2025年3月15日号
左京医師会と府医執行部との懇談会が1月18 日(土),ウェスティン都ホテル京都で開催され,左京医師会から27 名,府医から9名が出席。「かかりつけ医機能報告制度」,「会員増加への取組み」,「医師偏在対策」をテーマに議論が行われた。
※この記事の内容は1月18 日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。
「かかりつけ医機能報告制度」が創設された経過については,財務省が新型コロナウイルス流行当初にかかりつけ医機能が十分に機能しなかったとして,かかりつけ医機能の要件を法制上明確化することによってかかりつけ医を登録制とする「かかりつけ医の制度化」を主張したことに対して,これらはフリーアクセスを著しく制限し,多くの医療機関に多大な影響を及ぼすとともに,その先に患者一人あたりの定額制の導入を見据えた医療費抑制を目的としたものであるとして,日医がこれを阻止すべく政府や国会議員等に積極的に働きかけた結果,令和5年5月に成立した「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」において,令和7年4月から「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」を行うこととなったものである。これは,「かかりつけ医の制度化」ではなく,「かかりつけ医機能が発揮される制度」であって,財務省が狙っていた法制上の明確化や認定制,事前登録は阻止した形である。
その主旨は,国民・患者がそのニーズに応じてかかりつけ医機能を有する医療機関を選択できるための情報提供を強化するとともに,地域の実情に応じて各医療機関が機能や専門性により連携しつつ,自らが担うかかりつけ医機能の内容を強化することで地域において必要なかかりつけ医機能を確保することとされ,制度整備にあたっては日医の考え方が基となっている。「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」では,具体的に「医療機能情報提供制度の刷新」,「かかりつけ医機能報告の創設」,「患者に対する説明」の実施をその内容としている。
その後,厚労省の「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」が令和6年7月末にとりまとめた「議論の整理」のポイントは,①かかりつけ医機能は診療科にかかわらず報告できる,②かかりつけ医機能に関する研修を修了していなくても報告できる,③第1回目の報告は令和8年1月~3月の予定―の3点である。
報告の対象となる医療機関について,当初,財務省などからは「一定の疾患や症状に対応できること」や,「研修を修了した医師がいること」を要件とすることが提案されたが,日医がかかりつけ医機能を地域で面として支えるために,できるだけ多くの医療機関がかかりつけ医機能を持てることを最優先とするよう主張した結果,診療科は限定されず,研修の修了も要件化には至っていない。
報告内容については,「1号機能」と「2号機能」があり,1号機能は「継続的な医療を要する者に対する発生頻度が高い疾患に係る診療その他の日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能」として,①「具体的な機能」を有することおよび「報告事項」について院内掲示により公表していること,②かかりつけ医機能に関する研修の修了者の有無,総合診療専門医の有無,③ 17 の診療領域ごとの一次診療の対応可能の有無と一次診療を行うことができる疾患―を報告事項としている。②については,あくまで有無だけを報告すればよく,「無」であっても要件を満たさないというものではない。
この「1号機能」を有する医療機関が「2号機能」を報告することとなっている。そのため,1号機能については多くの医療機関が手を挙げることが重要になると考えている。
2号機能の報告については,(1)通常の診療時間外の診療,(2)入退院時の支援,(3)在宅医療の提供,(4)介護サービス等と連携した医療提供―等となっている。かかりつけ医機能報告制度の施行は令和7年4月であるが,これから具体的な内容が決まり,実際に報告するのは令和8年1月~3月の予定である。
府医としても,「地域包括ケアシステム」の構築に向けて取組みを進めてきたところであるが,地域包括ケアシステムの中心的な役割を担うのが「かかりつけ医」であり,「かかりつけ医機能」であって,1人の医師がすべて担うのではなく,地域のすべての医療資源を活用することによって必要な医療を必要な時に,また,継続的に提供することができる,まさに医療をコーディネートする機能であると考えている。地域の中で,患者を通じて普段から医療機関同士の連携を深めることによって,各医療機関がそれぞれの役割を理解し,機能を高め,お互いに助け合うことで,地域における面としてのかかりつけ医機能のさらなる充実を目指していくことが重要である。
〜意見交換〜
その後の意見交換で,地区からは,かかりつけ医機能報告制度によって,地域の医療機能が「見える化」されることによって,医療機能が過剰な地域に対し,国として施策がとりやすくなってしまうのではないか,との懸念が示された。
医師会の会員増加に向けて,各地区において研修医の会費無料化に積極的な取組みを進めていただいているところであるが,府医としても,従来から会員の増加を図るべく,勤務医や研修医の先生方を対象とした取組みの充実を図るとともに,入会の具体的なメリットとして,①日医の医師賠償責任保険,②医師年金,③医師資格証(HPKIカード)の取得・更新,④生涯教育制度の充実,⑤産業医・健康スポーツ医に係る研修の受講・認定,⑥福利厚生として,府医「融資斡旋制度」,㈲ケーエムエー「所得補償保険」,⑦ワークライフバランス支援として,「子育てサポートセンター」(一時預かり施設)の利用―等を示してきたところである。
これらはいずれも「実利」としてのメリットであるが,医師会に入会する理由として最も重要なことは,医療の専門家集団として医師会の組織力を強化することが,国の医療政策への提言力を増強し,結果として医療制度を守ることになり,また,そのことが医師自身の職務を全うできる環境の実現に繋がるということをご理解いただくことだと考えている。
昨年度から本格的に運用を開始している「KMA.com」など,様々なチャンネルを通じて勤務医や研修医など若手医師にも情報発信し,これらのことをしっかりと理解していただけるよう地道に働きかけていくことが重要である。
日医においても,松本日医会長の就任以来,「医師会の組織力の強化」を第一の課題に掲げ,会費の減免をはじめとした積極的な対策を進めているところである。医療に関する制度や政策がいったん決定すれば,すべての医師がその決定に縛られることになるため,財務省を中心とした医療費削減への圧力が増す中において,医療界が求める制度や政策を実現するためには,政策決定へのプロセスにより深く関わり,医療現場の意見を反映させていくことが重要である。そのためには,「組織力」が極めて重要であり,発言力をより強いものにするためには,会員数を増やし,「医師みんなの総意である」として,その提言を後押しする必要がある。
日医の組織率は2000 年の60.4%をピークに,以降は低下の一途を辿り,2020 年に51.2%まで低下。医学部卒後5年目までの会費減免など,組織強化の取組みによって,現在は51.25%と上昇に転じているが,まだまだ予断を許さない状況である。各地区医においても,若手の先生方に日医までの入会を呼びかけていただくなど,より一層のご協力をお願いしたい。
〜意見交換〜
その後の意見交換では,地区から改めて,諸経費の上昇にともなう医療機関の負担増への支援等,具体的な取組みが提案された。一例として,お薬手帳を府医にて大きなロットで作成し,必要な医療機関に配付あるいは会員価格で販売することで,会員医療機関だけでなく,患者にとってもメリットになり,さらには,作成したお薬手帳に「京都府医師会」と印刷しておくことで,医師会の活動がアピールできるのではないかとの意見が挙がった。
また,府医からは,新規開業にあたってディベロッパーが医師会への入会は不要と吹聴する事案等が各地区においても報告されていることから,開業する前の勤務医の段階から医師会に入会していただくことが重要であり,会員の状態で新規開業していただくことで,府医としても開業支援が可能になるとの考えを示した。
医師偏在に対しては,財務省が「骨太の方針2024」に基づき,地域間,診療科間,病院・診療所間の偏在是正に向けた強力な対策を講じる必要があると指摘し,新たな診療報酬上のディスインセンティブを組み合わせることが有効であると主張している。具体的には,特定の地域で診療科の医療サービスが過剰と判断される場合に「特定過剰サービス」として減算することや,地域別単価の導入,病院勤務医から開業医へのシフトをとどめる診療報酬体系の適正化―を打ち出している。
また,自由開業制・自由標榜制の課題にも言及し,人口減少が進む中では医師の偏在の拡大に繋がっていると問題視した上で,その解決に向けては,保険医療機関の指定を含む公的保険上の指定権限のあり方に踏み込んでおり,具体的には外来医師多数区域で保険医の新規参入に一定の制限を設けることに加え,既存の保険医療機関も含めて需給調整する仕組みを創設すべきと提案している。
日医としては,一つの手段で解決するような魔法の杖は存在せず,解決のためには,あらゆる手段を駆使して複合的に対応していく必要があることから,①公的・公立病院の管理者要件,②医師少数地域の開業支援等,③全国レベルの医師マッチング支援,④保険診療実績要件,⑤地域医療貢献の枠組み推進,⑥医師偏在対策基金の創設―等の取組みを進めるべきとの考えと示しており,厚労省の医師偏在対策推進本部から公表された医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージに対しては,「日医の意見がおおむね盛り込まれた」との見解を示している。
今後のスケジュールについてはまだ不透明であるものの,リカレント教育の支援や全国的なマッチング機能の支援は比較的早く始められるのではないかと考えている。経済的インセンティブや第8次医師確保計画などは今後どうなっていくのか,引続き注視していく必要がある。
〜意見交換〜
意見交換では,医師本人に医師少数地域で働く意思があったとしても,家族の反対によって実現しないケースもあるため,医師偏在対策には家族対策も併せて必要であることが指摘された。また,医師は,患者のいるところで開業することを考えると,医師偏在対策の前に,政府による人口の偏在対策が必要との指摘がなされた。