2024年12月15日号
下京東部医師会と府医執行部との懇談会が10月9日(水),ホテル日航プリンセス京都で開催され,下京東部医師会から15名,府医から11名が出席。「マイナ保険証」,「ベースアップ評価料」,「災害医療活動時の装備ビブス」,「かかりつけ医機能が発揮される制度」をテーマに議論が行われた。
※この記事の内容は10月9日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。
政府がマイナカードの所持を義務化せずにマイナ保険証を標準化するという根本的に矛盾した施策を押し進めた結果,複数の資格確認方法が併存し,医療現場に混乱を来す事態となっている。12月には健康保険証の新規発行を停止し,マイナ保険証を持たない人には本人の申請によらず保険者が「資格確認書」を送付するとしているが,その有効期間は各保険者が5年以内で設定することとなっている。なお,経過措置として,従来の健康保険証も証の有効期間内であれば最長1年間は利用できるとしている。
日医は医療DXに対する基本姿勢として,「スピード感は重要であるが,拙速に進めて医療提供体制に混乱・支障が生じてはいけない」,「医療は生命・健康に直結するため,医療DXにおいて国民・医療者を誰一人取り残してはならない」,「国として,医療機関のサイバーセキュリティ対策,業務・費用負担軽減等重要施策を実施すべきである」,「現場のシステム導入や維持,それにともない必要となるセキュリティ対策にかかる費用は国が全額負担すべき」との主張を今後も継続していく考えを示している。
府医としても,医療DXが医療現場の負担軽減とより良い医療の提供につながるものであれば,総論として賛成であり,マイナ保険証によるオンライン資格確認はその基盤となるシステムであるため,利用促進については反対するものではないが,政策の進め方に問題があると考えている。マイナ保険証の利用率が伸び悩み,8月時点で12.4%にとどまる中,厚労省はさらなる利用促進策として,利用実績が著しく低い施設に対して個別に働きかけを行う方針を示しており,当該施設において利用が進まない事情を地方厚生局が確認するとしているが,日医は威圧的な手法ではかえって反発を招くことになると懸念を示している。
現場の意見を聞かずに拙速に施策を進めたことが利用率の低迷につながっているにもかかわらず,医療機関の責任にすり替えられていることが問題であり,また,マイナカードの取得状況や保険証利用率等の現状を考慮せず,法令によって早々に健康保険証の新規発行停止を決めてしまったことで不安や混乱が広がったと考えている。マイナカードの取得が任意である以上,資格確認書の発行は今後も継続されるものと予想されるが,このような強引な手法で施策が進められることがないよう,日医とともに引続き主張していく考えである。
京都府における外来・在宅ベースアップ評価料(1)の届出状況は9月末現在,病院が88.8%であるのに対し,診療所は22.6%である。当初から算定方法や手続きの煩雑さが指摘され,診療所の届け出状況が全国的に少ないことを受けて,日医が厚労省に働きかけた結果,解説動画や支援ツール等が作成・公表されるとともに,9月11日付で届出様式の簡素化が行われたところである。
日医は,職員の賃上げに対応するための点数としてベースアップ評価料が新設されたにもかかわらず,診療所が届出をしない場合,財務省から診療所にはこの点数は不要と見なされることに懸念を示しており,介護報酬において過去に介護職員等処遇改善加算という同様の点数が新設され,約9割の事業所が届出・算定した結果,現在も当該点数が継続していることを鑑み,積極的な届出を呼びかけている。
府医としては,公定価格で運営する医療機関は,物価高騰・賃上げに対応するための手当てを価格に転嫁することができないため,また,医療従事者の他産業への人材流出を防ぐためにも,賃上げ等への対応に必要な財源として点数が新設されたことは評価しているが,他産業の春闘の水準を踏まえると,ベースアップ評価料だけでは不十分であると考えている。また,従業員の賃金引上げを診療報酬で評価することも議論が分かれるところであり,補助金など別の財源で確保する必要があるとの考えを近医連において日医の担当役員に訴えかけたところである。
なお,今回の診療報酬改定については,当初,財務省が恣意的なデータを用いて「診療所の報酬単価を初・再診料を中心に5.5%程度(改定率でマイナス1%程度)引下げるべき」と主張し,この1%は医療費で4,800億円に相当する極めて厳しい状況からのスタートであった。財務省は常に社会保障関係費の削減を目指しているため,今後も特に診療所をターゲットとした主張が繰り返されることが懸念される。近年は中医協での議論の前に,大臣折衝において,本来であれば中医協で議論すべき内容まで決められてしまう傾向が強いため,それ以前の段階で政策決定プロセスに関わっていく必要があることを考えると,改めて医政活動の重要性を認識しているところである。
また,医療財源をいかに増やすかという課題も非常に重要であり,単に患者負担の拡大ではなく,国の公費,保険料のバランスも踏まえて検討していくことが必要だと考えている。
能登半島で元日に発生した大地震や,9月下旬に発生した記録的豪雨による被害など,いつ,どこで自然災害が起こるか分からない中,各地区医において災害発生時の医療活動について装備・整備を進めていただくことは,とても重要であると考えている。
府医では,災害時の医療救護班として,JMAT京都を整備し,能登半島地震の際にも現地での医療支援活動に従事いただいたところである。災害医療活動時に医療関係者が着用するユニフォームとして,府医ではJMAT京都として出務いただく先生方には赤いベストを着用していただいており,「医師」,「看護師」,「薬剤師」,「調整員(ロジスティクス)」のワッペンを背中に貼り付けることで,職種の見分けがつくようにしている。各地区における災害医療活動時の装備について,特に府医主導で色の指定や整備を進めることまでは現時点で考えていないが,被災地では様々なチームが次々とやってきて,被災者が混乱されていたという話もあるため,ある程度の統一は必要と感じている。
JMAT京都のベストは「赤」で統一し,これまで東日本大震災,熊本地震,西日本豪雨,能登半島地震の際に出務いただいた先生方にも着用していただいており,日医が装備を持たない府県に貸与しているビブスも「赤」であることから,これからビブス等を整備されるのであれば,「赤」でご準備いただくと統一感が図れると考えている。
まず,「かかりつけ医制度」と「かかりつけ医機能が発揮される制度」という言葉について,前者は財務省が推し進めようとしているもので,後者は日医が厚労省とともに取組みを進めているものである。
日医はこれまで一貫して「かかりつけ医」の普及に取組み,2013年に四病協との合同で提言した「かかりつけ医」および「かかりつけ医機能」の定義の中で,「かかりつけ医は,かかりつけ医機能の向上に努めている医師であり,病院の医師か,診療所の医師か,あるいはどの診療科かを問うものではない。そして,かかりつけ医は,患者のもっとも身近で頼りになる医師として,自ら積極的にその機能を果たしていく」ことが重要であるとしている。
一方で,財務省は,新型コロナウイルス流行当初にかかりつけ医機能が十分に機能しなかったとして,「かかりつけ医の制度化」を主張したが,これはかかりつけ医機能の要件を法制上明確化することによってかかりつけ医を登録制とし,患者一人あたりの定額制の導入により医療費の抑制を企図したものである。ご指摘のとおり,フリーアクセスを制限し,多くの医療機関に多大な影響を及ぼすものである。
財務省がモデルとしたイギリスのかかりつけ医制度は,GP(General Practitioner)制度と呼ばれる税を財源とした国営システムで,国民の医療費は原則無料であるが,診療所のかかりつけ医(GP)は登録制となっており,他の医師の診察を受けた場合は全額自己負担となる。医師の報酬は人頭割であるため,医師が研鑽を積み,かかりつけ医機能を向上したとしても,その報酬は患者の受診の有無にかかわらず登録された住民数に応じた定額制となっている。日医がイギリス,ドイツ,フランス各国のかかりつけ医制度とコロナ禍において同制度がどのように機能したのかを調査するため,2023年5~6月にかけて派遣した訪欧調査団の報告によると,GP制度下において,GPの役割は予防・健康管理・ヘルスプロモーションという狭い範囲にとどまり,一定レベルの専門診療まで担っている日本の開業医とは大きな違いがある。また,イギリスの病院は,専門外来は行うものの,プライマリケアを行わないため,日本のように地域の中小病院と開業医の診療の間に連続性がないと報告されている。
さらに,GPはコロナ診療をしなかったため,コロナ禍において診療所へのアクセスが悪化した結果,GPに対する満足度の大幅な低下とともに,大量の入院待機患者を生み出し,大病院に患者が集中したことで白内障の手術や大腿骨頭置換術など一般の手術が1~2年待ちという状況に陥ったとの報告を受けて,現在のところは財務省も「かかりつけ医の制度化」の主張をトーンダウンしているが,今後も手段を変えて主張してくることは容易に予想できる。
こういった事態を阻止するため,日医が政府や国会議員などに積極的に働きかけを行った結果,「かかりつけ医機能が発揮される制度」を整備する法改正がなされ,①かかりつけ医機能報告の創設,②医療機能情報提供制度の刷新などを行うことになったが,この内容は財務省が狙っていた法制上の明確化や認定制,事前登録制にはなっていない。その後のかかりつけ医機能に関する議論でも,一定の基準以上の疾患・症状に対応できることや,研修を修了した医師がいること等を要件とすることが提案されたものの,日医がかかりつけ医機能を地域で面として支えるために,できるだけ多くの医療機関がかかりつけ医機能の制度整備に参加することができるよう主張した結果,要件化には至っていない。
府医としても,地域包括ケアシステムにおいて中心的役割を担う「かかりつけ医」は,1人の医師がすべてを担うのではなく,地域の医療資源を活用することによって必要な医療を必要な時に,継続的に提供することができる,まさに医療をコーディネートする機能が「かかりつけ医機能」であると考えている。1人の患者を複数の医師で担当することとも異なり,地域の中で患者を通じで普段から医療機関同士の連携を深めることで,各医療機関がそれぞれの役割を理解し,機能を高め,相互に助け合うことで,地域における「面としてのかかりつけ医機能」のさらなる充実を目指しているところである。
今年度中に,かかりつけ医機能報告制度に係る省令・告示等が公布され,初回のかかりつけ医機能報告は,医療機能情報提供制度に基づく報告と併せて,令和8年1~3月頃の見込みである。今後,詳細が示され次第,改めて京都医報等で広報を行う予定である。
その後の意見交換では,ベースアップ評価料について,届出や算定に係る事務作業の負担増加を考慮すると割に合わず,事務職員が少ない小規模医療機関にとってはハードルが高いとして,賃上げ等の対応のための点数ということであれば,こういった事務負担等の増加がなく算定できる基本診療料のアップを求める意見が相次いだ。また,ベースアップ評価料を活用してスタッフの給与を上げたとしても,次の診療報酬改定で同点数がなくなった場合に賃上げ分の原資をどのように担保するのか懸念を示す意見などが出された。
府医としても,医師会の考える医療政策を実現するためには,医師会の組織力強化が不可欠であるとして,若い世代の医師たちへの啓発に力を入れていることを紹介した。これから人口構造の変化とともに医療のあり方が変わっていく中で,若い世代の先生方に医師会の重要性を伝え,役割を引き継いでいくことが使命であるとして,各地区にも協力を呼びかけた。
◇日医未入会者に対する日医への入会促進について
中京西部医師会との懇談会参照
◇京あんしんフォンについて
在宅医療・介護関係者のコミュニケーションツールとして「京あんしんネット」の利用を推進してきたが,今般,MDMサービスを付加した医療・介護連携専用のスマートフォンとして「京あんしんフォン」のサービス提供を開始した。万一の紛失時にもセンターに電話連絡のみで外部から端末のロックが可能であり,安全に利用することができるため,是非ご利用を検討いただきたい。