2025年6月1日号
京都大学医師会と府医執行部との懇談会が3月27日(木),芝蘭会館2階山内ホールで開催され,京都大学医師会から9名,府医から9名が出席。「地域連携の推進」,「京都の救急医療と京大病院」をテーマに議論が行われた。
※この記事の内容は3月27日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。
◇京大病院の地域連携の取組みについて
京都大学医師会より,京大病院における地域連携の取組みや今後の課題等について説明が行われた。
京大病院には地域連携の窓口として「地域医療連携室」と「地域ネットワーク医療部」があり,前者はいわゆる前方支援として,地域のかかりつけ医からの紹介を受けて受診・入院を担い,後者は後方支援として退院や転院を担っていることを説明。
令和4年10月からは,地域の医療機関とさらに連携を深めることを目的として,地域の医療機関との連携主治医制を推進し,連携する機関を「地域連携医療機関」として登録する取組みを開始したことを紹介し,「面としてのかかりつけ医機能」の充実を図っていることと併せて,令和7年2月末現在,800以上の医療機関と連携体制を構築していることが報告された。「地域連携医療機関」と連携主治医制を積極的に進めていくことを大きなコンセプトとして,病院の職員全体で地域医療の重要性を認識しながら取組んでいくことが重要であるとの考えが示された。
次に,手術室のリノベーションについて触れ,外来診療棟デイ・サージャリーと中央手術室の一体運用や,保管・洗浄滅菌エリアの拡大・集約により手術材料・滅菌機材・薬剤等の効率的な供給を可能とすることで機能強化を図り,より地域の要請に応えられる手術室を整備したことを報告。高度医療だけでなく,コモンディジーズなど様々な疾患の手術に対応すると同時に,手術件数の増加によって待機患者の解消を図ることが地域医療への貢献につながると考え,14室から18室運用に向けて,引続き麻酔科医,看護師等の人的リソースの確保・強化を図っていると説明した。
また,患者の紹介から初回外来,通院・入院による治療,退院して地域に帰るという一連の診療の流れに沿って効率的に医療を提供するシステムの確立を目的としてPatientFlow Management(PFM)を導入し,患者の利便性の向上とともに,業務の標準化等により医療の効率化を図る仕組みづくりに取組んでいることを報告した。このPFMの取組みが医療安全につながり,さらにはスムーズな地域連携にもつながるものであると期待が示された。
最後に,今後の課題として,「面としてのかかりつけ医機能」の一翼を担う連携主治医制の推進,PFMの運用による医療安全とスムーズな地域連携の実現,救命救急センターの応需率の向上による地域の救急医療への貢献,京大病院が得意とする高度医療の提供―を挙げ,これらの課題は同時に「求められているもの」でもあるとして,今後ますます力を入れていく意向が示されるとともに,地域連携が重要であるということを京大病院の中で文化として醸成していきたいと述べ,発表が締めくくられた。
◇京都府医師会における地域連携の取組みについて
府医からは,地域医療構想についての説明とともに,府医における地域連携の主な取組みとして,かかりつけ医機能の強化,在宅療養あんしん病院システム,京あんしんネットについて紹介した。
京都府における地域医療構想と2040年に向けた新たな地域医療構想について
京都府の地域医療構想は,これまでの病院完結型の医療から,健康づくり,疾病予防,在宅等でのQOLを高める生活支援を含めた地域全体を支える地域完結型医療への転換を目指すべく,住み慣れた地域で医療・介護サービスを受けることのできる体制整備を図るための構想・計画である点を踏まえ,「京都府地域包括ケア構想」という名称で2017年3月に策定されたことを説明。
京都府における病床機能ごとの病床数は,全国と同様に,急性期が多く,回復期機能への転換が必要とされたが,地域医療構想調整会議等において,そもそもの機能分類の定義が曖昧であることや,現場の肌感覚に合わないといった指摘の他,数字ありきで医療提供体制を検討することを疑問視する意見など様々な課題が示されたことを踏まえ,「京都府地域包括ケア構想」では,より地域の実態に沿った議論を行うために,全国で唯一,地域医療構想に明記が求められていた病床機能区分ごとの目標病床数を明記せず,幅を持たせた記載にしたところが特徴的であり,これは京都府が府医や病院団体の主張をよく理解してくれた結果であったと評価した。
また,特に急性期病床には,急性期と回復期の患者が混在するため,急性期機能を「重度急性期」と「地域急性期」に分類し,いわゆる地域包括ケア病棟の一部など,「地域急性期」に該当する病床については,病床機能報告上は「回復期」と見なすことで,実情に即した医療機能や医療供給状況の把握に努めることとしており,この京都府の考え方が先進的であったことを示すかのように,昨年の厚労省の「新たな地域医療構想に関する検討会」において,病床機能の「回復期」については,単に回復期リハというだけでなく,高齢者救急への対応も含めて「包括期」という名称に変更されることになったと紹介した。
厚労省は2040年に向けた新たな地域医療構想では,医療・介護の複合ニーズ等を抱える85歳以上の増加,人材確保の制約,地域差の拡大が想定される中,限られた医療資源で増加する高齢者救急・在宅医療需要等に対応するため,「入院医療だけでなく,外来・在宅医療,介護との連携等を含む,医療提供体制全体の課題解決を図るための地域医療構想へ」という方向性を示し,「病床機能・医療機関機能」について,これまでの「回復期機能」の内容に,高齢者等の急性期患者への医療提供機能を追加し,「包括期機能」として位置付けると記載されたことを報告。さらに,2040年に向けて,増加が見込まれる高齢者救急の受け皿の確保が重要であり,地域の実情に応じて「治す治療を担う医療機関」と「治し支える医療機関」の役割分担の明確化と,より広域的な観点から医療提供体制の維持に必要な機能を設定し,医療機関の連携・再編・集約化を推進することを目的に,病床機能報告対象医療機関から都道府県に対して自院が地域で求められる「医療機関機能」を報告し,地域での協議や国民・患者への共有に役立てていくとしていると説明した。
新たな地域医療構想は「地域医療介護構想」という考え方で策定を進めるとの考えが示されていることについて,京都府においては2017年の地域医療構想策定時から,その名称を「地域包括ケア構想」としたとおり,まさに国に先立った考え方で進められてきたとの認識を示した。
府医における地域連携の取組み
府医では,地域を「面」で支えるために,かかりつけ医機能の向上と多職種連携の推進に取組んでいることを紹介。まず,会内に「地域ケア委員会」を設置し,今期は「京都で求められる『面としてのかかりつけ医機能』を実現するために必要なこと」について議論を重ねていることを報告した。
その地域ケア委員会から「在宅医療の推進には京都府医師会のバックアップが欠かせない」との答申を受けて2008年4月に設置した「在宅医療・地域包括ケアサポートセンター」の取組みについて紹介し,地域医療・在宅医療の推進に不可欠となるかかりつけ医の総合的な診療力の向上に向けて,最も力を入れている取組みとして「研修事業」を挙げた。
一例として,「京都在宅医療塾」では,座学やグループワークの他,府医会館内の京都府医療トレーニングセンター等の資機材を活用し,褥瘡処置やポータブルエコーなどを用いた実技講習を行う「実践編」の開催を通じて地域の在宅医療を支えるかかりつけ医の養成に取組むとともに,介護職・ヘルパー等を対象とした「多職種連携編」,その他,郡市区医への支援として,「京都在宅医療戦略会議」を開催し,郡市区医や多職種団体との情報共有,連携を図る場の設置に加えて,府内地区医の事務局機能を支援する事業を展開していることを紹介した。
次に,地域を「面」で支えるかかりつけ医機能をさらにバックアップする京都府独自の取組みの一つとして,「在宅療養あんしん病院登録システム」を挙げ,京都府がオール京都体制で地域包括ケアを進めるため,医療・介護・福祉・大学・行政など39団体の参画を得て設立された「京都地域包括ケア推進機構」が運営主体となって,在宅療養中の高齢者がかかりつけ医を通じて「あんしん病院」を事前登録することで,体調を崩した時に,かかりつけ医の判断によりスムーズに病院を受診,必要に応じて入院することができ,結果として早期退院につなげることで,在宅療養を維持することを目的としたシステムであると説明。在宅療養中の高齢者だけでなく,当該患者に携わる医療・介護関係者にとっても「あんしん」に繋がるシステムであるため,府医としも積極的に登録・活用を呼びかけていると述べ,今後は特に下り搬送等にも活用することを視野に,地域医療構想の推進に寄与する運用に向けて協議を重ねていることを紹介した。
最後に,「京あんしんネット」の取組みを挙げ,従来のMCS(Medical Care Station)を活用した多職種間のコミュニケーションの活性化と情報連携の推進に加えて,「オンライン心不全手帳システム」や京都大学とコラボした「京都式フレイルスコア(KFS)」等のICTツールを提供するデータ連携基盤として「京あんしんネット」のサービス拡充を図っていることを説明した。令和5年度からは,より安全・安心な環境下で「京あんしんネット」を利用できるよう,MDMサービスを付加した医療・介護連携専用スマートフォン「京あんしんフォン」を展開していることを紹介。病院での活用を呼びかけ,地域のかかりつけ医とのシームレスな連携の推進に期待を示した。
◇京都の救急医療と京大病院について
京都大学医師会から,令和6年4月に開設された同大学医学部附属病院救命救急センターについて,概要や実績等の説明が行われた。
まず,京都府における救急の現状について,超高齢社会を背景に救急搬送件数は右肩上がりで,京都市内の出動件数は10万件を超える状況にあり,救急のニーズが上昇している一方でそれに対応する救急病院数はこの10年間で府内・市内ともに減少傾向にあり,一医療機関あたりの負担が増していると説明。
救急搬送者の年齢は,65歳以上が約70%を占め,この高齢者救急の増加もあって,内因性疾患による搬送が70%以上を占めていること,また,年間を通じて見ると季節性があり,7月,12月に救急搬送件数のピークを迎えることと併せて,時間帯別では社会的アクティビティが上がる午前10時から昼間の時間帯に件数が多くなることがデータとともに紹介された。
コロナ禍においては,感染の波がくる度に救急出動件数が増加し,それに合わせて,受入照会回数4回以上かつ現場滞在時間30分以上の搬送困難例も増加したことで,救急医療の崩壊に近い状況に陥ったと振り返り,このような状況を受け,府内の救急医療体制の強化を図る必要があるとして,京都府の第8次医療計画がスタートするタイミングで京大病院が救命救急センターの指定を受けることになったと経過が説明された。
従来の救急搬送は,緊急度や重症度に応じて重症例を三次救急医療機関へ,中等症を二次救急医療機関へと,プレホスピタルでの評価をもって搬送先が判断されていたが,昨今の高齢者救急の増加と「医師の働き方改革」を受けて,重症度を問わず受入れを救命救急センターに集約化し,中等症以下は速やかに地域の医療機関へ下り搬送していく方向性にシフトしてきていると説明。令和6年度診療報酬改定では三次救急医療機関から他院に転院・搬送することを評価した救急患者連携搬送料の新設に加え,高齢者救急に対応する地域包括医療病棟が創設されたことから,今後,全国的にこの流れが推進されていくとの見通しが示された。
救命救急センターの指定に際して,特に救急部門では,2021年6月に救急外来をリノベーションし,エリア面積を約2.5倍に拡張して重症処置室や陰圧室等の整備を行うとともに,集中治療室や救急病棟の整備など京大病院全体で取組みを進め,積極的な救急患者の受け入れに向けて準備を進めてきたことを紹介。2013年の京大病院将来構想において,従来の高度先進医療とともに,高度急性期医療にも力を入れ,これらを両輪として地域医療に貢献していくことが謳われており,以降,積極的な救急搬送の受入れに努め,2020年度から4年連続で国立大学病院において救急搬送台数が第1位であることが報告された。今後さらに,重症度の高い患者や外傷への対応の充実を図っていく意向が示された。
京大病院の特徴として,かかりつけ患者が広域に分布しているため,市外からも多くの救急搬送があることや,時間外のウォークイン患者にも多く対応していることを挙げた。後者は救急搬送の数値では見えないものの,地域医療への貢献においては重要な部分であるとした。
救急外来を経由した緊急入院のうち,約60%が退院,約30%が転院という転帰の内訳を示した上で,地域の医療機関による受入れや退院後のフォローアップに謝意を示すとともに,今後,さらに応需率を上げて積極的な受入れを進めていくためにも,より一層,地域に根差した京大病院を目指して,地域の医療機関と密で迅速な連携を進めていく意向が示された。
最後に,市内の大学病院2施設に救命救急センターが設置されたものの,今冬にはインフルエンザの流行に加えて,年末年始の大型連休が重なり,京都市内の救急医療が逼迫したと振り返り,インフルエンザの流行にともなって救急車の搬送台数が増えた結果,出動件数のピークの後に搬送困難症例が増加するという悪循環は解消しきれなかったと述べ,今後起こりうる新興感染症のパンデミックだけでなく,年末年始等の対応に向けて,医師会と連携した取組みや体制づくりに期待が示された。
◇救急搬送の状況について
府医より,京都市消防局による救急搬送のデータを示した上で,救急搬送件数は年々増加傾向にあると説明。搬送困難症例に関して,2023年度の搬送困難割合は約3%~5%であるのに対し,2024年度には半減して約1~3%で推移し,インフルエンザの流行と年末年始の大型連休が重なった1月を除けば,おおよそコントロールできている状況にあるとの認識を示した。
医師の働き方改革前後の夜間救急の受入れ状況について,22時から翌5時までの深夜帯の救急搬送先として,2023年度は二次救急病院が46病院,救命救急センターが4病院で,半数以上が二次救急病院に搬送されていたものが,救命救急センターが6病院となった2024年度には逆転し,約52%が救命救急センターに搬送されていると説明した。また,京大病院から多くの先生が二次救急病院の当直に派遣され,救急医療体制を支えていることを考慮すると,京大病院が果たす地域医療への貢献度は非常に大きいと指摘した。
~意見交換~
その後の意見交換では,京大病院より,下り搬送した患者のカルテを受入れ病院と共有できるシステムを構築していることが紹介され,地域の医療機関と連携を推進することで,京大病院としても安心して医療に取組むことができるとして,さらなる連携強化に意欲が示された。
・日医未入会会員への日医入会促進について
※舞鶴医師会との懇談会参照