2025年2月15日号
右京医師会と府医執行部との懇談会が12月9日(月),右京医師会館にて開催され,右京医師会から7名,府医から8名が出席。「ベースアップ評価料」,「薬剤の供給不足について」,「マイナ保険証利用促進のための一時金制度」をテーマに議論が行われた。
※この記事の内容は12月9日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。
令和6年度診療報酬改定の基本方針では「医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取り組み」が重点課題の1つとされ,ベースアップ評価料の新設や初・再診料の引上げがされた。
財務省は自ら行った調査をもとに,診療所は極めて良好な経営状況で診療所の報酬単価を適正化することなど,従事者の処遇改善に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当であるとの考えがある。
さらに,「診療所の報酬単価を初・再診料を中心に5.5%程度(改定率でマイナス1%程度)引下げるべき」との主張がなされた。
これに対して,日医は財務省の調査はコロナ禍で一番経営が落ち込んでいる時と比較しており,儲かっているという印象を与える恣意的なものだと批判した。
結果的に改定率は診療報酬本体がプラス0.88%で,当初財務省が主張していたマイナス1%からプラス0.88%まで押し戻したと言える。一方で,改定率決定に至る大臣折衝で,0.61%分が看護師などの賃上げ対応,0.28%分が40歳未満の医師や事務職員などへの賃上げ対応となり,ほとんどが処遇改善に充てられている。なお,賃上げ対応に関しては,ベースアップ評価料の新設に加えて,初・再診料が消費税対応を除くと18年ぶりに引上げられた。
ベースアップ評価料の届け出状況について,京都府の外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は11月1日現在,病院は89.4%,診療所は23.2%となっている。当初より手続きが煩雑との指摘があったことから,解説動画や支援ツール等が公表されてきたところであり,診療所の届け出状況が全国的に少ないことから日医が厚労省に要請し,9月11日付で様式の簡素化が行われた。
公定価格で運営する医療機関は,物価高騰・賃上げに対応するための手当てを価格に転嫁することができないことからベースアップ評価料が新設されたのであり,従業員の賃上げにあたっては,すべて医療機関の持ち出しでされるよりはこの点数を原資として活用いただきたい。ただし,他産業の春闘の水準を踏まえるとベースアップ評価料だけでは不十分であると考えるので,補助金など別の財源で確保する必要性を日医の担当役員に伝えたところであり,引続き,現場の意見を日医に挙げていく。
8月30日に武見厚労大臣(当時)が公表した「近未来健康活躍社会戦略」において,中期的に厚労省として推進すべき政策方針を示した中に,「後発医薬品の安定供給体制の構築」という項目があり,その内容として「後発医薬品の安定供給等を実現する産業構造改革」が掲げられている。
後発医薬品業界の理想的な姿として,後発品メーカーは総合商社型か,より先鋭な領域特化型のいずれかに進化すべきと提言し,特に「成分ごとの適正な供給社数は,理想的には5社程度」と具体的な数字が示されている。そのための施策として「5年程度の集中改革期間の中で,構造改革を強力に進めていく」という目標が掲げられている。
医薬品不足の引き金となったのは,法令順守を怠った企業の責任もあるが,国の強引な推進政策がそれを引き起こした面もある。後発医薬品を推進するのであれば,物事の順序として,後発医薬品の安定供給,その品質に対する国民の信頼が前提となることは当然であり,それができていない状況で数値目標を定めて,手段を択ばず実現を目指すというやり方はおかしいと日医は以前から指摘してきた。こういった政策の矛盾や後発医薬品業界の問題点が顕在化し,国もようやく本腰を入れて対応を始めており,国の対策が効果を発揮することを期待する。
2023年10月の利用率を起点として,2024年5月~8月のいずれかの月のマイナ保険証利用人数の増加量に応じ,最大20万円(病院は40万円)を一時金として支給されたが,医師会としては,この利用推進は全く無意味な政策であり,患者にもまるで医療機関が推進を先導しているという誤解を与えると考えている。
なお,マイナ保険証利用登録をしているのは11月時点で,全国民の62%,マイナ保険証利用率は約15%の方しか利用しておらず,多数の方が必要性を感じていない現状がある。
また,医療機関窓口における資格確認方法としては,①マイナ保険証(カードリーダーによる確認),②資格確認書,③保険証(最長で令和7年12月1日まで),④マイナ保険証+資格情報のお知らせ(またはマイナポータルで確認)の4つの方法となるが非常に複雑である。
政府がお金をかけてまでマイナ利用率を押し上げるのは,医療DXの最終目的である「全国医療情報プラットフォーム」の構築の第一歩がマイナ保険証の普及であると位置付けられており,このプラットフォームによって,国民がよりよい医療を受けられるようになるとともに,行政の効率化,ビッグデータの二次利用(研究)や民間のヘルスケアサービスにつなげる,という構想が背景にあると考える。医師会としては医療DXに対し,より良い医療の提供につながるという点で総論としては賛成であるが,拙速に進めて,医療提供体制に混乱・支障が生じてはいけないことが大前提である。
マイナ保険証による資格確認については,資格確認ができなかった割合や資格無効となった割合が低くなるという結果が出ている。医療機関にとってメリットとなる面も確かにあり,医療DXの進展につれてプラスの側面が大きくなる可能性もある。医師会としては,押し寄せる医療DXの波の中で医療機関に有益な部分はしっかり確保しつつ,医療現場に悪影響を及ぼすような拙速な政策が提案される際にはしっかり釘を刺し,基本的な対応を続ける。