地区医師会長会議(夏の参与会)

 7月 25 日(土),地区医師会長会議(夏の参与会)がホテルオークラ京都で開催され地区医会長(参与)25 名,府医役員 23 名,辻府医代議員会議長,今出副議長が出席した。
 松井府医会長の挨拶に続き,新参与による自己紹介が行われた。その後,「日本海ヘルスケアネットの取組み」と題し,山形県医師会会長の間中英夫氏による概要説明に続いて酒田地区医師会十全堂前会長の佐藤顕氏による講演が行われた。講演後には活発な意見交換が行われた。

日本海ヘルスケアネットの概要

山形県医師会 会長 間中 英夫 氏

山形県医師会 会長
間中 英夫 氏

 日本海ヘルスケアネットの中心となる日本海総合病院は,県立日本海病院と酒田市立酒田病院の統合により設立された酒田地区の急性期医療を担う中核病院である。この地域連携推進法人の設立にあたっては,酒田地区医師会十全堂の協力が大きな役割を果たし,病院統合後も地域の医療機関が連携して病院運営を支えてきた。
 現在,日本海ヘルスケアネットには,医師会をはじめ,病院,診療所,歯科医師会,薬剤師会,介護・福祉施設,自治体などが参画し,医療・介護・福祉・行政が一体となった地域連携体制が構築されている。
 主な取組みとして,人事交流や医療スタッフの派遣体制の整備,透析医療の連携,救急医療の集約,地域フォーミュラリの推進,訪問看護分野での連携強化などが進められている。これにより,公立・民間を問わず地域内の医療資源を有効活用できる体制が整備された。
 今後は,PHR・EHRの活用や医療MaaSなどを通じて,医療と介護を一体的に捉えた新たなマネジメント体制の構築を目指し,人口減少高齢化の進む地域における地域完結型医療の基盤として,さらなる発展が期待される。

日本海ヘルスケアネットの取組み

酒田地区医師会十全堂前会長 佐藤 顕 氏

酒田地区医師会十全堂
前会長 佐藤 顕 氏

 日本海ヘルスケアネットは,医療が地域内で完結する傾向を有する山形県庄内地域で,赤字経営に苦しんでいた県立日本海病院と老朽化した酒田市立酒田病院の統合(2001年から検討され2008年に実現)による中核病院再編と,その後も進行する開業医の高齢化や診療科偏在,在宅医療の担い手不足といった「もう一つの2025年問題」を背景として構想されたものであり,急性期病院単体の機能強化だけでは地域医療の持続性が確保できないという認識のもと,当時の理事長が地域全体の医療資源を最適化する非営利ホールディングカンパニー型の枠組みを提案し,2015年の医療法改正による地域医療連携推進法人制度の法整備を追い風として,病院と地区医が一体となった意思決定を可能とするガバナンス(理事長の医師会長兼任や議決権の実質過半確保)を構築した上で2018年に正式発足した連携推進法人である。
 発足後は,参加法人が9法人から15法人へと拡大し,病院間の機能分担(外科・透析の集約など)によって経営難であった医療機関の黒字化を実現したほか,後継者不在の医療法人に対しては中核病院からの医師派遣や法人内人材の再配置によって事業継続を支援し,さらに訪問看護ステーションの統合により人材確保や夜間対応体制を強化するなど,面的な医療提供体制の再編に具体的な成果を上げてきた。
 また,地域フォーミュラリについては,全国に先駆けて導入が進められたが,当初は,概念に対する認知不足や処方権侵害への懸念,さらには医師側のインセンティブ不足といった課題が存在していた。このため,高薬価で費用対効果の低い改良新薬を医療機関経営を圧迫する要因として位置づけ,ジェネリック医薬品の活用を促進する論理を提示することで合意形成を図った。その結果,導入後は診療所・病院ともに一定の利用率が確保されたものの,電子カルテ環境の差異により普及度に格差が生じている。特に,紙カルテを主体とする診療所においては,情報提供に郵送やFAXを利用せざるを得ないなど,運用面での課題が残されている。
 さらに,医療情報連携の中核として活用されている「ちょうかいネット」は,ID-Linkを用いた診療録の全面開示という全国的にも稀な仕組みを採用し,紹介患者の経過や検査結果をリアルタイムで共有できることで紹介・逆紹介の効率化を実現するとともに,医師の生涯学習ツールとしての機能や在宅医療における病院との双方向連携,さらには複数医療機関の協働による診断精度向上にも寄与しており,地域においては「電気・水道・ガスに次ぐインフラ」と位置づけられるまでに定着している。
 一方で,人材面では開業医数の減少と高齢化が顕著であり,特に泌尿器科の空白や小児科・在宅医療分野の担い手不足が深刻化しているほか,看護師についても中核病院からの派遣によって一定の補完は行われているものの恒常的な不足が課題であり,加えて初期研修医の多くが3年目以降に県外へ流出する傾向が続いていることから,地域内定着に向けた取組みの強化が求められている。
 このように,日本海ヘルスケアネットは,制度上は法人間の資金移動に制約がある中で人材の柔軟な配置を活用しつつ,公的主体の関与によって地域性と公益性を担保しながら,病院と診療所,さらには多職種が連携する包括的な医療提供体制の構築を進めてきたモデルであり,その実践は医師偏在や外来過多といった課題を抱える他地域(例えば京都)に対しても,今後の医療提供体制のあり方を検討する上で参考になるものである。

意見交換

 その後の意見交換では,ちょうかいネットの運営費やセキュリティに関する質問や病院の勤務医がカルテを開示することに抵抗はなかったのかなどの質問が投げかけられた。
 ネットワークの連携範囲について,ID-Linkを活用することで山形県内全域での利用が可能であり,さらに秋田県など隣接地域とも患者搬送を契機に連携が進んでいることが説明された。導入当初は国や県からの補助金があったものの,現在は縮小しており,サーバー更新などの維持費は主に各病院が負担していることを紹介した上で今後については,ネットワークの恩恵を受ける開業医側の費用負担も検討課題として認識されているとした。
 セキュリティに関しては,これまで大きなトラブルは報告されておらず,診療情報は医師だけでなく訪問看護ステーションや介護施設にも共有されていると説明。ただし,実際の活用としては専門的な診療内容の理解というより,処方内容や退院時期の確認といった実務的な用途が中心であるとし,導入当初には情報開示への懸念もあったが,利便性の高さがそれを上回り,現在では大きな反対は見られない状況であると説明した。
 カルテ情報の共有については,主に病院の電子カルテが対象であり,診療所では紙カルテが多いため対応が難しい現状があるとしつつ,導入時には特に精神科領域から反対意見があったものの,現在では利便性が評価され,当初反対していた医師も積極的な利用者となっているとした。また,医師の業務負担については大きな増加はなく,むしろ他院の診療内容を参照することで学習機会としても活用されているとの認識が示された。
 地域フォーミュラリに期待される効果についての質問に対しては,医師会と薬剤師会が連携して策定しており,薬剤の種類を絞ることで薬局の在庫管理が効率化されるなどの効果が期待されているとした。さらに,ジェネリック医薬品の活用や流通面でも利点があると説明した。
 病院間連携による機能分担が医療機関の経営改善にどのように寄与するかという質問には,外科や透析などの機能分担を進めた結果,効率化と収益の安定化が実現された事例が紹介された。特に透析患者の集約により安定した収入が確保され,黒字化につながった一方で,リハビリテーション病院については依然として収益面で課題が残っているとした。
 地域医療連携推進法人ではヒト・モノ・カネが融通できるのかとの問いに対して,人材面では,看護師について基幹病院からの応援体制が取られており,給与差についても制度的工夫により調整されていると説明。一方で,研修医は一定数確保できているものの,専攻医が県外へ流出することが課題として挙げられた。
 最後に地域医療連携推進法人では,人材の融通は可能である一方,資金の直接的な融通には制度上の制約があることを説明した上で,その中でも,連携事業として位置付けることで人材派遣などは柔軟に実施可能であり,地域全体で医療資源を最適化する有効な仕組みであると総括された。

2026年9月15日号TOP