勤務医通信

幸福感につながる「適塩」を地域へ

京都岡本記念病院 腎臓内科
劉 和幸

 府医の会員の皆様,初めまして。京都岡本記念病院の劉和幸と申します。今回は「勤務医通信」の誌面をお借りし,腎臓内科医としての日常臨床,および宇治市で展開している「適塩(てきえん)」普及活動から得た知見を共有し,これからの地域予防医学における勤務医の役割について提言を述べさせていただきます。
超高齢社会における CKD 対策の現状と課題
 我が国は現在,80歳以上の約二人に一人が慢性腎臓病(CKD)を罹患する時代を迎えています。腎機能低下は末期腎不全への移行リスクのみならず,心血管病(CVD)の発症や死亡リスクを有意に高めることが疫学的に明らかです。日々,進行した腎不全や高齢での透析導入という厳しい現実に直面する中で,私は「いかにして上流で病の芽を摘むか」という一次・二次予防の重要性を痛感してきました。
 その中核となるのが高血圧対策,とりわけ食塩摂取量のマネジメントです。日本高血圧学会のガイドラインでは一日6.0g未満,世界保健機関(WHO)では5.0g未満を推奨していますが,本邦の平均摂取量は依然としてこれを大きく上回っています。しかし,従来の「減塩」が内包する「美味しさを我慢する」というネガティブなイメージは,患者の心理的抵抗を生み,長期的な行動変容を阻む大きな障壁となっていました。
行動変容を促す「適塩」アプローチと多角的な実践
 そこで私は,塩分を適切にコントロールする「適塩」を合言葉に,行政や教育現場,市民を巻き込んだ多角的なアプローチを約8年前から宇治市と協働で開始し,同市の「適塩アドバイザー」として活動を継続しています。
 成人の固定化した食習慣の修飾は容易ではないため,私たちは「幼少期からの味覚形成と健康意識の醸成」に着目しました。味覚の感受性が形成される学童期までの食育は,介入手段として極めて効果的です。具体的には,保育園や小中学校へ赴き,共同制作した漫画『適塩ものがたり』を配布するほか,血圧計や聴診器を用いたバイタルサインへの興味付け,透析ダイアライザーを用いた実験など,医学的・科学的体験を交えた授業を展開しています。2026年3月12日には,宇治久世医師会会長の幸道直樹先生とのコラボレーション授業を宇治市の小学校で実現し,医師会・行政・教育現場が一体となった健康教育の手応えを得ました。

 また,本活動は宇治市の健康づくり・食育推進計画とも連動しています。市民対象の適塩講座では,管理栄養士による「出汁の旨味を利かせた減塩技術」や「排塩を促すカリウム摂取」を取り入れた調理実習等を行い,主体的行動変容を促しています。
 適塩は,将来の高血圧や肥満,慢性腎臓病,心血管疾患,脳卒中の発症予防につながるだけでなく,味覚が鋭敏化することで食材本来の美味しさを再発見できる利点もあります。「減塩=味気ない」という先入観を覆し,“美味しい・楽しい・元気”へと昇華させる。これこそが適塩の本質であり,単なる「制限」ではなく「豊かさ」として捉える視点は,Well-being の向上にも寄与すると考えています。
勤務医から地域社会へ
 私たち勤務医は,日々の急性期医療や高度専門治療に追われ,病院完結型の医療に終始しがちです。しかし,地域全体の健康寿命延伸と将来的な医療需要の適正化(医療経済的視点を含む)を図るためには,病院の枠組みを越え,地域の開業医の先生方,行政,教育関係者と手を取り合った「顔の見える連携」へ一歩を踏み出すことが不可欠です。
 臨床で培った専門的知見を地域社会へ還元し,予防医学の仕組みづくりに貢献することは,私のライフワークの一つと考えております。しかし,この取組みは私一人の力で成し遂げられるものではありません。本稿を通じて,会員の先生方のご理解とご協力を賜りながら,「適塩」の取組みを京都府全域へ広げ,持続可能な保健活動へと発展させることができれば幸いです。

 末筆ではございますが,日々の診療にご尽力されている先生方ご自身も,ぜひ日々の食事で「適塩」を意識していただき,健康増進と幸福感の向上につなげていただければ幸いです。

適塩ものがたり
前編
適塩ものがたり
後編

Information
病 院 名  京都岡本記念病院
住   所  京都府久世郡久御山町佐山西ノ口 100 番地
電話番号 0774-48-5500
ホームページ https://www.okamoto-hp.or.jp/oka2/

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