「マイナ保険証の現状」,「災害対策」,「医薬品不足」 について議論

 相楽医師会と府医執行部との懇談会が1月11 日(土),ホテル日航奈良で開催され,相楽医師会から24 名,府医から10 名が出席。「マイナ保険証の現状」,「災害対策」,「医薬品不足」をテーマに議論が行われた。

※この記事の内容は1月11 日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。

マイナ保険証の現状について

 12 月2日付けで健康保険証の新規発行が停止され,マイナ保険証を基本とした仕組みに移行してから,マイナ保険証の利用率は12 月中旬の速報値で28.29%と,前月の11 月の月間利用率18.52%から急伸した一方で,10 月末~ 11 月末までの間にマイナ保険証の利用登録の解除申請が1.3 万件にのぼったことが報告されている。
 令和6年11 月のマイナ保険証利用人数と医療機関受診者数から算出された推計値では,医療機関受診者に占めるマイナ保険証利用者の割合は29.0%とされ,医療機関受診者のマイナカード保有者に占めるマイナ保険証の利用率が38.1%,また,医療機関受診者のマイナ保険証登録者に占めるマイナ保険証利用率が46.1%と,マイナ保険証を使える環境にある人でも利用者が半数にも満たない状況である。
 厚生労働省は,医療機関や薬局および国民への広報として,マイナ保険証を保有していなくても,「資格確認書」によりこれまでどおり医療を受けられる旨,ホームぺージや新聞広告等で周知を図っているが,12 月2日以降の医療機関窓口における資格確認方法については,京都医報12 月1日号にて既報のとおり,複数の方法が用意されている。
 オンライン資格確認を導入している医療機関においては,マイナ保険証を持っている場合,カードリーダーにてオンライン資格確認を行うが,資格確認機器やマイナ保険証の破損等を含め,何らかの事情でオンライン資格確認ができなかった場合は,①マイナンバーカード+「資格情報のお知らせ」,②マイナンバーカード+スマホ等で「マイナポータルの画面(医療保険の資格情報)」の提示,③再診で過去に資格情報を把握している場合は,口頭で資格情報に変更がないか確認,④初診の場合は,「被保険者資格申立書」+マイナンバーカードを用いて資格確認を行う。また,マイナ保険証を持っていない場合は,現行の健康保険証による資格確認(最長で2025 年12 月1日まで有効であるが,それまでに有効期限切れや資格喪失した場合は失効),または「資格確認書」により資格確認を行うことになる。
 国民皆保険制度において被保険者が医療を受けられる状態を担保するためには,マイナンバーカードの取得が任意である以上,当面は取得していない方などへの「資格確認書」の発行が継続されるのではないかと考えている。

〜意見交換〜
 その後の意見交換では,マイナンバーカードの取得が任意であるにもかかわらず,健康保険証の新規発行を停止するという,ちぐはぐな政策によって医療機関の現場に混乱が生じているとの指摘や,今後のマイナ保険証の利用者拡大にともない,保険資格に係る登録データの不備やシステム不具合の増加も見込まれることから,医療機関でのトラブル増加に懸念が示された。今後もマイナ保険証の利用を進めていくのであれば,救急搬送時や災害発生時に患者の医療情報が確認できるようになるなど,有効活用に繋がることに期待が示された。

災害対策について

・相楽医師会における災害対策の取組み
 冒頭,山本浩二相楽医師会理事より,相楽医師会における災害対策の取組みとして,災害時の情報共有システム「相楽地区避難所マップ」の概要について説明がなされた。同システムは,自身が参加した被災地でのJMAT 活動の経験から,後陣との情報の引継ぎがうまくいかず,情報収集・共有が非効率であったという課題を踏まえて構築したもので,グーグルマップ上にプロットされた地域内の各避難所をクリックし,グーグルフォームから各避難所のアセスメントシートに入力すると,入力された内容が時系列でエクセル上に表示される仕組みであると解説。各避難所にグーグルフォームにアクセスできるQR コードを貼り付け,避難者から各避難所の状況等を発信することができるため,受援体制の1つとして活用が期待できると紹介された。また,避難者が自ら入力することでアセスメントチームの手間を省力化できることに加え,データが時系列で蓄積されるため,避難者も多数の支援チームに何度も同じ内容を回答しなくて済むといったメリットがあるとした。
 また,会員の安否確認について,マップ上に多職種連携の安否確認システムを付加しており,医師だけでなく地域の多職種が利用できる状態にあることが報告された。

・府医における災害対策の取組み状況について
 令和6年能登半島地震では,ICT や各種ツールの進歩への対応が重要であると再認識されたところである。医療機関の被災状況や避難所等の状況,医療支援チームの状況を共有するツールとして代表的なものにEMIS,J-SPEED のほか,厚労省が本格運用を開始した「災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)」等があるが,これらは保健医療福祉調整本部やDMAT,保健所等が中心となって運用されており,能登半島地震においても医師会やJMAT として活用するまでには至っていないのが現状である。
 ICT ツール活用の重要性は日医でも十分に認識されており,令和6年10 月には日医が「JMATロジスティクス協議会」を立ち上げ,都道府県医からの意見を踏まえてJMAT 同士や医師会間の情報共有ツールの導入について検討を進めるとしている。
 大規模災害時の会員の安否確認については,緊急時の連絡網も含め,地区医単位でご検討いただいている地域もあると伺っているが,府医としては,可能な限り府内統一的なシステムを導入したいと考えている。一部の地区で運用されている「KMIS」や,十四大都市医師会連絡協議会で多くの政令市医師会で導入されていることがわかった「SpeeCAN RAIDEN(スピーキャン・ライデン)」などを候補に,年度内には府内統一のシステム導入に向けて検討を進めているところである。
 方針が固まり次第,地区医師会の先生方にも情報提供するとともに,3月までに「京都府医師会防災業務計画」を策定し,各地区医に提示する予定である。その中でも大規模災害時に地区医にお願いしたいことやご留意いただきたいこと,災害対応指針の見直し等について記載しているため,是非ご参照いただきたいと考えている。
 また,その内容や災害時の受援のあり方など,地区医で課題と感じておられる点などについてご意見をいただき,より良い内容へと改訂していきたいと考えているため,引続き各地区医のご理解とご協力をお願いしたい。

 その後,府医より,京都市内の地区医において運用されている災害時の安否確認システムの実例として,山科医師会の「KMIS」(京都府災害時等簡易安否確認マップシステム)について概要が紹介された。

医薬品不足について

 令和6年11 月に「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」で示された医薬品全体における製造販売業者の対応状況に関する調査結果では,供給停止が8%,自社の事情や他社品の影響による限定出荷が11%で,通常出荷は80%程度という結果であったが,令和5年度に比べると,限定出荷・供給停止の割合および品目数はともに漸減傾向にある。
 令和6年8月30 日に武見厚労大臣が公表した「近未来健康活躍社会戦略」のグランドデザインの中で,「後発医薬品の安定供給体制の構築」が国内戦略の1つに位置づけられている。近年,少量多品目生産による非効率的な製造等を要因とした後発医薬品の供給不安が発生しており,国民に品質の確保された後発医薬品を安定的に供給するという産業全体の責任を果たすためには,後発医薬品の安定供給等を実現する産業構造改革が必要であるとした上で,1つの成分について多くの企業が参入し,少ないシェアを持ち合う状況は安定供給や生産性の向上に資するとは言えないとして,成分ごとの過当競争を適正化し,安定供給を確保する観点から,成分ごとの適正な供給社数は5社程度が理想的であるとの考えが示されている。
 同年9月30 日に公表された後発医薬品の適正使用に向けたロードマップでは,後発医薬品の供給不足がある中でもなお,後発医薬品の数量シェアを2029 年度末までにすべての都道府県で80%以上とする数値目標は旧ロードマップから継続して掲げたままである。
 医療用医薬品の安定供給体制の確保に向けて,製薬会社に対して手順書の整理や,一定の在庫や生産管理等を法令上の順守事項とするなど様々な取組みが検討されているが,結局は製薬会社を介して安定確保を図るしかない状況である。11 月の関係者会議で日本製薬団体連合会が提示した資料では,製薬会社全172 社の自主点検で,回収の検討が必要な「重大な相違」はなかったものの,3,796 品目(43.5%)もの後発品が製造販売承認書に記載された手順通りに製造されていなかったことがわかり,衝撃的な数字であると新聞報道もなされたところである。
 医薬品不足は日本だけにとどまらず,OECDにより医薬品不足の原因の整理がなされるなど,すでにグローバルな問題となっている。

〜意見交換〜
 地区からは,胃薬や局所麻酔薬など,多くの医薬品の確保に難渋している窮状が訴えられた。
 また,原薬の不足や,薬価改定により薬価が低額に抑えられていることも医薬品不足の要因として考えられるものの,市販薬についてはある程度供給されていることから,国が保険薬を外してOTC 化を進めようとしているのではないかとの意見も挙がった。
 その他,長引く医薬品不足の現状について患者に周知を図ることで,医療機関や薬局の窓口でのトラブルを回避できるとの提案や,医薬品の偏在に対しては,卸が自社に都合がいいように流通をコントロールすることを防ぐためにも,中立公正な機関が適正に配付するような仕組みを検討すべきとの意見が出された。
 府医からは,後発医薬品については先発医薬品と同等の効果があると担保するものがなく,経験的に使用されているのが現状であり,そのあり方に問題があると指摘。後発医薬品の使用を推進するのであれば,後発医薬品の安定供給と品質を担保する仕組みが構築された上で行われるべきであると引続き主張していく考えを示した。

府医からの連絡事項

東山医師会との懇談会参照

保険医療懇談会

 基金・国保審査委員会連絡会合意事項について解説するとともに,個別指導における主な指摘事項について資料提示した。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。

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