養護老人ホームにおける看取り等のあり方に関する調査研究報告書」においても,配置医師の役割として今後強化していきたいこととして,「感染症対策に関する相談対応・指導」(30.5%),「看取りへの対応」(28.7%)が多く挙げられている。
 地域包括ケアにおいて,介護度の高い高齢者の生活の場,終の棲家として,特養の重要性は増大しており,多くの配置医師は,時間的に,また,制度的に医療提供への制約がある中で,入所者を支える医療,急変時の対応,看取り,施設への指導など多様な業務を献身的に担い,あるべき姿を実践していただいていると認識している。
 医師が大きな役割を果たす看取り,ACP,認知症ケア等においては,利用者・家族とのコミュニケーション,看護師や施設関係者との連携が不可欠であり,時間と労力を要する。実態として,「日常的な健康管理」を超えた医療ニーズに対応している配置医師への評価やサポートが急務であると考えており,診療報酬や介護報酬での評価についても,特養の意味,地域特性,個々の施設の事情,配置医師と施設の信頼関係,医師のモチベーション等に十分に配慮し,その努力に報いる方法や範囲を決めなければ,形骸化や硬直化が懸念される。
 新型コロナ対策については,配置医師が可能な範囲で対応されてきたが,ワクチン接種,早期診断・早期治療,感染拡大防止策への初期指導など,感染拡大予防に係る役割が重要であり,そのためには施設との事前の話し合いや調整が必要になると考えらえる。高齢者施設ではクラスターの発生が続き,施設関係者が疲労しているため,行政,医師会,地域の医療関係者が面でサポートする体制が必要である。
 特養での医療は,地域包括ケア,かかりつけ医機能の「縮図」であり,これからの医療のあり方を考える意味でも非常に重要である。府医としても,医療・介護報酬の同時改定に向けて,国の動きを注視しつつ,日医等を通じて,この問題について現場から発信していくことが大きな力になると考えている。

○飯野 茂 代議員(亀岡市)

〔国内製薬会社による今後の研究開発について,国はどのように考えているのか〕
〔今後,高額な医療や高齢者の医療を保つことはできるのか〕

飯野 代議員

 国内製薬会社の不祥事を契機とした医薬品の供給不安定な状態が長期化し,患者が毎回違う薬を処方される事態が続いているが,ジェネリックを推進するために,先発メーカーの研究開発費の削減が懸念されるところである。38か国で構成されるOECD諸国の中でも,日本の医学分野における研究開発において,基礎的研究に投じる費用がかなり低いレベルにあり,今般の新型コロナワクチンの開発についても出遅れるなど,日本の製薬会社の研究開発力の低下が懸念される。国によるジェネリック推進政策の中で,国内製薬会社による今後の新薬開発について,国はどのように考えているのか。
 また,物価が高騰し,円安や年金受給額の引下げといった社会情勢の中で,透析治療や高額な抗がん剤の使用等,医療費のかかる治療の継続や高齢者の医療を保つことは可能なのかどうか,その見通しについて見解を伺いたい。

●濱島府医副会長

濱島 府医副会長

 まず,新薬開発について,国はイノベーションの推進として,「新薬創出加算」を創設している。ただ,超高額医薬品が増え,薬価総額は増加している。日本の医療費約44兆円のうち,調剤関係が約9兆1千億円,うち薬剤そのものは5兆6千億円であり,その中で後発医薬品の総額としては1兆1千億円程度となっている。薬価総額が増加する中で,後発医薬品使用の推進,毎年の薬価改定,OTC化等によって薬剤費の抑制が図られており,国としては新薬開発と後発医薬品推進を両輪として進めている状況にある。
 政府の「骨太の方針2021」において,後発品処方割合を2023年度末までにすべての都道府県で80%にすることが掲げられているが,京都府では2020年度は78.3%と,全国平均より少し低い数字となっている。しかし,メーカーの不祥事により,後発品が供給不足に陥ったため,先日発表された「骨太の方針2022」においては,この数値目標が明記されず,トーンダウンしているが,決して削除されたわけではない。
 そもそも日本には後発品メーカーが190社と多く,米国(16社)の10倍以上である上に,後発薬剤の許認可が安易であること,さらには改定ごとの薬価引下げによりメーカーはさらなるコスト削減を強いられることから,製造品質の低下は予想された結果であると言える。
 今後の医療に対する国の考えについては,厚労省は2025年の医療費を2000年時点で81兆円,2010年時点では52兆円と予測していたが,実際は2019年の医療費が44.4兆円であったことが示すように,そもそも国は医療費総額すら予想できておらず,10年後の医療ビジョンなど,国に現実的な予測ができるとは到底考えられない。
 日医は,国の医療政策に対して,かかりつけ医機能を有する医師の増加や医療機関の機能分化の推進,医師の働き方改革の進め方等に関する積極的な提言を行っているが,国は「医療費の適正化」として医療費の抑制を目指すのみであり,医療提供体制の整備については都道府県単位の医療計画により進められているところである。少子高齢化や低成長社会という逆風の多い日本の社会情勢の中で,国の明確な医療ビジョンは見られず,近年は経済財政諮問会議や財政審が言及する医療費抑制策を政治的な圧力により甘受しているのが現状である。
 先述の「骨太の方針2022」においては,「2025年度」としてきたプライマリーバランスの黒字化の目標期限は明示されなかったが,国は2025年度にプライマリーバランスの黒字化を目指すため,医療費の増加を「高齢者人口の増加分」にとどめるとして,高齢者の自然増加分以外の医療費は基本的には予算財源を確保せず,10年後の2032年の医療費は46~50兆円にとどまるという試算・予測が多く見られる。つまり,医療費全体の増額は期待できず,結局はサイズが変わらないパイの「切り方」次第であり,今回の診療報酬改定において,リフィル処方の導入により-0.10%,看護師の処遇改善で+0.20%,オンライン初診の導入,小児の感染防止対策加算の廃止で-0.10%という結果を見ると,医師へのパイが小さくなっている現状が見受けられる。
 過去3回の国政選挙の結果を見ても,医療関係団体推薦の組織候補者の得票数がそのままパイの配分に繋がっているという現実の中で,我々医師会の提言力に関わる医政活動の重要性を改めて認識する必要がある。

●畑府医理事

畑 府医理事

 続いて行われた協議では,医療費の抑制を目的とした「かかりつけ医の制度化」に反対し,国民皆保険制度の根幹であるフリーアクセス制の堅持を訴えるとともに,今こそ医療を中心とする社会保障に重点を置いた政策を講じるよう提言する決議が採択された。

2022年7月15日号TOP