2024年1月15日号
相楽医師会と府医執行部との懇談会が令和5年11月18日(土),ホテル日航奈良にて開催され,相楽医師会から32名,府医から7名が出席。「第8次医療計画」,「災害対策」,「子宮頸がんワクチンのキャッチアップ接種」をテーマに議論が行われた。
〈注:この記事の内容は令和5年11月18日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉
~第8次医療計画のポイント~
令和3年の医療法改正では,従来の5疾病・5事業に加えて,新型コロナ対応で浮き彫りになった様々な課題に対応すべく「新興感染症発生・まん延時における医療」が6事業目として追加され,令和4年の感染症法改正により,平時に都道府県と医療機関がその機能・役割に応じた協定を締結する仕組み等が法定化された。都道府県は,新型コロナウイルス感染症対応の教訓を踏まえ,最大規模の体制を想定し,平時の医療機関の機能および役割に応じた協定締結等を通じて,地域における役割分担を踏まえた新興感染症および通常医療の提供体制の確保を図ることとされている。本年8月に京都府健康福祉部により,新型コロナウイルス感染症対応実績のある医療機関を対象に,感染症法に基づく医療措置協定に係る事前調査のアンケートが実施されたところである。
新興感染症の発生時には,まずは特定感染症指定医療機関,第一種・第二種感染症指定医療機関の感染症病床を中心に対応されるが,発生から一定期間経過後,発生の公表後6か月を目途として,協定を締結したすべての医療機関で対応することとなる。新興感染症の性状やその対応方法を含めた最新の知見などから,国がその判断を行い,機動的な対応を行うとされている。
なお,釜萢日医常任理事は,「今回の改定は,あくまで新型コロナを想定に策定されており,未知なる感染症の特性等は全く分からないので,この協定が強要されることのないよう国に働き掛けたい」としている。
~保健所の体制機能や地域の関係者間の連携強化~
令和4年の感染症法改正では,感染症発生・まん延時における保健・医療提供体制の整備等として「保健所の体制機能や地域の関係者間の連携強化」を図ることが明記され,今般のコロナ対応において,円滑な入院調整や迅速な情報共有等,都道府県と保健所設置市との間で連携に課題があったことを踏まえ,平時から入院調整の方法,医療人材の確保,保健所体制,検査体制や方針,情報共有のあり方などについて議論・協議する場として「連携協議会」を創設するとともに,そこでの協議結果を踏まえて予防計画を策定することとしている。また,予防計画に基づく取組み状況の定期的な報告により相互に進捗状況を確認し,平時からの連携強化と綿密な準備を通じて,感染症発生・まん延時における機動的な対策の実施を図る考えが示されている。
これを受けて京都府においては,「京都府感染症対策連携協議会」が設置され,府医から禹府医副会長,京都第一赤十字病院から髙階府医理事が参画している。
~自宅・宿泊療養者・高齢者施設での療養者等への対応強化~
自宅・宿泊療養者等に対する健康観察の実施にあたっては,協定を締結した医療機関等に委託して行うことができることが明確化されるため,地区医に取りまとめの協力要請があることが想定される。今後,保健所,市町村,医師会の綿密な連携・協議が必要になると考えている。今回の新型コロナ対応では,保健所による積極的疫学調査によるクラスター対策が功を奏した面もあるため,保健所等が行う感染症発生状況,動向把握調査には引続きご協力いただきたい。
今後,京都府保健医療計画の改定スケジュールに対応しつつ,国が示すガイドライン等に沿って予防計画の見直しが進められる予定であるが,詳細がわかり次第,周知に努める。
~かかりつけ医機能が発揮される 制度整備について~
医療法改正により,「かかりつけ医機能について,国民への情報提供の強化や,かかりつけ医機能の報告に基づく地域での協議の仕組みを構築し,協議を踏まえて医療・介護の各種計画に反映する」と明記されたことを受けて,地域において必要なかかりつけ医機能を確保するための制度整備を行うこととしており,具体的には,①医療機能情報提供制度の刷新,②かかりつけ医機能報告の創設,③患者に対する説明―を行うことが示されている。
今後,かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて,国が新たに「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会」を設置し,2つの分科会で協議が行われる予定である。そのうち,「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」には城守日医常任理事が参画し,今後の協議にあたっては,現在動いている医療提供体制に十分に配慮するよう求めるとともに,「白地に絵を描くのではなくて,実際に描かれた絵をいかに機動的に,より効果的にきれいな絵に仕上げていくのか」という視点が必要になると指摘している。
~物価高騰・賃金上昇等のコストアップへの対応~
今回は従来の改定に加え,物価高騰・賃金上昇への対応,新型コロナの対応と3つの論点があり,異次元の改定と言われている。
財政制度等審議会において財務省は,コロナ補助金等により内部留保の積み上がりを賃上げ原資として活用するよう主張しているが,日医はコロナ禍など特殊な状況下で感染対策を行うためのコストは賃上げ等の原資とするものではなく,コストアップへの対応はあくまでフローによって行うべきであると主張している。
府医としても,公定価格である診療報酬で運営する医療機関は,昨今の物価高騰や賃上げを価格に転嫁できないため,診療報酬で対応するしか方法がないと考えており,京都からも日医と同様に医療機関等の厳しい状況を訴え,改定財源確保を強く求めていきたい。
~医師会が行う災害医療対策~
医師会が行う災害医療対策は,一般病院や医療機関での災害対策とは異なり,組織力,ネットワークを最大限に活用し,発災前の段階からの平時の備えと,発災直後から地域医療の復興までの支援を行うことであると捉えられている。そのためには,発災時には被災地の都道府県医師会が管内の被害状況を把握するとともに,各行政の対策本部に参画することが重要である。日医としても,被災地に地域医療を取り戻すことを災害支援の最終目標としており,時間的にも長期にわたる支援が期待されている。したがって,災害マニュアルの策定にあたっては,どうしても発災時にどうするかを中心に作成しがちであるが,発災前から地域医療の復興支援までの各段階について,長期にわたる対策をしっかりとマニュアルに記載していく必要がある。
~災害時の医師会の役割~
市町村災害計画に災害時の医師会の役割についてきちんと記載している自治体は少なく,「医師会」の名前が出てきたとしても,「連携・調整」,「医療救護の実施」という曖昧な記載にとどまっているのが現実である。木津川市の災害計画には,相楽医師会との連携について記載があり,救護所設置予定施設の指定や救護所設置・運営等に関する要領の整備,医薬品の備蓄等に係る要領の整備,臨時ヘリポートの環境整備などについて,医師会と連携して調整を図っていくことが想定されている。市町村災害計画に医師会との連携に関する記載がある以上,医師会としては発災時に行政からの要請があるものと認識するとともに,行政のマニュアルには連携・調整等を図る旨の記載はあるものの,具体的な方法等の記載に乏しいため,医師会内で実際の運用に備えた規則,マニュアルを策定していく必要があると認識している。
二次医療圏の中で医師会と行政が1対1の関係であれば対応しやすいが,複数の市町村にまたがる場合や複数の医師会が存在する場合は混乱を来しやすく,課題となっている。その点,相楽医師会においては,管内の1市3町1村が山城南保健所を中心とした地域であるため,京都府の中では比較的まとまりやすいのではないかと考えている。実際にコロナ禍においても,山城南圏域では保健所の機能が発揮され,平時からの管内の連携体制が構築されていることが伺えた。
京都府の施策では,災害時に二次医療圏ごと,また,振興局を中心とした災害対策本部の設置が想定されている。山城南は,山城北,乙訓とともに山城広域振興局管内となるため,どのように調整されるかは現在のところ明確にはなっていないが,災害拠点病院の設置に関しては山城北,山城南で分けられている。しかしながら,避難所の設置等は市町村の問題となるため,相楽医師会としても各市町村とそれぞれ連携の必要が生じる。そのため,平時から各市町村と連携しておくことと併せて,医師会のマンパワーも踏まえ,発災時の人員配置等についてもマニュアルに記載しておくことが大事になる。
第8次医療計画では,「災害時における医療」の項目で,災害時に拠点となる病院以外の病院において災害対策機能の強化を図ることの記載が予定されており,具体的には自家発電機の燃料の備蓄や業務継続計画(BCP)の策定が義務付けられる可能性がある。その他,発災時にも病院機能が発揮できるよう,浸水想定区域等に所在する病院に対しては,浸水対策を講じることを求める記載が追加される見通しである。
~府医における災害対策の取組み~
府医の主な災害医療対策としては,平時からの研修に取組んでおり,「JMAT 京都研修会」では避難所・救護所等での医療や健康管理,京都府が被災地となった場合の受援等について,「災害医療コーディネート研修会」では,被災時に各職種が集まって活動する際,適材適所にコーディネートしていく運営技術等を内容とする研修を通じて,対応力向上を図っている。また,会内に「災害対策小委員会」を設置し,府内の災害医療体制のあり方や,関係団体との顔の見える連携体制の構築に向けた議論を行うとともに,「地区医師会救急災害医療担当理事連絡協議会」の開催を通じて,府内24地区の先生方と各地域の現状や課題を共有している。その他,日医JMAT研修や京都府,京都市総合防災訓練への参加,近医連,十四大都市医師会との会議やメール訓練等に参加している。
今後の課題としては,災害時の備えとしてJMAT京都への理解を深め,登録者数の増加を図るべく,コロナ禍では制限されていたJMAT京都研修会の北部・南部各地での開催を再開できればと考えている。また,情報のICT化を推進し,安否確認や情報共有の手段として災害時の情報収集に活用できるICTシステムの確立も不可欠である。通信手段に関しても,ドローンを活用した通信基地局の設置など,日々進歩する技術・手段にキャッチアップして平時から対策を検討し,災害対策の取組みを定着させていくことが重要である。
府医では現在,大規模災害時行動マニュアルを作成しているところであり,その中には「地区医師会の対応」という項目も設けている。災害現場での活動以外にも,救護活動の長期化に備えてメンタルヘルスや慢性疾患への対策等についても記載し,復旧・復興までをしっかりとマニュアルに落とし込んでいきたいと考えている。
その後の意見交換では,災害時に府医と各地区医とのホットラインの確保を要望する声とともに,災害時の支援にあたっては被災地の危険エリアや道路状況等の具体的な情報の共有が重要であるとして,避難所にアンケート用のQRコードを貼り出し,地域住民から情報を得ることができるよう避難訓練時に試行していることが報告された。
京都府における令和4年度のHPVワクチンの実施率は,第1回目が46.9%(全国42.2%),第3回目が38.5%(全国30.2%)といずれも全国平均を上回っている。キャッチアップ接種に関しては全国の接種率が公表されていないが,京都府では第1回目が6.4%,3回目が3.2%と大きく下回っており,他府県においても同様の状況となっている。キャッチアップ接種は,2025年3月末までの時限措置であるため,3回とも接種するためには,2024年9月までには第1回目の接種が必要となる。
京都府内における啓発活動について京都府健康対策課に確認したところ,府民に対する具体的な取組みは行われておらず,実施主体である市町村に対応を任せている状況で,がん対策の一環として「出前授業」を検討しているものの,実施はまだ先になる見通しとのことであった。各市町村における取組みとしては,木津川市が市民イベントで啓発活動を予定していることや,京都市がSNSやホームページ上での啓発活動を展開している。他府県の取組み事例では,宮崎県において,中学校で授業参観日に合わせて出前講座を実施し,生徒と保護者双方に正確な情報提供と接種勧奨を行う取組みが行われており,それによって接種率が4年間で8倍になったとの報告がある。
府医としても,産婦人科医会に委託し,高校での出前講座を年8回実施している。従来は,少子化対策に関連して性教育の一環で実施していたものであるが,1時間という限られた時間の中でHPVワクチンに関する説明の時間をとって勧奨を行っている。それ以外にも,学校医研修会において教員や学校関係者に対して,また,子宮がん検診研修会では各市町村の行政担当者に対して,さらには子どもの予防接種研修会においては医療従事者に対してHPVワクチンの啓発を行っているが,今後も引続き様々な機会において啓発活動を継続していきたいと考えている。各地域においても,診療科にかかわらず1件でも多くの医療機関においてHPVワクチンの接種場所を拡充していだたくよう協力をお願いしたい。