2022年8月1日号
令和4年6月25日(土)・26日(日)の両日,日医代議員会が開催された。25日の定例代議員会では,「令和3年度日本医師会事業報告の件」について報告が行われた後,議事に移り,第1号議案では「令和3年度日本医師会決算の件」が可決された。引続いて役員改選が行われ,会長選挙では,松本吉郎氏(埼玉県)が松原謙二氏(大阪府)との選挙戦を制し,初当選を果たした。また,副会長選挙では,茂松茂人氏(大阪府),猪口雄二氏(東京都),⻆田徹氏(東京都)の3名が今村聡氏(東京都)を得票数で上回り,当選した。
京都府からは,城守国斗府医顧問が,日医常任理事として選任された。今期で3期目に入り,さらなる重責を担うこととなった。
翌26日の臨時代議員会では,松本日医会長の所信表明に続いて,第1号議案「令和5年度日本医師会会費賦課徴収の件」が上程・可決された後,各ブロックからの代表質問に対する回答が執り行われた。
松本日医会長より,当選に際して謝辞を述べた後,日医が地域医師会とともに一丸となって,国民や医師に信頼される医師会となるように努めることが求められており,その期待に応えられるよう誠心誠意努めていく覚悟であると決意を示した上で,医師会運営にあたっては「地域から中央へ」,「国民の信頼を得られる医師会へ」,「医師の期待に応える医師会へ」,「一致団結する強い医師会へ」を4つの柱として進めていくとし,具体的項目について所信が述べられた。
松本 日医会長
1.国民の健康と生命を守る
日医の役割は,「国民の健康と生命を守る」ことである。そのためにはすべての医師や医療関係者の理解と協力,国や関係機関との連携が不可欠であり,地域医師会と協力して信頼される医師会となるよう努める。
2.現場からの情報収集と連携
医師会活動では,「情報共有」,「相互理解」,「コミュニケーション」が重要であり,各都道府県医との連携のもと,現場からの情報収集により様々な課題を吸い上げ,日医の会務に反映させていきたい。
3.組織力強化
医師会の組織率強化への取組みとして,「常任理事の増員」,「卒後5年間の会費無料化」,「会内委員会のあり方の再検討」を行う。
「常任理事の増員」については,近年,日医の会務が多岐にわたる中,全国各地から地域医療を熟知した有能な先生方に中央に出ていただき,オールジャパン体制で医師会活動を強力に推進していく。これにより,地域の声を踏まえた政策提言を行い,医師・国民の期待に応えられる日医へとつなげていきたい。
「卒後5年間の会費無料化」については,現在の臨床研修医会費無料を臨床研修修了後に医師会を退会する医師が多く,次世代を担う若手医師に医師会活動を理解してもらうべく,入会継続に向けた支援策として医学部卒業後5年まで会費無料化の延長に踏み切ることとする。
「会内委員会のあり方の再検討」は,今後の会内委員会を従来の会長諮問に対して答申を行うだけでなく,実効性の高い委員会にしていきたい。
4.新型コロナウイルス感染症および新興感染症への対応
新型コロナウイルス感染症への対応について,診療検査医療機関を始め,各医療機関はその役割に応じて可能な範囲で全力で対応いただいており,今後も多くの医療機関に協力いただくため,日医から地域医師会に情報提供を行うとともに行政,各団体等との連携に努めていく。感染症発生時の医療提供体制の確保について,まん延時の有事に向けて地域の実状に応じた平時からのしっかりとした議論が重要であり,今後も定期的に発生が予測される新興感染症に対しても,新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえて,予防の徹底,治療法の確立,検査体制の充実,初期対応体制の整備,入院体制の強化や病床確保など,しっかりと議論した上で,備えを進めていきたい。
5.国民皆保険制度および医療提供体制の堅持と持続性の確保
我が国の皆保険制度は堅持されなければならず,皆保険制度に綻びが生じないよう持続性を保っていかなければならない。次回の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定における「社会保障財源の確保」が喫緊の課題であり,財政当局による厳しい医療費抑制策に対抗するため,更には中医協でしっかり議論を進めるためにも,7月の参議院選挙で全国の医師会・医師連盟はその底力を発揮することが極めて重要である。さらには普段からの政府与党とのコミュニケーションも大事であると考えている。
医療提供体制については,ウィズコロナ,ポストコロナを見据えた医療提供体制の整備を,日医と地域医師会が連携して,地域医療の充実に努め,地域における医療提供体制を確保し,しっかりと守っていく。
また,今後,かかりつけ医機能の制度化に向けた議論が本格化するが,すでに政府与党内からも財政再建を重視する観点から厳しい意見も出されている。日医としてはフリーアクセスが制限されるような制度化には断固反対し,阻止しなければならない。かかりつけ医は,あくまで患者が選ぶものであり,かかりつけ医の機能を発揮しやすい形にすることが重要であり,今後,会内にワーキンググループを設置し,議論を進めていきたい。
6.超高齢社会への対応
「超高齢社会への対応」に向け,医療・介護・保健事業に尽力していきたい。日医は現在,予防・健康づくりに関する大規模実証事業に参画しており,医師が予防・健康づくりに関与することで,健康増進効果がより高いことを示すエビデンスが出るよう取組むことが重要であるとともに,健康経営も重要な視点となっている。医療従事者自らが健康に働くことが,国民の健康につながっていくため,今後さらに医療分野での健康経営が進むよう,都道府県医や群市区等医師会の協力をお願いしたい。
また,人生の最終段階における医療の考え方として「ACPの普及」に努めたい。日医としては引続き,ACPの一段の普及・啓発とその実践に向けた取組みを推進していく中で,患者さんにとって最善となる医療およびケアのより一層の充実を図ることを通じて,本人の尊厳ある生き方を支援していく。
7.医師の働き方改革
医師の働き方改革においては,「勤務医の健康保持」と「地域医療体制の確保」を両立させなければならず,特に,24年度からスタートする時間外労働上限規制については,コロナ禍で多くの医師が疲弊する中,慎重な対応が求められており,拙速な対応は避けなければならない。
8.国民の信頼回復のための情報発信
日医からの情報発信については,国民への医療に関する正確な情報伝達とともに,医師会に対する正しい理解や判断を得るためにも各種報道等を通じた十分な情報発信を行うべく,情報の発信・伝達の方法等,広報機能の再検討を行っていく。
9.医療界におけるDX
「医療界におけるDX」をさらに検討していく必要があり,国で設置される「医療DX推進本部」において,現場の意見がしっかりと反映されるよう求めていく。2023年4月からのオンライン資格確認の原則義務化への対応として,医療現場や国民に混乱をきたすことのないよう,導入・維持に対する十分な財政支援等について行政とも丁寧な対話に努めるとともに,きめ細やかな周知・広報による国民・医療機関双方の理解の醸成を求めていく。
~一致団結して新執行部への強力な支援を呼びかけ~
今期で勇退を決断した中川俊男前会長が役員選挙前に挨拶した。中川氏は退任挨拶の中で,「今後の医療政策の行く末を思えばさまざまな思いが残る。この思いは新執行部に託したい。これからも様々な困難が待ち受けているが,必ず日本の医療を支えてくれると信じている」と述べ,一致団結して新執行部を支援してほしいと呼び掛けた。
また,「16年間,全力で駆け抜けてきた。少々早い区切りではあったが,後悔はない。あるのは感謝の気持ちのみ」と述べ,会場から大きな拍手が送られた。
中川 前会長
26日(日)に行われた第152回日医臨時代議員会では,医療界が抱える喫緊の課題・問題について,出席代議員より様々な角度から質問が寄せられた。
※以下,主な代表質問に対する回答を記載
◇日医の訴求力と持続可能な医療について
東京都医の猪口代議員から,医療の継続性と日医の存続は表裏一体の関係性があり,これからの医療と医師会員を守るためには国民に支持される医師会になることが大切であることから,今後の医療提供体制ならびに医師会の体制について,質問が出された。
松本日医会長は,組織率の低下や若手医師の入会促進は喫緊の問題であり,会員数や組織率の向上も重要な観点であるものの,いかに会員が一致団結して同じ方向を向いて活動を行うかということも大変重要との考えを述べた。その上で,医師会の存在意義は,「国民の生命と健康を守ること」にあり,医師は患者・国民に奉仕する活動を行うプラットフォームとしての機能を有しているとし,こうした意義を若手医師に理解してもらうためには医師会活動への参画なくしては非常に難しく,そのためにも来年度を目途に卒後5年間の会費免除の実施と6年目以降の会費減額についても検討していくとした。さらに若手医師の声に耳を傾けながら,国民医療の向上に向けた協働を呼び掛けていくとともに,全国の郡市区等医師会から医療現場の実態を的確にくみ取りながら地域の声を中央につなぐ中で,すべての医師の期待に応えられる医師会へと組織を一層強化していくとの意欲を示した。
◇医師の宿日直許可基準の要件について
北海道医の鈴木代議員より,2024年から始まる「医師の働き方改革」において,医療機関の「宿日直許可」取得の有無が地域医療を維持してゆくための重要な鍵となるとし,宿日直許可基準の緩和が訴えられた。
城守日医常任理事は,今年3月に医師の宿日直許可基準の策定,厚労省内での相談窓口の設置,時間外労働の上限規制の罰則適用の猶予を求める「要望書」を厚労省に提出したことを説明。これを受け,4月より,厚労省内に宿日直許可申請に関する相談窓口が開設され,厚労省の報告では5月までの2カ月間に82件の相談が寄せられており,少しずつ前向きに動き出している点は評価できるとした。しかしながら未だ許可基準の見直しには至っておらず,許可がなかなか得られないという状況は変わっていないことから,日医としては,厚労省の相談窓口に寄せられた相談内容の分析や各種調査結果を踏まえ,今後も宿日直許可基準の見直しについて粘り強く政府や厚労省に訴えていくとの意向を示した。
また,都道府県医に対して,許可基準の見直しに至らず現状のまま2024年度を迎えた場合に想定される地域医療への影響について,可能な限り年内に把握しその情報を日医に届けるよう要請するとともに,各自治体と課題を共有し,対応策を協議するよう求めた。
◇厳しさを増す政府の医療政策への日医としての対応方針決定の今後のあり方について
大阪府医の高井代議員より,今後の財務省の厳しい医療費抑制を意図した政策の提案および診療報酬改定において中医協で十分議論することなく導入される改定内容に対して,中医協のあり方を問題視するとともにかかりつけ医の制度化の動きに対する日医の対応について質問が出された。
長島日医常任理事が質問に応じ,2001年に総理を議長とする経済財政諮問会議や,財務省に財政制度等審議会が設置され,国費を減らすための社会保障制度改革が,中医協などの議論を飛び越えて,官邸主導の市場原理主義的な改革案が並ぶようになったと説明。これらは医療の質を向上させることを建前としているが,実際にはそうではない改革案もかなり含まれており,日医が現場の声を結集し,しっかりと反論しなければならないとの考えを示した。
また,団塊の世代が後期高齢者になる2025年までは高齢者医療の伸びが急増する中で,立て続けに様々な改革が行われてきたが,2026年以降は後期高齢者の増加率が低下し,2030年になると高齢者数が安定し始めることから,高齢化による医療費の伸びはこれまでに比べると鈍化するとし,このような状況を踏まえた上で,中医協などの議論が形骸化しているという認識は共有しており,これには政治的な対応が必要であるとした。
さらに,「かかりつけ医の制度化への対応」については,参院選の後,「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の議論が本格化する見込みであるとの認識を示し,政府・与党の中でも,特に財政再建を重視する立場からは,厳しい意見が出てくることが見込まれ,日医としては,必要な時に適切な医療にアクセスできる現在の仕組みを守るよう主張していくとの意気込みを示した。
◇かかりつけ医の制度化の動きへの日医の対応およびコロナ禍を踏まえた地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の実現に向けた日医の方針について
茨城県医の鈴木代議員より,かかりつけ医の制度化の動きに対するコロナ禍も踏まえたかかりつけ医のあり方およびコロナ禍を踏まえた地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の実現について質問が出された。
釜萢日医常任理事は,日医がとりまとめた「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」を紹介。コロナ禍でかかりつけ医機能の重要性があらためて認識され,かかりつけ医へのニーズもより高まり,かつ多様化していることを踏まえ,かかりつけ医機能を果たしていく医師の覚悟を示すものとして作成したと説明。かかりつけ医は患者の自由な意思によって選択されるものであり,一人一人の患者とかかりつけ医の信頼関係が絶対的な基礎であるとの考えに基づいているとし,日医としては,登録制ではなく,患者が自分自身でかかりつけ医を決めることができ,必要な時に適切な医療にアクセスできる現在の仕組みを守り抜くと訴えた。
コロナ禍を踏まえた地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想については,重症度に応じた対応医療機関の選定と役割分担などが重要であり,国の一律の方針ではなく,地域医療構想調整会議での協議によって,地域の実状に応じた体制を構築する仕組みを堅持しなければならないと強調した。
また,地域包括ケアシステムとの関係においても,かかりつけ医機能の視点が重要であるとの認識を示し,今後の医療計画の議論に臨んでいく意向を示した。
松本新執行部 役員分掌
6月25日(土)に行われた第151回日医代議員会において松本新執行部が発足。以下のとおり役員分掌が公表された。