理事解説 百考千思 ひゃっこうせんし

令和8年6月診療報酬改定の概要とポイント

理事 小柳津 治樹

 令和8年度(2026年度)診療報酬改定率は,本体が30年ぶりの3%超となる3.09%で決着した。薬価・材料改定分(▲0.87%)を差し引いた全体でも12年ぶりのプラス改定となることから,いわゆる「真水の財源」が手当されたと言える。また,3.09%は令和8年度2.41%,令和9年度3.77%の2年間の平均とされ,段階的な改定率が初めて設定された。今後も物価や賃金が上昇することを見据えた改定率となっている。なお,本体の内訳は,賃上げ対応分が+1.70%,物価対応分が+0.76%,食費・光熱水費分+0.09%,前回改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応分+0.44%,その他改定分+0.25%,適正化・効率化▲0.15%とされた中,病院,診療所の施設類型ごとの配分も定められている。例えば,医療機関にとって増益要因となる緊急対応分0.44%の内訳は,病院+0.40%,医科診療所+0.02%と病院に手厚く配分されている。
 今回の診療報酬改定は,物価・賃金上昇への対応と医療従事者の処遇改善を柱としながら,2040年ごろを見据えた地域包括ケアシステムの推進が改定の基本的視点とされているが,以下のポイントが挙げられる。

<医療機関の物価高騰と賃上げへの対応>

 新設された物価対応料は,届出不要ですべての医療機関が算定できることに加え,段階的に点数が引上げられる制度設計となっていることから,物価高騰への対応として一定の前進であり評価できる。人件費だけでなく,医薬品・医療材料・食材料費,光熱水費,委託費などの上昇が医療機関経営を圧迫していることを踏まえて,診療報酬により財政的な下支えを強化したものであるが,一方で,本点数のみでは,現状の物価上昇や医療機関の経営環境を改善させるには不十分である。時限的な加算ではなく,物価上昇等に対応できる恒常的な仕組みを構築する必要がある。ベースアップ評価料については,医療現場の生産性向上と組み合わせながら,幅広い職種の賃上げにつなげることが重要視されている。これは,医療提供体制を維持するための「人材確保」を診療報酬上の重要課題として明確に位置づけたものであり,点数の引上げや届出様式の簡素化がすすめられてきたことは評価できる。一方で,小規模な診療所の届出率が低い背景には,いわゆる年収の壁や,配偶者控除,家族手当等との関係が大きな障壁となっており,さらに,給与支払いや報告書の作成等に係る事務負担の大きさが課題であり,その他,さまざまな要因があると考える。よってすべての医療機関が,医療従事者の賃上げや処遇改善を行うためには,届出や報告が必要なベースアップ評価料ではなく,基本診療料を引上げ,医療機関の実情に応じて賃上げや福利厚生の充実に活用できるようにすべきである。

<外来医療について>

 複数の医療ニーズを抱えた高齢者が増加する中,身近な医療機関が患者の生活背景や多疾患を踏まえて継続的に診療し,必要に応じて専門医療機関や入院医療につなぐ役割が重要となる。前回改定で大幅な見直しが行われた生活習慣病管理料について,今回様々な是正が行われている。療養計画書の患者署名が不要となり,糖尿病以外の薬剤の在宅自己注射指導管理料が併算定可とされた。また,生活習慣病管理料(Ⅱ)では,医学管理の点数(特定薬剤治療管理料,悪性腫瘍特異物質治療管理料,傷病手当金意見書交付料など)が包括範囲から除外されたことから診療報酬の増額が期待できる。地域包括診療加算・料についても,対象疾患が拡大されたことや,連携薬局の要件見直しがあり,前回と比べ比較的算定のハードルが下がった。「かかりつけ医」としての機能を評価する仕組みであり,診療所にとっては,収益安定化の一助となる加算であると考える。機能強化加算や外来管理加算については,財務省側からの廃止や見直し要求に,日医が中医協等で反論した結果,死守しえた加算とも言える。それぞれ創設された経緯や評価対象が異なることを考慮せず,単純に一括りにして廃止・統合することは問題である。財務省側は引続き,同加算の廃止・統合に加え,かかりつけ医機能報告制度と診療報酬の紐づけを目論んでおり,引続き注視が必要である。

<入院医療について>

 急性期医療については様々な見直しが行われ,特にこれまでの「病棟単位」の機能に加え,救急患者数と全身麻酔手術件数など「病院単位」の機能に着目した「急性期一般入院基本料A・B」が新設された。既存の急性期一般入院基本料1~6も残ることから,各病院は自院の状況に応じて選択していくことになる。また,看護職員と多職種を組み合わせた配置を評価する「看護・多職種協働加算」の新設や,総合入院体制加算と急性期充実体制加算を統合した「急性期総合体制加算」の新設など様々な見直しが行われている。救急医療や高度急性期医療を担う病院を評価するとともに,「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担を明確化し,2040年を見据えた医療提供体制の構築を目指す方向性については,一定の評価ができるが,大規模病院と中小規模病院との格差が拡大することが懸念される。今後の診療報酬では,機能分化や集約化だけではなく,地域の実情に応じた柔軟な機能分担を可能とし,「治し支える医療」も適切に評価されなければならない。

<さいごに>

 人件費,医療材料費,光熱水費,委託費,設備維持費,建築費等が大幅に上昇しているが,医療機関は公定価格で運営されているため,一般企業のようにコスト上昇分を自由に価格転嫁することができない。しかも,近年の診療報酬改定は,医療費の抑制を前提とした財源論が先行している。生産年齢人口が激減する中で地域完結型の医療提供体制を整備するには,診療行為に対する材料や設備などのコストと人件費が正当に評価されるべきであり,診療報酬のあり方について見直す時期に来ていると考える。
 京都が今期の主務地を務める近医連や日医等の会議で,診療報酬改定の課題等について問題提起していく所存であり,会員の先生方には,現場での幅広いご意見を府医にお寄せいただきたい。

2026年9月15日号TOP